事例集

2022.03.29 06:00

コロナ対策が「働き方改革」を加速 勤怠管理、テレワークの整備で社員の意識も変化 伸栄化学産業(埼玉県)

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「以前はみんな、休日も自由に会社に来て仕事をしていました。平日もほっておくと午後10時、11時まで工場の明かりがギラギラしていて。入社4、5年目の若手社員は『この先輩たち、大丈夫かな』と心配するほどでした。でも、それも今はすっかり様変わりしました」

埼玉県三郷市で水処理装置の製造を手掛ける伸栄化学産業の鈴木こずえ取締役は、会社の変化に目を細めた。今では、遅くても午後8時には社員が退社し、休日に出勤する社員もほとんどいなくなったという。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに2020年、社員の勤務時間を把握する勤怠管理システムや、会社が所有するIT関連のハード・ソフトの利用状況などを一括管理するIT資産管理システムなどを相次いで導入した。また、セキュリティー対策も強化し、リモートワークができる環境を整備。社員の勤務日数を減らすなどの感染対策を講じた。社員たちの勤務状況を「見える化」し、厳密に管理したことで常態化していた長時間労働の解消にこぎつけることができた。

純水を製造する装置を供給、ものづくりの分野に貢献


伸栄化学産業が得意とするのは、モノづくりの分野で使われる不純物を含まない純水や超純水を製造する装置だ。水の中でイオン化した不純物を樹脂に吸着させて、純水を創り出すのだという。

伸栄化学産業の鈴木こずえ取締役

伸栄化学産業の鈴木こずえ取締役


「もともと創業者である父はめっき加工の業界で技術指導などのコンサルタントをしていました。ある日、顧客のめっき加工業者から『洗浄に純水を使いたい』という相談を受けたんです」と鈴木取締役は創業の経緯を話す。

めっき加工後に水道水などで洗浄すると、製品に水染みが付着し、汚れのようにみえてしまう。このため出荷前に水染みをふき取る作業が欠かせなかった。不純物のない純水を使うことで、この作業を省けないかという相談だった。実際に純水で洗浄すると効果はてきめん。ふき取りの必要はなくなり、人件費の削減や出荷工程の短縮につながった。

これをきっかけに鈴木取締役の父はめっき業界向けに水道水を純水にする機器の販売をスタートさせた。当初は他社の製品を販売していたが、やがて自社でも製造を手掛けるようになった。やがて、自動車部品や半導体、発電所などの幅広い産業分野にも取引が拡大。大手ではなかなか取り組めないアフターサービスやメンテナンスにも力を入れ、機動力を生かしたきめ細かいサービスが取引先から高い信頼を得ている。

最近は、水処理技術を生かした新たな事業も展開。地元・埼玉県のものづくり補助金を活用して、アルミの耐久性を高めるアルマイト処理の際に発生する硫酸アルミの除去装置を実用化した。加工処理する際の薬液の交換を飛躍的に減らせるそうで、「製造コストを削減し、環境にもやさしい装置なので、ぜひ利用を広げたい」と鈴木取締役は意気込みをみせていた。

残業が常態化…「働き方改革」をどう進める


ものづくりに対する社員の士気が高く、残業や休日出勤もいとわない。伸栄化学産業には、そんな社員が多く在籍している。頑張る社員は会社の成長の原動力だが、一方で、社員たちの健康が第一だ。国が「働き方改革」を推進する中で、残業が常態化した会社の体質の改善が大きな課題となっていた。

勤怠管理システムの導入により、非接触カードで出退勤を記録できるようになった

勤怠管理システムの導入により、非接触カードで出退勤を記録できるようになった


「休日に出勤していることが後になって分かって、休むように社員に言うと、『何で働くなと言うんですか!』と猛反発されることもありました」と鈴木取締役は振り返る。一方、営業の社員の中には、勤務表の作成がぞんざいで、事務員に電話で「毎日、8時半から5時半で勤務表をつけておいて」と頼むこともあったそうだ。

どうやって働き方改革を進めるか―。長時間労働に対する罰則も強化され、待ったなしの状況に頭を痛めていたが、改革の大きな後押しとなったのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。

「誰がいつ感染するかわからない。感染者が出れば、会社が回らなくなるかもしれない」

鈴木取締役は業務改革に向けて、どういったソリューションを導入するべきか、感染拡大前の段階から情報収集し、ある程度の方向性を固めていたという。そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに国や自治体が相次いで中小企業の支援に乗り出した。さまざまな補助金や助成金制度が設けられ、改革を進める絶好のチャンスになった。

一気にソリューションを導入、「働きすぎない」をルール化


「やると決めたら一気でした」と鈴木取締役。さまざまな支援策を活用して、ソリューションの導入を進めた。

一つは在宅勤務を可能にするためネットワークのセキュリティーを強化。VPN(仮想専用線)接続で自宅からも遠隔で会社のサーバーを操作できるシステムも取り入れた。IT資産管理システムを導入し、会社の所有するパソコンの使用履歴もチェックできるようにした。

在宅勤務をしている社員のパソコンには「本日、テレワーク中」の張り紙が

在宅勤務をしている社員のパソコンには「本日、テレワーク中」の張り紙が


IT資産管理システムは会社が所有するパソコンやサーバー、ネットワーク機器のほか、ソフトウェアなどのIT資産を把握し、適正に利用されているかを管理するシステムだ。所有数が多いパソコンなどは管理が面倒だが、このシステムを使って正確に把握・管理することで、買い替えや設備更新などの予定が立てやすくなる。また、社員に配布したパソコンの利用状況も把握できるので、不適切な利用などもチェックでき、外部からの侵入も確認できるなどセキュリティーも確保できる。

併せてクラウド型の勤怠管理のシステムも導入した。営業などで社外にいる社員はスマートフォンのアプリで出退勤の記録ができるほか、工場などに勤務する社員は非接触のカードをカードリーダーにかざすだけで出退勤を記録できるようにした。

これを受けて、新型コロナウイルスの感染対策の勤務体制に切り替えた。最初の緊急事態宣言下では、週5日の勤務時間のうち1日を休みか在宅勤務の日にするようにした。長時間の残業は認めず、平日は午後8時には会社を閉めた。休日出勤にもルールを設け、社員が勝手に出社できないようにした。

緊急事態を乗り切るための「働きすぎない」ルール作りだ。

まだ、ワクチンもないころで重症化すれば命にもかかわりかねない感染症で、健康と安全に配慮した会社の呼びかけに社員たちの対応も協力的だった。「コロナ禍は社員たちに健康が第一ということを意識してもらえるきっかけになりました」と鈴木取締役は振り返った。

業務の効率化にも大きな効果 新たな改善がテーマに


こうしたシステムの導入は、社員の意識だけでなく、業務そのものの改善に効果を上げている。

ほぼ紙ベースで集めていた勤務表やタイムカードをパソコンに打ち込む作業が一切なくなった。導入前は月末になると、担当者が丸3日かけて行っていたそうだ。だが、社員一人ひとりの日々の出退勤のデータはシステムに直接入力される。それ以外の集計作業も在宅でできるようになった。「集計作業では別の部署から応援を1人頼んでいたのですが、その必要もなくなり、本来の業務に専念できるようになりました」と鈴木取締役は評価した。

伸栄化学産業が製造する純水製造装置。設計から製作、設置までオーダーメイド

伸栄化学産業が製造する純水製造装置。設計から製作、設置までオーダーメイド


会社が所有するパソコンの使用履歴が分かるようになり、勤務時間外の操作をチェックできるようになったため、休日出勤や在宅勤務での“こっそり残業”も把握できる。そのことを社員に伝えることで残業の抑止力にもなっている。出先に直行直帰したり、出張したりしている社員はスマートフォンで出退勤時間を入力。ぞんざいな勤務表の入力を防げるようになった。

コロナ禍が一服した後もテレワークが可能な社員は、実施を呼びかけており、デスクワークが多い設計担当の社員は自宅で製図の作成に専念しているという。

また、同じ時期にはホームぺージ作成ソフトをリニューアルした。新たな機能としてWeb会議のシステムが追加されていたためだ。このシステムを活用して、リモートでの採用活動や顧客とのオンラインの打ち合わせに活用。コロナ禍の新たなワークスタイルにしっかりと適応することができた。

「テレワークを始めて、さらに社内のペーパーレス化を進める必要があると強く感じるようになりました。会社に紙があると、それをみるために出社しなくてはいけません。会社のサーバー内のデータを整理して、紙の情報をデータで管理する。そこから社内改革が始まる感じですね」と鈴木取締役は笑顔をみせた。

社員の勤務実態の把握にICTは必須のツール


夜遅くになっても工場やオフィスの電気が煌々(こうこう)と光っている―。伸栄化学産業に限らず、つい少し前まではそれが当たり前の時代だった。最終電車の乗ると、まるで朝の満員電車のような混雑。中には一杯ひっかけて、という人もいただろうが、会社から自宅に直帰という人も数多くいた。

埼玉県三郷市にある伸栄化学産業

埼玉県三郷市にある伸栄化学産業


だが、「働き方改革」の推進で、大企業だけなく、中小企業も2020年から残業時間の上限を1ケ月45時間、1年で360時間に制限され、違反すれば、厳しい罰則が科せられる。昔のような残業が当たり前の時代ではなくなり、経営者は一人ひとりの社員の勤務状況をしっかりと把握し、社員に過度な長時間労働をさせないように目を配らせなくてはならない。

伸栄化学産業が進めた働き方改革は、ただシステムを導入しただけでうまくいったわけではない。現場に無理が生じない形での生産計画を見直した。一人で抱え込んでいた仕事を複数の社員でシェアし、社員がしっかり休める環境を整備した。こうした課題にメスを入れたことで実現できた取り組みだ。一方、ICTの活用によって業務の新たな課題も見えてきた。業務改善に向けた鈴木取締役の新たなチャレンジがすでに始まっている。

社員の勤務時間を正確に把握するうえで、ICTの活用は非常に有効だ。社員の勤務実態をリアルタイムで記録するため、長時間労働になりそうな社員を早期に見つけ出し、対策をとることができる。アバウトになりがちな外回りの社員の出退勤の報告もスマーフォンで可能になる。社員の勤務実態の把握にてこずり、長時間労働を抑え込めていない経営者は、急いでICTの活用を検討するべきだ。伸栄化学産業のように労働環境を正常化することがきっかけとなって、新たな経営課題解決の糸口がみつかるかもしれない。

事業概要

会社名

伸栄化学産業株式会社

本社

埼玉県三郷市中央2丁目12-10

電話

048-953-1616

設立

1979年11月

従業員数

40人

事業内容

水処理装置・機器・設備、水処理装置・設備の設計、製作、施工、メンテナンス、イオン交換樹脂再生など

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