事例集

2022.07.05 06:00

ペーパーレスとICTの力で業務効率と収益向上 新たなビジネスも展開 サンエー緑化(埼玉県)

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地元の公園、街路樹など緑化事業を展開してきたサンエー緑化

公園の中土手も機材を駆使して整備する

公園の中土手も機材を駆使して整備する

埼玉県越谷市は人口約34万人。都心まで電車で1時間圏内だが、田畑や河川も多く自然環境にも恵まれている。この地で公園や街路樹管理、グラウンドの改修や補修事業など造園土木業を展開しているのが株式会社サンエー緑化だ。

加藤久治現会長(77歳)が1975年に「造園業は鎌1本でできる」と都内の造園会社の下請けとして創業、1981年に会社を設立した。高度成長期やバブル期に昼夜を問わず働いて事業を拡大し、バブル崩壊後の2009年3月、長男の一利氏(53歳)が代表取締役に就いた。

加藤一利社長

加藤一利社長

2代目の加藤一利社長は資金繰り安定を第一に、営業に注力。地元の役所や学校などから入札を獲得し、元請け事業を増やしていった。基本は自社施工で「自前でできることは自社でやる」がポリシー。先代からいち早く設備投資による機械化にも着手、草刈りや樹木伐採など人力でやってきた仕事を機械に置き換えて従業員の負担軽減を図り、作業効率を上げることで収益を確保してきた。増収増益を続け、14年が経過した今では15人の従業員を抱え、毎年着実に伸ばし、今では年間約3億円を売り上げ、機械化と効率化で利益も着実に増えている。売上の約9割を公共事業が占め、「公園やグラウンドをきれいに整備して地域の皆さんに評価してもらえれば、それがまた新しい仕事につながる」と加藤社長は話す。

働き方改革と収益に貢献したのは20年前から着実に進めていたICT化

同社の業務ICT化は20年ほど前、複合機の導入から始まった。その後、社員共有のパソコン、社内電話の導入と続き、積算ソフトによる積算作業の負担軽減やサーバー導入による情報の共有へと進んだ。さらにパソコンやスマートフォン、タブレットのセキュリティ対策と資産管理を一括で行うことができるIT資産管理ツールを導入。パソコンやスマートフォン画面を映すことができる電子黒板を導入した。社内のICT化により仕事の効率化が図られ、仕事の進行もスムーズになり自治体からの信頼も高まった。

複合機のFAX受信データ蓄積機能を活用しペーパーレスを推進

複合機の導入は7~8年前、ペーパーレス化のためだった。役所の受発注関係など同社の業務にはFAXでのやりとりが多かった。さらには広告などもFAXで送られてくるケースが増え、すべてを印刷していると用紙の消費量がばかにならなくなった。1日で最低でも10枚ほど無駄な紙を廃棄しており、両面印刷をしてみたり、逆に大事な書類は片面印刷に切り替えたり、不要な紙をシュレッダーにかけたりと工夫をしたが、本業以外のところで余計な手間暇がかかってしまう状況だった。

複合機は印刷することがメインの機械なので「ペーパーレスのために複合機」というと逆のようだが、複合機はFAX受送信機能も内蔵しており、FAX受信したデータをすぐ印刷せず、内部にいったん蓄積する。FAX受信データが蓄積されていると複合機に青いランプが付くので、まず内容をチェックして不要なものを削除、必要なデータだけフォルダー分けしてパソコンに移す。さらに場合によってはPDFに変換してサーバーに入れておく。こうしてできるだけ印刷をしないことで「無駄紙が出ないし、事前に内容が分かるのが大きい。印刷に割かれていた労力を1~2割削減できたし、業務スピードもアップした」と加藤社長は満足気だ。

電子黒板連動で、現在の全工程を社内の誰でも「見える化」。インターネット経由で遠隔でも見られる

当初は共有だったパソコンも社員1人に1台ずつ支給、日々の作業状況を報告する日報も現場など好きな場所からインターネット経由でサーバーにいつでも入力できるようにした。従来は作業終了後に現場から帰社して日報を手書きしていた従業員の退社時間は早くなり、「午後5時半から遅くとも6時には帰宅しているようになった」そうだ。現場作業で疲れているところに文章を打ち込むのは大変だから、必要項目にチェックを入れるだけにするなど日報のフォーマットも改善した。「書式は私が作りました。偉そうな社長業にあこがれはあるけど、トップが率先垂範しないと」と加藤社長。社長のフットワークの軽さも社内のICT化に一役買っているようだ。

来訪者が驚く大型の電子黒板

来訪者が驚く大型の電子黒板

事務所の壁には大型の電子黒板がかかっている。造園業で導入しているところは少ないので、来社される人はみな驚くそうだが、「もっと大きい画面でも良かったかなと思うくらい便利」と話す。以前、週1回の作業工程会議は机の上に広げた図表を取り囲んでやっていた。だが、電子黒板は大きくて目立つので内容を周知徹底できるし、作業の都合で会議に参加できない人も、遠隔で自分のパソコンに工程表を映し出し、自分がいつどこの現場に行くのか、いつでも事前に確認できる。最低2人以上のチームで動く同社の業務では、全員が工程表を把握していることは安全管理上も必要なことだ。

安全作業へ確認不可欠な工程表

安全作業へ確認不可欠な工程表

2022年7月には事務所内にデジタル・サイネージ(電子看板)も入れた。従来も経営目標や年間予定表を紙に書き出して掲示していたが、「紙だと初めは目新しくて注目してくれるが、だんだん見慣れて目に入らなくなってしまう。懇親会など社員へのお知らせも見ていなかったりする。サイネージで画像を流せば自然と視覚に入ってくる。覚えてほしいものを周知するには有効な手段」と考えている。

ICTを活かしたメロン水耕栽培を研究。新事業も視野に

たわわに実った水耕栽培のメロンに思わず笑顔

たわわに実った水耕栽培のメロンに思わず笑顔

これまで増収増益を続けてきた同社だが、加藤社長は「公共事業がメインなので、景気後退などで税収が落ち込むと従来あった仕事を切られる可能性がある」と考えている。2021年度から新卒採用を始めた。若い人のパワーも活かしたい加藤社長にとって、会社が将来も安定的に続くことが一番の関心事だ。「メインの仕事が先細りになっても会社が存続できる新しい柱を作っておきたい」と、2019年10月に私費を投じて別会社、農業デザイン株式会社を設立した。

社員を1人送り込み、越谷市役所と共同で水耕栽培のメロンを研究している。従来の土耕栽培は肥料や水の管理に多くの知見が必要なうえ、1株に1個しか収穫できない。だが、養液による水耕栽培では二酸化炭素や光など植物の育成環境を数値化して管理するため、1株から数十個の収穫が見込める。年内に自社ハウスを建て、その後3~5年間でメロンだけでなくアイスクリームなどの派生商品を模索し、収益を確保する計画だ。実績ができれば、農業法人として農地の売買ができる。高齢化で後継者がいない市内農家の休耕田を活用して、儲かるスマート農業で地元に貢献する。それで人が集まり税収が上がれば、公共の仕事が増えて本業も潤うだろう。10年後には、そういう持続可能な循環をめざしたい。

ICTへの積極的な取り組みが事業のフィールドを広げていった

別会社が軌道に乗れば従業員や売り上げが増える。管理システムの導入が必要になるし、水耕栽培のようなスマート農業には温度管理や監視カメラなどICTが不可欠だ。「現状に満足せず、常に新しいことに取り組み、いろいろな角度にアンテナを張って情報を集め、いいものを取り入れて時代の流れに取り残されないようにしたい」と加藤社長。鎌やハサミ中心の造園業を、機械化やICT化することで業績を伸ばす。そうすることで同社は次のステージを見据えている。

事業概要

会社名

株式会社サンエー緑化

本社

埼玉県越谷市七左町8丁目308-1

電話

048-965-4015

設立

1981年

従業員数

15人

事業内容

公園緑化、造園・エクステリア整備、土木工事



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