事例集

2022.12.27 06:00

安値受注が多かった運送業で、データを示し理解してくれる顧客を大切にし、保育園経営からサッカースタジアム創設まで実現 中田商事(三重県)

安値受注が多かった運送業で、データを示し理解してくれる顧客を大切にし、保育園経営からサッカースタジアム創設まで実現 中田商事(三重県)
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産経ニュース エディトリアルチーム

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自社サーバーのクラウド化を機に、デジタル・タコメーターを連携させた労務管理をより効率化するため、販売・労働・安全管理システムを新たに導入。UTM機能を持つゲートウェイセキュリティシステムで守りを固め、運送・倉庫業の事業拡大を図りながら保育園事業から少年サッカーチームの運営、果てはサッカースタジアムまで創ってしまった、三重県伊賀市の「模倣困難企業」。(TOP写真:中田純一社長)

阪神・淡路大震災から始まった運搬の仕事

1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災。被災した街の一日でも早い復興を図ろうとする企業の依頼で、倒壊家屋の輸送を開始することになった中田純一社長ダンプと平ボディトラックを1台ずつ購入し、弟と2人で倒壊した家屋やうず高く積まれたがれきを運び始めた。緊急の要請であったため見なし許可での認可を取得しての創業だった。道路やインフラも混乱する中、当時は全国から400台以上のトラックがはせ参じたという。

しかし平ボディのトラックには荷下ろし機能がないため、その業務から外れてくれと言われた中田社長は、借金で購入したトラックを遊ばせておくわけにもいかず、関西圏の工場にかけ合い、工場出荷する荷物の専属車として一般運送を開始した。

当時は産業廃棄物運搬に関する法律も頻繁に改正される時期で様々な対応を迫られたが、一般の運送と産廃運送の管轄省庁への対応策として、会社を二つに分割し運用に当たった。やがて運送業全般も法律的に厳しくなってきたが、中田社長は事業の継続を図るためには合法性が重要だと判断。針の穴を通すような苦心を重ねながら合法的な道を進んできた。

多くのトラックが活躍するようになった

多くのトラックが活躍するようになった

「当たり前のことを、当たり前に」の精神が貫いてきた様々な困難への挑戦と克服

これを社長は「当たり前のことを、当たり前に」やってきた成果だと笑うが、今でも同業者から「模倣困難企業」と言われるゆえんがある。社歴も信用もない企業が借り入れできる環境を作るためには合法性が欠かせないと判断したからだ。

通常、中小の運送業者では主な得意先は定期契約で受注可能な6〜7社から請けるのが一般的だが、株式会社中田商事は得意先との定期契約よりも単発でのスポット発注を選んで請け、合法性を理解してくれる企業と取引してきた。価格競争に血眼になる業界の中でそうしたことを主張すること自体、自ら墓穴を掘るような行為だというのが常識だった。中田社長はあえて価格競争に巻き込まれやすい定期契約を避け、十数年の期間をかけて、多い時で150社以上の取引先からのスポット発注を請けながら、根気良く理解してくれる企業との交渉を重ねた。

その結果、60〜70社の企業と良好な関係を築き上げることができ、社長が思い描いてきた形になっていったという。針の穴を通すような合法性の主張が多くの企業に受け容れられたのは、合法性を遵守してくれた得意先の理解を得て信頼関係を築いた努力があった。ドライバーの質の向上のための教育や運送ルートの提案力。コンピューターを駆使した原価表を提示した上での価格交渉など、それを中田社長は「当たり前のことをしてきただけ」と笑う。

中田純一社長

中田純一社長

10年以上前から取り組んできた「データ(根拠)を示す」企業姿勢を可能にしたデジタコの登場

得意先との交渉には理論武装が欠かせないと確信してきた社長の前にある時、願ってもない救世主が現れた。それがデジタコ(デジタル・タコメーター)だ。このツールの出現でドライバーの作業状態や運転記録など、不法に改ざんできないデータを発注元に示せるようになり、合法的な理論武装が可能になったという。「データ(根拠)を示す」企業姿勢の会社が、疑われる余地なく根拠を提示できる環境になったのだ。

「デジタコがなかったら現在はない」と言うほどそのデータが役割を担ってきた背景には、運ぶ荷物を求めるニーズと運搬会社を求めるニーズの出会いの場となる求荷求車情報を提供する物流ネットワークシステムの出現など、インターネット上で仕事のやり取りができる環境が整ってきたことがある。加えて、運賃を上げてでもレベルの高い車輌やドライバーのいる運送会社に頼みたいという荷主が増えてきたことも後押ししてくれた。社長が目指した当たり前の姿が点から線になり面になっていったのだ。

理論武装を支えたデジタル・タコメーター

理論武装を支えたデジタル・タコメーター

新たな販売管理システム、労務管理・安全管理システムの導入も「当たり前のことを、当たり前に」の一部

今2022年に入ったあたりから自社サーバーの老朽化を機にクラウドへの移行を決め、同時に拠点ごとに分かれていた情報をクラウドに集約。新たに販売管理システム、労務管理・安全管理システムを導入。それらをデジタコから送られてくるデータとリンクさせ、事務の効率化と共有化を開始した。

以前はドライバーがどんな運転をしているか把握できない状態で、遠方から苦情が来たこともあった。デジタコからの情報をオンタイムで管理できるようになってからは、スピードオーバーした時点で事務所のアラームが鳴りすぐに警告できるようになり、月計で一覧が評価件数として現れるため違反も激減し、同業者から褒められたりお褒めのお電話をいただいたりするようになったという。こういった状況を一つひとつクリアしながら、国からのDX助成金も活用しつつ、製造業の管理手法を採り入れた中田商事独特の手法で、今ここにいないドライバーの管理ができる仕組みを作り上げてきた。こうした経験が功を奏し、今回のシステム導入もスムーズに行えたという。同時に全社的な情報管理のためUTM機能を持つゲートウェイセキュリティシステムも採り入れた。この機に合わせてホームページでも自動問合せ対応や採用管理システムを有する自社ブログも更新中であり、幅広い層への広報機能やリクルート機能の向上も目指している。

中田商事は経済産業省が選定する「IT経営100選」に選ばれたこともあり、早くからデータの重要性を認識してきた企業でもある。中田社長が創業当初から求めてきた運送会社の理想形に近づきつつある現在、本社や四日市営業所内で始めた倉庫業も順調に規模を拡大。倉庫の数も10ヶ所に増え、経営の安定化に寄与している。今後は固定費が抑えられる自前の倉庫を増やす計画で、伊賀という地の利を生かした幅広い地域からの受注を促進し、運送業への受注拡大も図っていく計画だ。中田社長の「当たり前」精神は、必然的にICT化を推進することにつながっている。

 販売・労務・安全管理システムを導入した事務作業

販売・労務・安全管理システムを導入した事務作業

女性活用を実践した先にあった「どんぐり保育園」事業の思わぬ成果

トラックドライバーと言えば頭脳より体力勝負で、時には理不尽な要求をする男の世界というイメージが定着しているが、そういう世界で生きてきたからこそ中田社長は早くから女性の能力を高く評価してきた。その能力を強く印象付けられたのが、15年前から経営してきた少年サッカークラブで審判を務めていた女性に出会ったことだった。その女性は仕事をしながら1級審判の資格取得を目指していたが、なかなか思うような職業に出会えていなかった。

早速面接した中田社長は、女性をドライバーとして採用することを決め、大型免許を持っていない本人のために新しい仕事も見つけてきた。そのおかげで女性は毎年夏と冬に開催されるWE(ウィー)リーグの審判に出かけることも可能になり、1級審判の資格も何回かの挑戦で無事に取得することができたという。自分の人生設計をきちんと考えている女性に機会を与えたいという企業姿勢が垣間見られるエピソードだ。

また7年前に催された同業他社の勉強会に出かけた中田社長は、ある著名なタクシー会社が5〜8時間勤務で女性も運転手として働けるよう、資格取得の援助と子供を預かる保育園を運営していることを聞き、自社でも可能ではないかと企業主導型保育園の設立を決めた。「どんぐり保育園」と命名した保育園の設立当初は入園児童も少なかったが、待機児童ゼロの4歳児以上ではなく0歳〜2歳児に特化したところ、多くの子供たちが来園するようになったという。

企業主導型保育園「どんぐり保育園」

企業主導型保育園「どんぐり保育園」

この保育園にも運送業で始めたローテーション方式を採用し、持ち帰り仕事も残業もなく有給休暇も取れる、従業員一人ひとりの都合に合わせたローテーションを組んでいった。そして4年前からは派遣会社も作り、子供を預けている母親も事務職やスーパーのレジ打ち等への派遣業務へ就くことを可能にしている。

大型免許を持つ女性ドライバーも活躍している

大型免許を持つ女性ドライバーも活躍している

サッカー少年たちへの思いは、スタジアム創設へと結実

当たり前ではない「当たり前」を次々に実行してきた中田社長だが、2005年頃から始めていた少年サッカーチームの運営は、地元のサッカーチームになじめない社長の2人の息子たちのために新しいクラブを立ち上げたのがきっかけだ。NPO法人でチームを起こしJリーグ・ジュニアクラブとの試合経験などを重ね、立ち上げ3年後には三重県大会で優勝するまでになった。

「チームを強くするには、勝つことばかりに気を配るのではなく、素直で積極的な子供たちを育てること。そこを軸にすれば、結果として強くなるんです」。勝ち負けよりも人間づくりを優先する育成の姿勢が、今日の成果を生んでいると言える。男性や女性という垣根を越えた考え方が、成人や子どもという垣根も越えて見せた実例だ。本質を重視し、素直にまっすぐに物事に立ち向かってきた中田社長の「当たり前」は、やはりここでも生きていた。今までこのチームからの卒業生は200名程度だが、そこからJリーガー3名、プロ契約選手3名、日本代表選手1名が育っていった。

サッカーチームも保育園もそのニーズを見つめてきた結果生まれた事業であり、これからも力を入れていきたいと言う中田社長が地域のために創設したのが、日本で初めての子供専用スタジアム「どんぐりパークこどもスタジアム」だ。150社以上の企業からの賛同を得、マスコミからも注目されるこのスタジアムの誕生は、地元経営者や有識者からも賞賛され感謝される結果となっている。このスタジアムは主に少年サッカーの練習や試合で使われるが、曜日によってサッカー以外のプログラムも実施する予定になっており、学童保育との連動も考えていきたいと未来への抱負を語ってくれた。

2022年完成の「どんぐりパークこどもスタジアム」

2022年完成の「どんぐりパークこどもスタジアム」

早くからICTを活用してきたことで、データを管理者全員で共有し、対策を練っていく段階に入った

2019年から順次施行が開始された働き方改革関連法は、元々は2010年4月からの施行で2015年から適用される予定だったものが大きく遅れ、2024年4月から罰則付き上限規制が適用されることになったものだ。だが中田商事では既に2010年10月から適法運用を目指し着々と実施に移してきた。

業界内ではいまだに準備できていない企業や準備中という企業が目立つ中、この会社ではもう既に合法的な運用が当たり前になり、日々得られる様々なデータを本社や営業所に常駐する管理者全員が共有。ドライバーや保育士がより働きやすく、よりやり甲斐のある労働環境にするために分析を重ね、新たな対応策を随時実行していく段階に入っている。「情報を一元化できたことで各拠点の管理者同士の情報の共有化も進み、労務管理の効率化や事務時間の削減にもつながっています」と、同席してくれた藤森純子情報管理室長もクラウド化やシステムの連携を高く評価している。

社内の情報一元化を推進している藤森純子情報管理室室長

社内の情報一元化を推進している藤森純子情報管理室室長

トラックドライバーの過重労働や値引き競争を防ぐ目的で国が推進する「ホワイト物流」や働き方改革法の施行は、既に始まっていると言っても過言ではない。その中で合法的な環境を作り上げていくには、ICTを活用したデータによる理論武装が不可欠。「それに必要なシステムづくりを実施し、荷主や得意先に理解してもらうすり合わせを重ねることで道は必ず開けてくるものです」と中田社長は断言する。

悪路ほど威力を発揮する四輪駆動車のような社長のもと、この会社はどこまで高度な「当たり前」を実行に移しどこまで事業を拡げていくのか、興味は尽きない。

本社屋と本社倉庫

本社屋と本社倉庫

事業概要

会社名

株式会社中田商事

本社

三重県伊賀市荒木野々浦893-1

電話

0595-26-3535(代)

創業

1995年4月

従業員数

64名

事業内容

一般貨物運送業、倉庫業、産業廃棄物収集運搬業、特別管理産業廃棄物収集運搬業、古物売買及びその受託販売、軽貨物運送事業、企業主導型保育事業

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