事例集

2022.01.18 06:00

1人1台のノートパソコンでGIGAスクール先端校の実現に確かな手ごたえ 日本文理高等学校(新潟県)

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夏の甲子園で新潟県勢として準優勝を果たすなど、スポーツに秀でた高校として知られる日本文理学園日本文理高等学校に、もう1本の柱が立とうとしている。教育にICT(情報通信技術)を活用する「GIGAスクールICT教育プログラム」の推進だ。

生徒全員1人1台 900台のノートパソコンの導入へ


授業中の教室をのぞくと、電子黒板を使って授業をする教員に向かう生徒たち一人ひとりの机の上に、ノートパソコンが置かれているのが見える。「Chromebook(クロームブック)です。既に1,2年生では、教材を見せたり質問への答えを書いてもらったりして活用しています」。そう話すのは、2021年4月から校長を務める田中利夫氏。情報科のようなコースがあって、プログラミングの授業をしている訳ではない。一般の生徒たちが、教科書やノートのように授業でChromebookを使っているのだ。

日本文理高校では、2021年は1,2年生と3年生の一部に600台導入し、2022年春には生徒全員900台導入を予定している。

新潟県の高校としては初の試みで、全国を見渡しても数少ない1人1台の端末利用を進めた理由を、田中校長は「アダプティブ・ラーニング(適応型学習)、生徒が自分たちの能力に最適な学習を、自ら進んで行っていけるような環境を作りたかったんです」と話す。
「日本文理高校は私学です。公立のように学力がそろった生徒が集まっている訳ではありません。特進コースで勉強ができる生徒もいれば、スポーツが得意な生徒もいます」。そうした生徒たち、一人ひとりに最適な学習方法を提供するには、教壇から全員に向かって話す旧来型の授業では足りなかった。

何かいいアイデアはないかと探し、ICTで先進的な取り組みをしていた東京の芝浦工業大学附属高等学校に4年前、視察に行った。生徒たちが1人1台の端末を持って授業や課題に取り組んでいる姿に刺激を受けた。そして2019年12月、文部科学省から「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育 ICT 環境の実現に向けて」と題された「GIGAスクール構想」が打ち出され、即座に手を上げた。

GIGAスクール推進の先頭に立つ田中利夫校長

GIGAスクール推進の先頭に立つ田中利夫校長


「2021年からの導入という予定が早まって、2020年からのスタートとなって導入を急ぎました」。2020年10月から特進コースの2クラスで1人1台の端末利用が始まった。スマートフォンの操作には慣れていても、キーボードを扱えるのかといった不安があったが、田中校長は「キーボードが付いてない端末を導入する気はありませんでした」と振り返る。
メールやSNSなどで短い言葉を入力する上でスマートフォンに不自由はないが、大学での講義でも就職してからの仕事でも、キーボードが打てることが必ず求められる。「文書を書くのもExcelに数字を入力するのもキーボードを使いますから」。そんな将来に備えて高校生の頃からしっかりと馴染ませておきたかった。結果、「最初はぎこちなかった生徒も、すぐに見ないで打てるようになりました。若いですからね」

生徒1人1台は、教育を大きく変えるきっかけ


「英語の授業では、ネイティブの方の声が流れてリス二ング力の向上に役立っています」。田中校長が教科としてきた国語に関しては、教材がまだChromebookに対応しておらず「縦書きのページを右から左へと流して表示できないところがあります」と残念がるが、「いずれ改善されると思っています」と期待を寄せる。

行事のやり方にも変化が生まれた。日本文理高校では部活動で活躍した生徒を一人ひとり、全校生徒を集めた講堂の檀上で表彰していたが、スポーツが盛んな高校ということで大勢が入賞するため式が長時間に及んでいた。「途中で飽きてしまうんですね。だからやり方を変えました。表彰する生徒たちの映像を撮って配信するようにしたのです」。コロナ下で講堂などに大勢が集まることが難しい状況を逆手に取って、生徒たちが関心を持てる状況へと変えていく。「生徒あっての教育ですから」と田中校長は話す。

様々なスポーツ大会で全国的な活躍をしている

様々なスポーツ大会で全国的な活躍をしている


授業そのものの形も変えていこうとしている。教師が板書を見せながら教科書に沿って話していくのが、高校における授業の一般的な形式だ。これを、「生徒と教員がより深くコミュニケーションを取り、生徒自身が授業に入り込めるような形へと持っていく双方向授業・反転学習へと変えたいと思いました」。そのために考え出し、2021年から取り組み始めたのが、「BIプロジェクト(文理イノベーティブ・プロジェクト)」だ。
例えば、教員ではなく生徒たちが教室の前に立って「コレラの感染経路を発見した人は誰?」といった具合に電子黒板を使って生徒たちに出していく。問題はクロームブックにも表示され、生徒たちが回答するとすぐに正誤が判明して理解力を把握できる。問題作りを行う生徒たちの自主性も高められる。
アメリカの大統領選挙が話題になった時、教師がその場で「選挙」「投票」といった言葉を英語で答えてもらう問題を作り、Google Formを使って生徒たちに答えてもらったこともあった。どの問題が難しかったか、全体ではどれくらいの理解率だったかがその場でわかり、以後の授業の進め方に反映できた。

課外活動でもChromebookは活躍している。日本文理高校では進学についてのカウンセリングを、ビデオ会議アプリを使ってオンラインで毎週末行っている。松濤舎代表の船登惟希氏が進学アドバイザーとなり、合格するために必要な教材は何か、時間配分はどうすればよいかを、生徒一人ひとりの現状や目標に合わせてアドバイスしている。

ビデオ会議アプリは、生徒のグローバル化に役立っている。日本文理高校では東南アジアの若者たちとの交流を、オンライン上で行う国際交流を行っている。「自己紹介も含めて会話は基本的に英語ですが、話しているうちにコミュニケーションがとれるようになっていきます」。これは語学力の向上につながるが、田中校長にはもうひとつの狙いがあった。「日本のことを相手に説明することで、改めて日本について考える機会になるんです」。

コンピューター導入は、教員の働き方改革にも効果を発揮

ICTは、生徒にも教師にも改革をもたらした

ICTは、生徒にも教師にも改革をもたらした


こうしたツールの導入は、学校教育の現場で不可欠とされている“働き方改革”にもつながった。「学校ほど紙の印刷物が使われる場所はありませんでしたが、データを配布するようにしたことで印刷の手間が減り、ペーパーレスにつながりました」。また、「出席簿の管理で、IoTがとても大きな効果を発揮してくれます」。

出席簿に記入することが出欠を把握する唯一の手段だった時代、教師たちは記入を目で追いながら生徒たちの出席日数を確認する必要があった。月末の作業はほぼそれに追われることになっていたが、コンピューター上で行えるようにすることで、どれだけ出席していたかを一瞬ではじき出せる。教員たちにとっては作業時間を大きく軽減でき、その分を授業の準備や生徒の日々の把握にあてられる。「いずれ通知表も電子化したいですね」。生徒たちの情報を扱っている以上、セキュリティの管理は不可欠だが、そこは授業で使うネットワークと、業務で使うネットワークを分けて、情報が漏れないようにしている。

こうしたデジタル機器に、年配の教員が馴染めるかという心配もあったが、「ちょうど世代交代の時期で、教員の世代がぐっと若返って来たんです」と田中校長。加えて、「パソコンが使えるならと、当校を志望してくれる教員も出ているようです」。充実した環境を整えれば、それだけ優れた人材を集められるのは、企業でも学校でも同じだ。

心豊かな人材育成のためのICTを目指す

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「心が豊かな人になって欲しい」。そんな思いを込めて、田中校長自身も校章の意味を語り、校歌の歌詞を解説する授業を今も行っている。「2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられます。高校教育がとても重要になってきます」。 どう考えるか、どう判断するか、どう構築するか。それらを身に着けて社会に出て行けるようにしたいという思いが、ICTの導入によって実現しようとしている。

会社概要

法人名

学校法人日本文理学園日本文理高等学校

本社

新潟市西区新通1072番地

電話

025-260-1000

開校

1984年4月

生徒数

男子566名 女子302名

事業内容

教育

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