事例集

2022.10.05 06:00

ICT導入で、柔軟な若手と経験豊富なベテランの相乗効果。新たな建設会社のモデルをつくる 米杉建設(奈良県)

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奈良県天理市の建設会社、株式会社米杉建設が成長策としてICT導入と若手社員の採用を両輪で進めている。新しいことに取り組む姿勢を示すことで若者の気持ちをつかみ、人材確保と事業の成長につなげる好循環を生み出している。

建築、土木、住宅、不動産をバランスよく運営

建築、土木、住宅、不動産の各事業をバランスよく運営し、相乗効果を発揮しながら成長を図るのが米杉建設だ。創業時から取り組んでいる土木事業は、地元の公共工事から民間の宅地造成、建物外構工事から小規模工事まで幅広い実績を誇る。住宅では10年以上前から太陽光発電施工に力を入れ、高気密・高断熱住宅の販売に力を入れている。建築部は、土木、住宅、不動産の各部門と連携し、公共施設をはじめ工場、倉庫、店舗、オフィスなど様々な施工を請け負っている。
「設立以来半世紀を超える歴史の中で、提案力を磨き、堅実に取り組むことを大事にしてきました。地域から信頼され、地域から求められる企業であり続けたいと思っています。事業は順調に拡大していますが、建設業界は今、大きな変化の波にさらされており、ICTをはじめとする新しい技術に目を向けていかなければならないと痛感しています。会社が大きなターニングポイントに立っているということを意識して日々取り組んでいます」。奈良県天理市にある米杉建設の本社で米杉伸喜社長は表情を引き締めて話した。

米杉伸喜社長

米杉伸喜社長

20代社員が4分の1近くを占める

技能者の高齢化や生産年齢人口の減少で、建設業界は恒常的な働き手不足に悩んでいる。その中で事業を拡大している米杉建設は、近年、社員を増やしてきた。この5年間で社員数は10人増加し、そのほとんどが20代だ。社員の中で20代は4分の1近くを占める。
採用活動の指揮は社長の長男、米杉英哲取締役が執っている。米杉取締役は、5年前に28歳で米杉建設に入社するまでゼネコンに勤務していた。「ゼネコンでの経験を通じて、建設業界の仕事の醍醐味や働きがい、改善していかなければならない課題を知ることができたのは、若い人が魅力を感じる会社づくりを進めていく上での大きな財産になっています」と米杉取締役は快活に話した。

米杉英哲取締役

米杉英哲取締役

若い人材の加入は中堅、ベテランへの刺激になる

米杉建設は若手の採用とICT導入を両輪で進めている。無線アクセスポイントを増設し、ファイルサーバーを最新機種に更新するなど社内のネットワーク環境を整備してきた。「デジタル化の新しい流れに対応しながら、これまで会社で蓄積してきた技術を次の世代に伝えていかなければなりません。新しい人材が加わることは、中堅、ベテランへの良い刺激になりますし、会社の成長には不可欠です。これからも若い人材の採用を積極的に進めていくつもりです」と米杉取締役。

ホームページを通じて若手社員が会社の情報を発信

採用活動の一環として、学生のインターンシップを積極的に受け入れている。ホームページでは採用情報のページを設け、業務内容や社内の雰囲気について若手社員たちのコメントを掲載している。入社4年目の土木部の橋本重男さんは和気あいあいとした社内の雰囲気に魅力を感じて入社を決めたといい、「デジタル技術のおかげで年々、新しいことに取り組める可能性が広がっているように思います。新しい機器やシステムの活用に機敏に対応していくことで会社に貢献していきたい」と意欲を見せた。

橋本重男さん

橋本重男さん

ICTで女性が活躍するフィールドを広げたい

女性活用にも積極的に取り組んでいる。施工管理の担当者として入社3年目の女性社員が現場で活躍しているほか、今年4月にも技術系で新卒の女性社員が入社した。「建設は力仕事といったイメージが強く、女性が就職を希望しにくい業界であることは否定できません。しかし実際のところ、設計や施工管理など女性が活躍しやすい部署は数多くあるんです。ICTを活用すれば女性が活躍できるフィールドはもっと広がるはず。多様性を重視して女性が働きやすい環境と制度を整えていくことは、会社を成長させていく上での重要なテーマと思っています」と米杉取締役は話した。

本社にいる人は電子黒板、現場にいる人はWeb会議システムを使って全員参加の会議を実施

複数の事業部に所属する様々な年齢層の社員をまとめていく上で、米杉建設が大事にしているのがコミュニケーションだ。社員が増え続ける中で円滑なコミュニケーションを維持するために、積極的にデジタル機器を活用している。
その一つが昨年末に導入した電子黒板。会社の全体会議や建築、土木の部署ごとの会議、就職希望者向けの説明会で大型ディスプレイとして活用している。会議は原則本社で開催しており、本社から離れた現場を担当している社員は繁忙期には参加できないことがあったが、Web会議システムと組み合わせることでほぼ全員が参加できるようになった。
「画面が大きいので、オンラインで参加している社員の表情や反応を実際の会議と同じように把握できるので非常にありがたい」と米杉取締役。就職希望者向けの説明会では、会社についての資料や作業現場などの様子を編集した画像を映すようにしている。

米杉建設のオフィスの様子

米杉建設のオフィスの様子

「社員同士が直接顔を合わせて話し合うことをこれまで通り大切にしながら、ICTを活用した新しいコミュニケーションの取り方を探っていきたいと思っています。明確に業務の効率化が期待できるケースと期待しにくいケースをしっかりと仕分けして、米杉建設ならではのICT活用のノウハウを積み重ねていきたい」と米杉取締役は話す。今後、名刺管理システムの活用も検討している。会社内で取引先の情報を共有化しておくことは仕事の属人化を解消することにつながる。働き方改革と共に発注者や取引先からの問い合わせに素早く対応できるようにしたいと言う。

建設キャリアアップシステムに強い関心

米杉建設は国土交通省と建設業団体が普及を進める建設キャリアアップシステム(CCUS)にも強い関心を寄せる。CCUSは技能者としての資格や現場での就業履歴などをICカードに登録・蓄積することで、技能と経験を客観的に評価できるようにしたシステム。建設業界で働く人たちが能力や経験に応じた処遇を受けやすい環境を整える鍵になると期待されている。情報がデジタル化されているので元請け企業にとっても施工体制台帳、作業員名簿の作成といった事務作業を効率化できるメリットがある。建設キャリアアップシステム義務化への動きが進んでいることを受け、今後、下請け会社にCCUSへの登録を要請していく方針だ。

デジタル機器の操作が得意な若手と、現場での経験・技術・知識を豊富に持ったベテランとの相乗効果を期待

建設現場でもハードとソフトの両面でデジタル技術を活用している。ICT建設機械の使用を条件にした工事の受注に力を入れる一方、スマートフォンの画面上で、位置出し、丁張りといった本来は複数で行っていた測量作業を1人で行うことを可能にするアプリケーションを導入している。上空からの測量、写真撮影、点検用にドローンも活用。小型軽量で衝撃に強く、ヘルメット等に装着することも可能な動画撮影用カメラとWeb会議システムを使って、発注者にリモートで段階確認、材料確認、立会などを行ってもらう遠隔臨場も行っている。現場に足を運ぶ回数を減らし、時間を有効活用できるので発注者から喜ばれているという。
「デジタル機器に対する順応は若い世代の方が圧倒的に速いのは確かです。導入に対する提案も積極的です。デジタル機器の操作が得意な若手と、現場での経験・技術・知識を豊富に持ったベテランや中堅が相乗効果を発揮できるようにしていきたい。最初は抵抗があっても、便利であることがわかればベテランや中堅も自然とデジタル機器に馴染んでいってくれると思うので、導入については無理をせずに進めていきたいと思っています」と米杉取締役はデジタル機器導入の方針について話した。

ICTを活用した新しい組織づくりを目指す

米杉取締役は更なる成長を実現するには新しい組織づくりをしていかなければならないと感じている。大きな強みとなっている建築、土木、住宅、不動産各事業の連携をICTの活用で更に強化することも視野に置いている。「地元の建設業界はICT活用の面でアピール不足の面があると思います。若い人たちに将来性を感じてもらえるように、これまでの業界のイメージを変える取り組みを率先して進めていきたい」と米杉取締役は先を見据えている。
若い力とICTの組み合わせが、建設会社の成長にどのような効果をもたらすのか。米杉建設の取り組みに今後も注目していきたい。

米杉建設の本社の外観

米杉建設の本社の外観

事業概要

会社名

株式会社米杉建設

本社

奈良県天理市蔵之庄町49番地1

電話

0743-65-3151

設立

1968年11月

従業員数

47人

事業内容

建築工事、土木工事、住宅工事、太陽光ソーラー販売及び施工、不動産

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