事例集

2022.08.10 06:00

アナログ技術の継承を大事にし、ICTで従業員を支援するデジタル社長 プラントリイ(兵庫県)

アナログ技術の継承を大事にし、ICTで従業員を支援するデジタル社長 プラントリイ(兵庫県)
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兵庫県中西部の「たたら製鉄」ゆかりの地域で金属加工業を営むプラントリイが、IT業界出身の社長の下、デジタル技術を取り入れた新しいものづくりを目指している。

たたらの里で鍛冶屋として創業、現在は中・大規模の電気設備の筐体を製造

兵庫県中西部の宍粟市千種町(しそうし ちくさちょう)は、古代より続いた砂鉄を利用した製鉄「たたら製鉄」が行われた地域。プラントリイは創業時の鍛冶屋の時代から、この地域で工場を構え、金属加工業に携わってきた。溶接などのものづくり技術を生かして、日本の電力インフラを支える配電盤や制御盤といった電気設備の筐体(金属製の箱)を製造し、大手の電機メーカーに納めている。

社長自ら社内の業務システムを開発、作業工程の見える化を実現

元システムエンジニアの鳥居史郎社長

元システムエンジニアの鳥居史郎社長

2009年に先代から事業を受け継いだ鳥居史郎社長は、プラントリイに入社する前、IT企業でシステムエンジニアとしてシステム開発に従事した経歴を持っている。会社で使用している業務システムは、鳥居社長自らが開発したものだ。作業者の氏名、日時、作業に着手してからの時間をはじめ、検査、塗装、組み立てなど各工程の進捗状況が一目で把握できるようにシステム構築している。

日報をベースにした従業員の勤務時間や、工数、作業時間、材料や購入品などの費用を業務システムで簡単に集計できるように設計しているので、手間をかけずに見積書、請求書を作成することができるという。ただ、社内でシステムを構築できるのが鳥居社長しかいないため、後継のシステムエンジニアを育成することが目下の課題という。

デジタルを活用して働きやすい環境を

「会社のために私ができるのは、デジタル技術を活用して従業員が働きやすい職場環境を作ることだと思っています。筐体を製造する上で必要な溶接をはじめとする作業には、長い経験に裏打ちされた高い技術が要求されます。それゆえ、ものづくりと異なる業界で仕事をしてきた私が、現場でお役に立つのは簡単なことではありません。自分にできることで会社に貢献していきたいと思いながら、日々取り組んでいます」と、取材に訪れたプラントリイの本社で、鳥居社長は説明した。

熟練の技で筐体を製造する様子

熟練の技で筐体を製造する様子

作業日報のシステム化は、コロナ禍で一気に進んだ

その思いを反映して、2020年末に鳥居社長が新たに開発したのが社内日報のシステム化だ。鳥居社長は以前から、現場の従業員が手書きで作成した作業日報を事務担当者が集約した上で、社内の基幹システムに入力する一連の作業をデジタルで効率化したいと思っていた。だが、慣れた作業工程を変更することで現場の従業員が感じるストレスなどのマイナス面を考えると、なかなか決断できなかったという。

その流れが変わるターニングポイントになったのが、2020年初頭から日本を襲ったコロナ禍だった。「感染防止を徹底するためにさまざまな対策を進める中で、作業日報を従業員間で手渡しすることや、内線電話の共用、情報伝達のために集まることなどが感染リスクとして意識されるようになりました。従業員の不安を解消するために一気に動かなければならないと思いました」(鳥居社長)

プラントリイの工場の様子

プラントリイの工場の様子

従業員の負担を軽減する作業日報システム、それがQRコード活用だった

大前提は、従業員の負担を軽減できるシステム化だ。目を付けたのはQRコード。これなら端末に数字や文字を入力する手間はない。読み取るだけだ。鳥居社長の行動は素早かった。工場や物流倉庫の現場用に市販されていたリーダー端末を使って、作業日報をQRコード入力するシステムをICT企業と連携して短期間で開発した。溶接作業による高温や衝撃、騒音への耐性機能を備えた現場用のリーダー端末は、通常の端末より価格が高いという課題があったが、開発計画が兵庫県の産官で構成するNIRO(公益財団法人新産業創造研究機構)の支援事業として認定されたこともあり、全従業員分の端末をスムーズに導入することができたという。

プラントリイの工場ではいたるところに様々なQRコードが掲出されている。現場で働く従業員たちは、作業の着手や完了などの際に各項目のQRコードを端末で読み取る。そうすれば、自動的に日報としての記録が残る仕組みになっている。入力結果はパソコンからリアルタイムで確認することが可能。日報の集約作業は事務担当者が業務システムにデータを取り込むだけで完了する。工場で作業する従業員の負担の軽減と同時にデジタル化が行われ、工場も事務所も手作業がなくなった。しかも活用できるデータが残るようになった。

端末でQRコードを読み取る様子

端末でQRコードを読み取る様子

感染防止対策と業務効率化によって余裕のある仕事の取り組みへ

システム導入にあたり、デジタル化への不安を持つ年配の従業員にも配慮し、日報を手書きで記入する必要がなくなり、より簡単になるというメリットを丁寧に説明するようにした。「システムの導入によって日報の手渡しが必要なくなったことに加え、日報の作成に使っていた時間もほとんど必要なくなりました。その分、時間が生まれ、余裕を持って仕事に取り組むことができるようになりました。感染防止以上にこちらの効果の方が大きかったかもしれません」と鳥居社長は明るい表情で話した。

QRコード読み取り端末は、内線電話、グループ通話、ビデオ通話もできるので三密回避が可能

リーダー端末は音声通話、カメラ、無線LAN接続の機能も備えている。ネットワーク環境を充実させることで内線電話として活用することはもちろん、グループ通話も可能なので「三密」を回避して複数人数で打ち合わせすることもできる。カメラで製品を映しながらの打ち合わせもできる。

ビジネスチャットの活用により、蓄積されたナレッジに誰もがアクセスできる環境を構築

QRコード読取り端末を最大限活用するため、ビジネスチャット機能を持ったグループウエアサービスも利用している。日常の業務連絡、営業報告、社内ルールの伝達、作業手順、品質、納期変更指示、部署間の連絡などのあらゆるコミュニケーションで活用している。ここに蓄積されるコミュニケーションのやり取りは、社内の貴重なナレッジとなる。全ての社員が自ら検索して必要なナレッジにアクセスできるようになり、生産性の向上や品質向上、モチベーションアップにつながっている。

印刷時のデータ上書き機能で月1万5千枚の図面記入作業から解放

他にもプラントリイは、保存している取引先の図面データを印刷する際に、データに上書きしてプリントアウトできるツールを5年前から導入している。

様々な分野でデジタル化を進めているプラントリイだが、現場で使用する図面は見やすさを重視し紙に印刷して使うようにしている。印刷時のデータ上書きツールを導入する前は、図面を印刷した後、作業に必要な管理番号や数量、取引先の社名を、設計担当者が手書きで記入していた。月あたりの枚数は1万枚~1万5千枚にのぼるため、大きな負担になっていた。

「図面データに手を加えることなく、追加が必要な情報だけをその都度上書きして印刷できるので本当に使い勝手がいいです。本来の設計の仕事とは関係がない記入作業がなくなって、設計担当者の業務が劇的に改善しました」と鳥居社長は感想を述べた。

図面データの上書きツールを活用する様子

図面データの上書きツールを活用する様子

採用活動強化のため機動的に編集・発信できるホームページに変更

5月から企業向けホームページの作成システムを導入してホームページを一新し、情報発信に積極的に取り組んでいる。以前のホームページは外部に更新を依頼していたが、システムを新しくしたことで、機動的に情報を編集し、発信できるようになった。システムには、プラントリイがハローワークで公開している求人情報をそのまま掲出できる機能が備わっている。人材募集に力を入れていることもあって、採用管理の面で非常に使いやすいという。

「たたらの里」の歴史の魅力も自社ホームページから発信

自社のホームページの中で、たたらの里 宍粟市千種町の魅力を発信

自社のホームページの中で、たたらの里 宍粟市千種町の魅力を発信

宍粟市千種町は、1300年前の奈良時代初期に編纂された播磨国風土記(はりまのくにふどき)に千種鉄のことが記されているなど、古代から鉄と深いかかわりを持つ地域だ。古代史に関心を持つ鳥居社長は、ホームページを通じて地域の歴史の魅力についても発信していきたいという。「長い歴史を持つ地域で仕事をさせていただいていることを幸せに思っています。昔の鉄づくりはプロフェッショナルでないと務まらない仕事でした。金属に携わる企業として、今働いている従業員を大切にすることで、大変な思いをして製鉄に携わっていた先人たちに報いたいと思っています」と鳥居社長は静かに語った。

積極的に設備投資を続けると同時に3D-CADによる顧客コミュニケーション強化を目指す

先を見据えて設計の3D化への対応を進めている

先を見据えて設計の3D化への対応を進めている

プラントリイは、受注可能な業務の拡大を目指して、2018年に塗装部門を開設した。筐体製造の一貫体制の強化と共に、今年4月には配線組み立て工場を新設した。今後、設計部門の強化策の一環として3D-CADの活用にも力を入れていきたいという。「3Dによって、顧客コミュニケーションの強化を行い、西播磨の金属加工業界を引っ張っていけるように頑張ります。経済や文化などさまざまな面で地域の活性化に貢献できる企業になれるよう成長していきたい」と抱負を語る鳥居社長。デジタル技術の進化とともに、ものづくりの現場を働きやすくするシステムをこれからも創り出していくに違いない。

プラントリイの本社と工場の外観

プラントリイの本社と工場の外観

事業概要

会社名

株式会社プラントリイ

本社

兵庫県宍粟市千種町黒土80番地

電話

0790-76-2250

設立

1979年5月

従業員数

33人

事業内容

筐体板金、粉体塗装

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