金融(銀行・保険・証券除く)
事例集
2022.01.21 06:00
関信用金庫とリコージャパンが業務提携 地方企業のICT化推進でタッグ(岐阜県)
この記事に書いてあること
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
中小企業の支援に力を入れる岐阜県の中堅信用金庫、関信用金庫が、地方企業のICT化を全国的に進めているリコージャパンと業務提携を結び(TOP画像:2021年5月に行われた関信用金庫とリコージャパンの業務提携の締結式。右側が櫻井広志理事長)、企業のICT導入支援に乗り出している。ICT導入の具体的なノウハウを持つ大手企業と地域に密着した金融機関の連携は、個々の企業だけでなく地域全体のDXを先導するモデルケースになる可能性を秘めている。
企業のデジタル化支援を目指した業務提携
関信用金庫は2021年5月、リコージャパンと業務提携を結んだ。同金庫はさまざまな提携を企業、団体と結んでいるが、企業のデジタル化支援を目的とした連携は初のケースになる。
「私たちのメインのお客様は、中小企業ではなく小企業です。ICTやDXという言葉が届きません。テクノロジーがユーザーにもっと近づく必要があると感じています」。取材に訪れた2021年12月下旬、櫻井広志理事長が開口一番語ったのがこの言葉だった。
関信用金庫は岐阜県関市に本店を置く協同組織金融機関だ。同市を中心に近隣の岐阜市、美濃加茂市など15市町を事業区域とし、12店舗を運営する。預金残高は2700億円、貸出金残高は1236億円で企業向けが約6割を占めている。
南北に走る長良川鉄道沿いにそびえる本店ビルは関市のランドマークのひとつだ。1階の情報コーナーでは事業承継や補助金の申請支援などビジネス関係のフライヤーが豊富に並ぶ。
事業者数は岐阜県内2位 刃物中心に製造業がさかん
関市は岐阜県内で5番目の約8万6000人の人口を擁し、市内には企業の本社、支店など約5000の事業所が立地している。地場産業の刃物関連を中心に製造業がさかんで、その事業所数は県内2番目の多さを誇る。関信用金庫における製造業向けの貸出金残高は250億円にのぼり、業種別に見た企業向け貸出金の中では最大の35%を占めている。
関市内の企業は製造業に限らず小規模な企業が多いこともあって、しっかりした技術やサービス内容を持っているにもかかわらず、売上の拡大につながっていないケースが多いという。しかし、この状況は逆の視点から見れば、関市の企業には大きな伸びしろがあるということだ。
ICTで中小企業のポテンシャルを掘り起こす
櫻井理事長が着目しているのも関市の企業が持つポテンシャルだ。
「人口が減少する中、企業はこれまで以上に成長する意欲を持たなければ存続できません。だからこそ経営者の皆様に、生産性の向上や業務の効率化につながるICTに関心を持っていただきたいのです。そのための機運を醸成することが地元の金融機関としての大きな役割と思っています」
デジタル庁の発足に象徴されるように社会のデジタル化が大きなうねりとなる中で、企業だけでなく地域全体のDXを先導する役割を果たしたいとの思いも強い。
「飲食でも新年会や法事など冠婚葬祭を小人数でおこなう傾向にあり、宴会需要に頼っていた料亭などはビジネスモデルを変えなければなりません。これまでとは違った新しい需要を掘り起こしていくことが必要です。アフターコロナを見据えたICT投資や事業展開を具体的に考えられるお手伝いにつながるようにリコージャパンとの提携に期待しています」(櫻井理事長)。
具体的で実効性の高いアドバイスを提供する
約2ヶ月の準備期間を経て、関信用金庫とリコージャパンが現在、企業に提供しているのが生産性向上サポートプログラムだ。企業は、業務効率化、セキュリティ対策、売り上げ拡大、人材の獲得・育成、勤怠管理、テレワーク、生産管理などICT化を希望する業務を依頼書に明記した上で、各支店の担当者に申し込めば、リコージャパンからのアドバイスを受けることができる。企業にとっては、依頼書を作成する段階から事情に詳しい信金の担当者がかかわってくれるので、具体的で実効性の高いアドバイスを受けやすいという利点がある。
また、最初に理事長が語った「テクノロジーが、ユーザーにもっと近づく必要があると感じています」という言葉は重要で、リコージャパンが推進しているアナログとデジタルの融合が今後貢献すると思われる。
アナログとデジタルの融合の代表は、取引先からFAXで来る注文書のデジタル化だ。デジタル化することで、その後の作業の自動化が可能となり、省力化に貢献するだけでなく働き方にも貢献できる。小企業にとっては、いきなり電子商取引と言われても全く理解できないが、今あるFAXをそのままデジタル化することで、出先でもタブレットやスマホで閲覧できるため、その場で取引先との連絡が可能となる。一人何役かで業務を行っている小企業の経営者にとっては、非常にやさしい環境だ。デジタル化の波は、既に小企業へも広がり始めている。アナログとデジタルを組み合わせることで、自社の仕事の状況に合わせてICT化を行う事が可能だ。
金融機関の新分野としてICTソリューションに着目
取引先の企業だけでなく関信用金庫もリコージャパンとの業務提携を通じて、信用金庫内のICT導入を推進したい考えを持っている。日本銀行の長期にわたる金融緩和政策、人口減少、少子高齢化によって金融業界の経営環境は厳しさを増している。預金、融資、為替、渉外といった業務にプラスアルファの分野を開拓していかなければならない。
関信用金庫の河村充浩専務理事は「金融機関として成長を実現するための鍵となるのが取引先に対するソリューション提案能力の向上です。ソリューションに必要不可欠なICTに対する知識と感度は金融業界でこれまで以上に大事になってくると思っています」と話す。
これまでに幹部職員を対象にしたICTについての勉強会や、リコージャパンのライブオフィス「ViCreA(Value innovation Creative Area)」の見学会を開いてきた。今後もリコージャパンとの意見交換を活発に行うことで職員のICTへの知識と関心を深めていきたいという。
ビジネスサポートセンターとの連携による相乗効果に期待
関信用金庫は、2015年に設立された関市の産業支援拠点「関市ビジネスサポートセンターSeki-Biz(セキビズ)」を運営する一般社団法人関市ビジネス支援機構にも参画し、セキビズのアドバイザーとして職員も派遣している。セキビズは中小企業に無料で商品開発や販路拡大について具体的なサポートを行っている。設立から5年で1150企業から9000件以上の相談が寄せられているが、そのうちの3割が関信用金庫を経由した相談だ。アドバイスを受けた企業が業績を拡大するなど着実に成果をあげている。
関信用金庫地域支援部の村瀬光昭副部長は「信金、リコージャパン、セキビズで連携することも検討していきたい。ICTのサポートが加われば、セキビズの機能の向上につながります。関市の企業にICTを導入することで可能性を切り開いていってほしい。ICTをうまく活用すれば大企業に対抗することや人材の採用にもつながっていくはずです」と今後の展開に期待を寄せる。
地域のDX推進の旗振り役を目指す
関市は人口分布で日本のほぼ中心に位置するという東西いずれからもアクセスしやすい地理的特性を持っている。伝統産業の日本刀も観光資源として定着しつつある。全国展開する企業の東西の関係者が集うワ―ケーションの拠点としてアピールするなどさまざまな取り組みをすることが可能だ。
「地域のICT産業の育成も今後、大きなテーマになってくると思います。DXで関市を盛り上げる旗振り役になるだけでなく、縁の下の力持ちの役割も果たしていきたい。知恵を出し合って企業と共に新しいビジネスを作っていくことに取り組んでいきます」。気を引き締めた表情で櫻井理事長は語った。
ICTは本来人間生活を向上させるための道具であり、人間に苦行を強いる道具ではない。現在はその途上にあると言える。信用金庫は小さな企業へ訪問し、様々な情報提供や、相談対応、業務を客先で行っており、中小企業にとっての利便性は大きい。地域の中小企業とのきずなは強く、地域にとってなくてはならない存在だ。そこに身近なICT提案が装備されると鬼に金棒だ。
関信用金庫が選択したリコージャパンとの提携による地域のICT化推進はベストマッチであり、これから地域の中小企業や小企業の姿を大きく変える可能性を秘めている。
事業概要
会社名
関信用金庫
本社
岐阜県関市東貸上十二番地の一
電話
0575-21-1021
設立
1908年9月
従業員数
205人
事業内容
金融業務全般