事例集

2022.07.22 06:00

ホームページやYouTubeで情報発信 障害者支援施設への理解深める 社会福祉法人陽だまりの会(神奈川県)

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キーボードを弾きながら、女性のインストラクターが「口をしっかりと開きましょう」と呼びかける。部屋の中には10人ほどがいて、歌詞カードを見ながら奏でられるメロディに合わせて歌を歌う。合唱サークルの練習ではない。「声を出すことで、沈んでいた心を刺激して、意欲を高めてもらうためのボイストレーニングです」と、社会福祉法人陽だまりの会の福地輝男理事長は解説する。

陽だまりの会では、心の病とその生きづらさ(精神障害)を持つ方たちが集まり、作業をしたり、いっしょに暮らしたりしながら、地域の中で楽しく安心して生活できるよう支援をする施設を、横浜市内各所で12施設運営している。ボイストレーニングも、そのプログラムの一環として取り入れられている。

ボイストレーニングの模様

ボイストレーニングの模様

心の病とその生きづらさ(精神障害)持つ方々を支援する施設を運営

身体障害や知的障害といった障害をサポートする活動は、どのようなものなのかイメージできても、陽だまりの会が運営しているような施設については、イメージしづらいかもしれない。統合失調症やうつ病など、心の病とその生きづらさ(精神障害)を持った方々が、地域の中で楽しく安心し、自分らしく生活できるよう支援する施設のことだ。

どのような施設があるのか。「ひとつは『ハウス陽なた』のような作業所ですね」と福地理事長。社会生活に不自由を感じてしまった心の持ち主が、お菓子を売ったりイベントに参加したりすることで、社会と繋がっているのだという感覚を得る。「就労継続支援を行う『ハウス陽だまり』もあります」。同じ悩みを持つ利用者たちが集まって、弁当作り、内職作業やボイストレーニングのような自主性を高めるプログラムを受けながら、自分らしく生きていくための道を探る。

「グループホームも運営しています」。ひとり暮らしをするには不安がある場合、入居して職員によるサポートを受け、作業所や就労支援施設の活動に参加しながら、だんだんと自分でできることは自分でやろうとする気持ちになってもらう。こうした活動で大切にしているのが、入居者に自信を持ってもらうことだ。

障害の有無に関わらず社会参加しているという自信を持ってもらう

「福祉が発展してきた歴史的背景の違いもありますが、スウェーデンでは障害を持った方でも大人になれば当たり前に家を出て、自分ができることを通して社会参加し、自信をもって自立した生活を送ることができる風土や環境にあります。一方、日本では、家族や国からの保護を受けるしかないと思われてしまいがちです」。そうした意識のままでは、心もなかなか落ち着かない。陽だまりの会では、「自分は一人ではない、社会の一員として誰かの役に立っているんだという自信に繋がることを願って活動しています」。

「もともとは、母が人助けとして始めた事業です」。妻も参加するようになったその事業を見守るうちに、「精神障害は他人事ではなく、誰もがなり得る病気だと思うようになりました」。競争ばかり求められる社会への疑問も感じる中、「自分はどうあるべきかを考えるようになりました」と福地理事長。

陽だまりの会の福地輝男理事長

陽だまりの会の福地輝男理事長

母親が70歳になって事業を誰かに引き継ぐ必要や、勤めていた大手タイヤメーカーの販売会社の組織変更によって地元以外の場所への転勤となる可能性が出てきたことから、「人助けを仕事にしようと思って会社を辞め、事業に加わりました」。その時に驚いたのが、ネット環境の未整備状況だった。「パソコンはデスクトップとノートが2台あっただけで、ネットもなくメールも使っていませんでした」。

グループウェア導入で、もれのない指示と情報の相互利用へ

このままでは、日々移り変わっていく利用者支援に支障が出ると考え、「パソコンの台数を増やし、複合機を入れました。ネット環境やグループウェアも導入しました」(グループウェア=情報共有のためのソフトウェア。ネットワークに接続されたコンピュータ同士で情報の共有、またスケジュールの共有によってお互いの仕事の見える化ができる)。横浜市内各所に施設があって、職員も分散しているため、連絡を取ろうとしても「電話だけでは指示が伝わらなかったり、共有が滞ったりしてかなりドタバタしていました」。グループウェアを使うことで、「まず指示を全員に行き渡らせることができるようになりました」。

職員同士が話し合ったり、指示したことへの結果を見て新たに指示を出したりできるようにもなって、かなり便利になったという。前職ではタイヤのショップを幾つも担当し、部下もいるマネジメント職に就いていて、「その時に使っていたパソコンや複合機、グループウェアなどのソフトを、だんだんと取り入れている感じですね」。

補助金の請求作業も専用ソフトで大幅な時間短縮

行政からの補助金を受けて活動している事業だけあって、大量の書類を作成する必要がある。入所者からヒアリングをして記録として残す作業があり、これを元に補助金を請求する作業がある。「手書きだったり、フォーマットがバラバラだったりした書類を統一、福祉介護記録システムに沿って入力していけば良いように改善しました」。このことによって大幅な時間短縮が実現できた。勤怠管理についても、Web勤怠管理システムのタイムカード機能を使うようにした。給与システムとの連携については「社会保険などの計算も自動で行ってくれて時間も手間も減るので、今後導入していきたいです」。

今では、パソコンを使って情報共有しながら仕事をしている

今では、パソコンを使って情報共有しながら仕事をしている

職員のそれぞれの習熟度に合わせてICTの導入を進める

コロナ禍では、新たにテレビ会議システムを導入した。「職員会議や研修、打ち合わせなどに使っています」。ただ、こうしたICTの利用を職員に無理強いはしていない。情報機器やネットワークに疎い人もいる。そこに、グループウェアだ、支援ソフトだ、テレビ会議だといった具合に、ツールをどんどんと押し込んでも混乱してしまうだけだ。

ツールを何に使えるかを考えて実践する人を育てたい

「大事なのはツールではなく、それをどう使うかということです。何に使えるかを考える人を育てることも大切だと考えています」。報告・連絡・相談というコミュニケーションの基本的な考え方から学んで、職員として成長していって欲しいと福地理事長。やれることからやっていくのは、福祉施設を活用しながら社会との関りを模索する利用者の方々と同じだ。

YouTubeのチャンネルで活動紹介映像配信

刻々と進化するネットワークの時代で、最近力を入れているのが、ホームページや映像を使っての情報発信だ。「心の病とその生きづらさ(精神障害)を持った方は大勢います。そうした方たちが助けを求める時、以前は役所でのアナログな相談が多かったのですが、昨今はご自身でネット情報を検索され、直接福祉施設へ繋がる方が増えています」。

どのような日常を送っているのか。どのような可能性が開けるのか。そうした情報を伝えるために、ホームページを充実させてきた。そして最近は、動画作成に力を入れている。「4月28日に開催した音楽祭の模様も、YouTubeチャンネルで配信しています」。(TOP画像)。

「利用者と職員が一緒になって楽しんでいる光景を見て、『ここに行けば』と陽だまりの会へ居場所を見つけてくれる方が一人でも増えてくれたらと思います。」ネット配信により、出演した利用者の方々が、助けを求めている誰かへ影響を与える存在として活躍し、新しい社会参加の場となっている。

精神保健福祉士の仕事を世に知ってもらうため ドラマを作りたい

その延長として、「精神保健福祉士が主人公として活躍するドラマを作りたいですね」と福地理事長。「精神科医やカウンセラーが活躍するドラマはあっても、現場で日々、心の病とその生きづらさ(精神障害)を持つ方々と接する精神保健福祉士の仕事を知ってもらえるようなドラマはありません」。なければ自分で作るというのが信条。その日のために、自分で脚本を書き始めているという。いつか実現したその先に、障害があってもなくても意識しないで同じ日常を送れるような社会が来ると信じている。

陽だまりの会の利用者や職員

陽だまりの会の利用者や職員

後継者育成のため 自律心の養成とマニュアルによるWeb研修をしたい

これからの事業の展開や継続についても考えている。人間の、それも個々によって程度も症状も異なる障害に対応していかなくてはならない事業だけあって、「マニュアルが存在しないんです。だから今、自分たちでマニュアルを作成して、Web研修を提供できるような仕組みを作ろうとしています」。これを活用することで、多くの事業者が地域精神保健福祉という分野に参入して、より良いサービスを提供してくれるようになると期待している。

そしてもうひとつ、自分の後を継ぐ人材の育成にも力を入れ始めている。「社会にとって大切な事業です。だから、私が定年を迎えたら終わってしまうようでは困るんです」。自分が母親の事業を受け継いだように、次代を担ってくれる人が必要。そのために「30代後半から40代前半の人たちが、自ら考えて事業に取り組んでくれるよう、今から育成しています」。何かを判断しないといけない時、「こういう時自分だったらどうする?」と問いかけ、法人や地域精神保健福祉の発展について一緒に考えてくれる人材を育てる。時には明るい展望、時には危機意識を共有し、未来を担うのは自分たちだという気持ちになってもらおうとしている。

ICTの普及によって 志のある人へのハードルが低くなった

コロナ騒動に落ち着きが見えたとはいえ、経済も含めて日本の今後は楽観できない。心の病とその生きづらさ(精神障害)に関わる施設は、医療分野でも福祉分野でもますます重要となっていく。そうした状況で世間の理解を誘い、働きたいと思えるような環境を整え、そして誰もが安心して生きていけるような社会作りを目指している陽だまりの会の活動には、今後も期待したい。

今までは志があっても実現するためのハードルが高かった。しかし、YouTubeでの発信やWeb研修の実施など「よしやろう!」という気があれば、誰もが簡単にできる時代になった。福地理事長のような志があってICTの活用に積極的な人には、良い時代になった。自分が苦手でもスタッフには必ずできる人がいる。先行している情報を参考にして、ぜひICTに取り組んでほしい。

陽だまりの会本部と陽だまりの会就労継続支援B型ハウス陽だまり

陽だまりの会本部と陽だまりの会就労継続支援B型ハウス陽だまり

事業概要

法人名

社会福祉法人陽だまりの会

本社

神奈川県横浜市港北区菊名6-23-21 福地ビル303号

電話

045-431-5087

設立

2000年4月

従業員数

60人

事業内容

就労継続支援B型の運営/横浜市地域活動支援センター精神障害者地域作業所型の運営/グループホーム(共同生活援助)の運営/指定相談支援事業の運営

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