事例集

2022.06.27 06:00

アルコール検知器導入やLPWAによるガス検針の自動化 ICTで省力化を推進 藤沢市ガス事業協同組合(神奈川県)

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※本記事の内容は、記事作成日(2022年6月27日)時点の情報に基づいて作成しました。 2022年10月に予定されていたアルコール検知器の義務化実施は現在延期となっています。(2022年9月9日時点)
安全運転管理者制度に関する留意事項について(通達)警察庁交通局


2022年4月から、5台以上の自動車や、11人以上を乗せる自動車を1台以上運用している事業者に、ドライバーのアルコールチェックを行う体制を整えるよう、法律が改正された。点呼を行い、記録を保管する方法を確立することが決められていて、10月からはさらに、アルコール検知器の導入も義務化される(※)。藤沢市ガス事業協同組合ではこのアルコール検知器を、義務化より半年早い4月から導入。安全最優先で、地域のインフラを支援していた。

江の島の簡易ガス事業を展開

湘南海岸から突き出た江の島は、小さいながらも起伏があって歩き回るのはなかなか大変だ。そこを以前は、業者がLPガスのシリンダー(ボンベ)を担いで行き来していた。導管によって基地からガスを供給する簡易ガス方式の利用を願う声が高まる中、藤沢市ガス事業協同組合が元請けとなって、1990年に江の島全域にプロパンガスの導管網を敷設し、ガスを行き渡らせる仕組みを整えた。

「コロナ禍前は週に3回、ガスを補充しに行っていました。今は週に2回になっていますが、それでも週末は観光客が増えるので、金曜日にいっぱいにして週明けの月曜日に補充するようにしています」。コロナ禍に落ち着きが見える中、観光客も戻り始めており、この夏は海岸の海の家もフル開業できる見通し。賑わいが戻れば、以前のように週3回のペースでガスを補充し、江の島の観光業を支えていく。

神奈川県有数の観光地・江の島で簡易ガス事業を展開している

神奈川県有数の観光地・江の島で簡易ガス事業を展開している

日本でも有数の観光地を顧客に持っているからといって、藤沢市ガス事業協同組合が藤沢市で最大手というわけではない。世間的に知られた大手のエネルギー関連会社が事業を広げていく中、顧客を奪われそうになった藤沢市内のプロパンガス業者が結束。1978年5月にガス事業者をバックアップする組織として発足した。以来、組合員にガスを卸売りしたり、組合で直接ガスを小売りしたりする業務を行ってきた。

アルコールチェック義務化にいち早く対応 チェック+記録データ蓄積を実施

「現在は組合員の10社に月間で100トンほどと、小売りで1800世帯ほどに販売しています」。藤沢市内にある事業所にはLPガスのタンクが作られ、ガスを入れるシリンダーがずらりと並ぶ。「タクシー事業者にもLPガスを供給しています」。敷地内にはガソリンスタンドならぬLPガススタンドが作られ、タクシーが立ち寄って燃料を入れていく。

タクシー用のLPガススタンド

タクシー用のLPガススタンド

この事業所から、配送用のトラック2台と営業車3台を使って卸売りや小売りに対応しているが、こうした社用車の運用で課題が発生した。「2022年4月から、白ナンバー車を5台以上持っている企業にも、アルコールチェックが義務化されることになったのです」。当初は軽くチェックするだけで大丈夫と考えていたが、すべての利用に関連して記録を残す必要があると分かって、対応を改めた。

呼気のアルコールをチェックして自動的に記録していくシステム

呼気のアルコールをチェックして自動的に記録していくシステム

パソコン連動のアルコール検知器で自動記録し自動で保管

「2022年4月パソコンと連動したアルコール検知器を導入して、出る時と戻った時にチェックするたびに、自動的に記録されていくシステムを導入しました」。アルコール検知器導入の義務化まではまだ猶予があるが、「早いうちから習慣づけを行っておきたいと思いました。幸い、コロナ禍もあって従業員に体温を記録させていたんです。これと同じパターンで、呼気もチェックするようにさせました」。早め早めに手を打つことで意識の醸成が図られ、新しい状況にスムーズに移行できる。「安全運転管理者」を決め、アルコールチェックを含む点呼の体制を従業員に告知徹底し、「点呼記録」の保管方法を決めた。このような素早い対応は、岡田専務理事の安全に取り組む姿勢とICTに対する見識から生まれた。

ICT導入 まず実施したのは外出中でもスマホやパソコンでつながれること

岡田専務理事のICTへの取り組みの姿勢は、全国的にLPガス事業を営む企業で働き、グループ会社の社長も経験する中で培われた。65歳で定年を迎えたところを招かれ、3年前に組合に参画。その頃は、「情報システムも今ほどではなく、働き方に関する意識もあまりありませんでした」。程なくしてコロナが広がり始めて、テレワークを行う必要が出てきた。そこで「外から事業所のパソコンを見られるようにするようにしました」。

藤沢市ガス事業協同組合でパソコンに向かう岡田敏一専務理事

藤沢市ガス事業協同組合でパソコンに向かう岡田敏一専務理事

導入したのが、NAS(ネットワークHDD)と呼ばれる、ネットワーク上にハードディスク(HDD)を置いてデータを記録していくシステムだ。事業所にあるパソコンからはもちろん、自宅などからパソコンでアクセスしてデータを閲覧できるようにした。書き換えなどを行えば、変更点が自動的に反映され、別の場所からアクセスした際に最新のデータを参照できる。NASの画面上には、役員だけが見られるフォルダ、従業員全員で共有しているフォルダ、管理部門用のフォルダが置かれている。権限によってアクセスできる範囲を限っているため、情報が漏れることはない。

この春には、スマートフォンやタブレットからもアクセスしてデータを閲覧できるようにした。「営業先に行った時、前に渡しておいた見積書がすぐに出てこないことがあります。そんな時、スマホで見積書を呼び出して見せることができます」。出直したり調べ直したりする時間を節約でき、顧客サービスの向上につなげられる。

手書きだった日報も、パソコン上でフォームに記入していくように改めた。勤怠管理については、今もタイムカードを使っているが、いずれ改善に取り組みたいという。「今は他にやることがありますから」。そのひとつが、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる低電力で広範囲の無線通信を可能にする技術を使った、LPガス集中監視システムの導入推進だ。

LPWAでガス検針を自動化し省力化実現

目的は、「検針の自動化です」。ガスを使っている人なら分かるように、定期的に検針員が来訪して、使った量をチェックして請求に繋いでいる。藤沢市ガス事業協同組合でも2人の契約検針員が直売している顧客先を数日かけて回って検針している。この作業を、ガスメーターに取り付けた装置によって自動的に行い、サーバーに転送することで訪問しなくて済むようにできるのだ。

「現在、400件くらいにLPWAを取り付けました。今年、来年とかけてこれを800件くらいまで持っていきたいですね」。検針結果から請求書を作成・発送する流れを作って、いちいち使用量を入力していく作業を減らせるようにした。現在はさらに、ネットにアクセスすれば、検針結果が分かるようなポータルサイトの構築に取り組んでいる。

もうひとつ、使ったガスの量が分かれば、余裕を見て2本設置しているシリンダーを1本に減らして、切れる前に配達するようなリアルタイムでの補充も可能になる。取り扱う容器の本数を減らすことで輸送コストも保管コストも下げられる。 LPWAを軸にした取り組みを、卸売り先にしている組合員の事業会社が導入したいと言えば、喜んで支援していく考えだ。

システム整え中小ガス事業者をバックアップ

発足から44年。組合員のガス事業会社も代替わりが進んで、創業者から二代目、三代目に事業が引き継がれているところが多い。今はまだ大丈夫でも、いずれ後継者の問題が出てくる。「親から継いだ人に、親が務めていた地域の団体の役員のような仕事が回ってくることもあるようです」。地域社会に貢献しつつ、ライフラインを支えるガス事業にも注力しなくてはならない。一方で、大手の事業者が規模の拡大をねらって進出を図っている。

事業展開や継承に行き詰まって大手の傘下に入り、やがて商権を渡してしまうようなケースもないわけではないが、「なるべく皆で生き残っていきたい。そのために作業を軽減するような仕組みを提供して、事業をバックアップしていくのが組合の務め」と岡田専務理事。江の島で簡易ガス事業を任された実績に、新しいテクノロジーへの対応力も加えて、藤沢市におけるガス事業の一翼をこれからもしっかりと担っていく。

※本記事の内容は、記事作成日(2022年6月27日)時点の情報に基づいて作成しました。 2022年10月に予定されていたアルコール検知器の義務化実施は現在延期となっています。(2022年9月9日時点)
安全運転管理者制度に関する留意事項について(通達)警察庁交通局

事業概要

法人名

藤沢市ガス事業協同組合

住所

藤沢市菖蒲沢1415-2

電話

0466-48-2255

設立

1978年5月16日

従業員数

14人

事業内容

LPガス販売・配送・保安/リフォーム・太陽光発電システムの販売・取付工事他

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