事例集

2022.01.17 06:00

入所者の“危険”を事前に検知 見守りベッドセンサーで安全・安心の介護を実現 晃樹会(埼玉県)

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埼玉県嵐山町の社会福祉法人晃樹会が運営する特別養護老人ホーム「らんざん苑」。介護職員が待機するステーションに深夜、アラーム音が響いた。

当直の職員がノートパソコンを確認すると、入所者がベッドから起き上がろうとしていることを警告する表示が映し出された。部屋の画像を見ると、入所者が起き上がろうとする姿が。

「〇〇号室の××さん、起きたようです。トイレだと思うので、ちょっと行ってきます」

介護職員は同僚に声をかけ、部屋に向かった。部屋に入ると、入所者は体を起こした状態。立ち上がる前にたどり着き、安全に介助しながら入所者をトイレに連れて行った。

入所者が寝ていたベッドには、2019年に導入した高機能の見守りベッドセンサーが設置されている。ベッドからの転落や歩行中の転倒リスクが高い入所者の安全確保に効果を上げている。

「入所者の中には転倒したり、ベッドから転落したりするリスクの高い方がいらっしゃいます。こうした方の安全を確保するため、このセンサーを利用して特に注意して見守っています」と、らんざん苑の中西敏雄施設長は話してくれた。

入所者の健康を守るさまざまなケアを実践


らんざん苑は埼玉県入間市の医療施設の院長が1996年に開設した施設で、嵐山町でも2番目に長く特別養護老人ホーム事業を運営してきた。現在、約80人の介護が必要な高齢者を預かっているほか、ショートステイやデイサービスなどの介護サービスも展開。新型コロナウイルス対策で現在は休止中だが、地域の独り暮らしの高齢者のケアにも積極的に取り組み、高齢化が進む嵐山町の高齢者福祉を支えている。

見守りベッドセンサーの導入について話すらんざん苑の中西敏雄施設長(右)と数井友美介護長(左)

見守りベッドセンサーの導入について話すらんざん苑の中西敏雄施設長(右)と数井友美介護長(左)


設立の母体となった病院との連携も強く、入所者への医療的なケアも充実。独自の取り組みとして、2年ほど前から入所者の口腔ケアにも力を入れている。職員が1日3回食後の歯磨きや舌についたコケの除去などケアをサポート。すると、飲み込む機能が低下した高齢者が発症しやすい誤嚥(ごえん)性肺炎で入院する入所者の数を激減させることができたという。

「職員による委員会を組織して訪問歯科の指導を受けながらケアの方法を学びました。委員会のメンバーの職員たちが中心になって施設全体で取り組みました。最初はなかなか定着しませんでしたが、今ではほとんどの入所者が口腔ケアを行っています」と、介護職員を束ねる数井友美介護長は胸を張った。

ベッドの脚に荷重センサー 転倒・転落のリスクをアラームで通知


病気の予防とともに施設が細心の注意を払っているのが、入所者の転倒・転落リスクだ。

「夜間どうしても眠れなくて何度も起きてしまう方、認知症で常にサポートが必要な方、一人では立ち上がれないのに立ち上がろうとしてしまう方。こうした方は転倒のリスクが高いんです」と数井介護長は語る。

深夜に目を覚まし、ベッドを抜け出して歩き出し、転倒してしまう。ベッドで寝がえりを打つうちにベッドから転げ落ちてしまう。骨がもろい高齢者はちょっとした転倒も大きなけがに発展しかねない。特に夜の就寝時間帯は見守りが手薄になり、転倒・転落のリスクは高くなる。頻繁に巡回はしているものの、常に見守り続けるのは難しいのが実情だ。

見守りセンサーを設置した介護用のベッド

見守りセンサーを設置した介護用のベッド


らんざん苑では入所者の転倒を防止するため、さまざまな見守り用センサーを活用してきた。その一つがマット式のセンサーだ。ベッドの横にマットを敷き、入所者がマットに足を下すと、ステーションにアラームで知らせてくれる。アラームが鳴ると居室に駆けつけて介助することができる。知らないうちに歩きだして、転倒してけがしてしまう危険は防げるのだが、駆け付けた時には、すでに立ち上がっていたり、ふらつきながら歩き出したりしているケースも少なくなかったそうだ。

「なかには、わざとマットをよけて立ち上がろうとする入所者さんもいらっしゃいました。センサーがあるのが分かっていて。『職員に悪いから』と気を遣われていて。こちらはしっかりと知らせてほしいのですけどね」と、数井介護長は見守りの苦労を話してくれた。

ベッドの脚の車輪の下にあるのが荷重センサーだ

ベッドの脚の車輪の下にあるのが荷重センサーだ


新たに導入した見守りベッドセンサーは、ベッドの4つの脚にそれぞれに荷重センサーを設置し、荷重の変化を検知することによって就寝中の入所者がどんな状態なのかを判断する仕組み。入所者の状態を高い精度で読み取り、パソコンで確認することができる。

体がベッドの端に寄りすぎていたら、寄っている側のベッドの脚に荷重がかかる。ぐっすり眠っていれば、センサーに大きな変化は起きないが、目が覚めていれば、手や足を動かしたり、寝返りを打ったり体を動かす。そんな微妙な変化もセンサーは検知する。こうしたリアルタイムのデータを、インターネット回線を通じてステーションのパソコンに送信する。

パソコンに搭載されたシステムは、センサーのデータをもとに入所者の状態を分析。8つのアイコンでわかりやすく表示する。転落の危険や立ち上がりを検知したらアラームで警告して当直職員に対応を促す。居室内にはシステムと連動するカメラも設置されており、アラームが鳴った際の入所者の様子をステーション内でも確認できる。

居室にはカメラが設置され、入所者の安全を見守る

居室にはカメラが設置され、入所者の安全を見守る


「パソコン上で入所者の状態を把握できるシステムは、これまで聞いたこともない初めてのものでした」と数井介護長。実際に利用する立場にある介護職員らを集め、施設で実際にデモンストレーションをしてもらった。職員が実際にベッドに横たわり、パソコンでどう表示されるのか試した。その結果、職員の評価も高く、導入することが決まった。

これまで利用していたセンサーと大きく違うのは、入所者の行動をリスクが高まる前に検知できる点だ。マット式では、入所者は床に足をつけた状態で、職員が駆け付けた時はすでに立ち上がてしまっている可能性が高いが、新たに導入したセンサーは、立ち上がる前に介助できる。それだけ入所者の転倒リスクは軽減できる。

センサーで眠りの深さも解るから「生活リズム」に合わせた介護が可能


さらに、このセンサーは、入所者の体動をとらえ、眠りの深さも解るから体調や生活リズムに合わせた介護も可能にする。

継続的に入所者の体の動きのデータを集め、分析することで、入所者の日常の生活リズムを読み取ることができる。一人ひとり異なる生活リズムを把握しながら介助をすれば、入所者のストレスを最小限に抑え、快適な介護サービスを提供できるようになる。

ステーションにあるパソコンには入所者の状態が「見える化」されている

ステーションにあるパソコンには入所者の状態が「見える化」されている


「睡眠導入剤を常用している入所者さんがいるのですが、朝になる前に目を覚まされていました。そこで過去のデータをもとに看護師や介護士が相談して、朝すっきり起きられるよう配薬のタイミングを調整しました。すると、規則正しい睡眠時間を確保できるようになりました」と数井介護長は話す。

利用データを蓄積することで、さまざまな介護の可能性も生まれてくる。「例えば、トイレに必ず起きる入所者さんがいるのですが、データを分析して、その時間帯を把握できれば、ちょうどいいタイミングで職員が声かけをしてトイレに連れて行ってあげられます。そうすることで、入所者さんのストレスを軽くできます。こうした活用ができないか研究中です」と数井介護長はセンサーの可能性に期待を寄せている。

介護職員の負担も軽減 「働きやすい職場づくり」に貢献


もちろん、見守りベッドセンサーは介護する職員たちの負担軽減にも貢献している。

らんざん苑では、特に転倒のリスクが高い入所者のベッドにこのセンサーを使用しているが、転倒のリスクが高い分、巡回やケアのための訪問回数が多い。導入後、その回数を大幅に減らすことができた。センサーを活用することで、入所者の生活リズムに合った介護が定着すれば、さらに職員の負担軽減につながる期待は大きい。

また、このセンサーは、介護業務システムとの連動も可能だ。センサーを導入したちょうど同じ時期に介護業務の支援システムを導入。タブレットを使った介護記録の作成などにも取り組んでいる。センサーのデータを活用した介護記録作成の作業もスムーズで、記録の手間も軽減できる機能もある。

晃樹会が運営する特別養護老人ホーム「らんざん苑」

晃樹会が運営する特別養護老人ホーム「らんざん苑」


らんざん苑では、まだWi-Fiが施設全体に届けられる環境にないため、センサーの情報は現状ではステーションでしか確認はできないが、今後、ネットワーク環境が整備されれば、巡回中でも入所者の動向を見守ることが可能になり、さらに利便性が増してくる。

介護の現場では、人材の確保が大きな課題だ。らんざん苑も多分に漏れず、人材の確保は悩みの種だ。中西施設長は「働きやすい職場環境づくりをつくるうえで、ICTは欠かせなくなっています」と指摘。見守りベッドセンサーのほかリフト式の介護ロボットを導入するなど限られた予算をやりくりしながら積極的にICTの活用に取り組んでいる。

見守りベッドセンサーがユニークなのは、介護を受ける高齢者の状態を「見える化」することによって、受け身になりがちな介護業務が先手を打って対応できる点だ。介護を受ける側、介護する側双方にメリットが大きい。介護現場が抱える課題の解決に将来、大きな役割を果たすかもしれない。さらに、介護現場でのICT活用にこれまでにない、新たな可能性を感じさせてくれた。

会社概要

法人名

社会福祉法人 晃樹会

本社

埼玉県比企郡嵐山町越畑1371-1

電話

0493-63-1261

設立

1995年7月

従業員数

92人

事業内容

特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、居宅介護支援事業所、ヘルパーステーション、グループホームの運営

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