事例集

2022.01.13 06:00

販売管理システム導入で「業務の見える化」と新たな成長のきっかけに オノ(北海道)

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「何がどうして、どうなっているのか…」。業務の手順や内容は担当の社員以外、全く分からない―。そんな問題を抱えている会社は少なくない。企業に巣くう「属人(ぞくじん)化」という“病(やまい)”だ。

その人がいないと仕事が進まなかったり、担当スタッフに仕事が集中したりして、全体の業務に影響を及ぼしてしまう。その業務に関する詳しい情報がなかなか入らず、経営の足かせになることもある。「属人化」は、経験や専門的なノウハウを生かせるメリットは大きいが、依存しすぎると、会社の存続を揺るがす事態に陥ってしまう。

北海道旭川市で理容・美容に関連する店舗向けに総合サポート事業を展開する株式会社オノのCarr(カー) 左恵子社長は、2016年に父から会社の経営を引き継ぐと、社内に広がる「属人化」の排除に乗り出した。情報端末や在庫管理ソフトなどを積極的に導入し、業務の「見える化」に取り組むと効率化が進み、会社の「風通し」が飛躍的に向上した。

父の会社の経営に参画…いきなり大きな壁に


「この業界の知識は全くなかったのですが、父が高齢で、このまま会社の経営を続けるのは厳しい状況になっていました。夫のプッシュもあり、父の会社の経営に携わることにしました」とカー社長は振り返った。

ICTを活用して社内の「脱属人化」にチャレンジするオノのカー社長

ICTを活用して社内の「脱属人化」にチャレンジするオノのカー社長


それまで英語教室を営んでいたカー社長。米国出身の夫は昔ながらの経営を続けていた父の会社をみて、「このままでは立ち行かなくなるのでは」と案じ、妻の背中を押した。今から10年ほど前、2010年ごろのことだった。

「でも、会社に入ると、社員たちと全くコミュニケーションが取れませんでした」とカー社長。いきなり大きな壁に突き当たった。

理美容品の卸売り会社を独立して会社を設立した父は、「相当やり手な営業マン」(カー社長)だったそうだ。開店時から親身になってオーナーをサポートし、 “人間力”を武器に得意先を増やしていった。現在7人いる営業スタッフも父の営業スタイルを踏襲。北海道のほぼ全域を飛び回り、約1200の理美容店やネイルサロンなどをサポートしている。 得意先の情報はすべて営業スタッフの頭の中。会社には情報がなく、どの得意先がどんな商品を注文しているのか、そんな重要なデータも会社に蓄積されていなかった。「属人化」していたのは、在庫管理も同様で、仕入先への商品の発注から在庫管理、得意先への商品の発送は在庫管理の担当者一人で、スーパーマン並みにこなしていた。

得意先の情報もなく、商品のフローも分からない。カー社長の改革はそこからのスタートだった。

まずはグループウエアの活用で社員とのコミュニケーションを密に


まず始めたのがクラウドベースのグループウエアの導入だった。営業スタッフ全員にノートパソコンを配布し、業務の「見える化」にチャレンジした。

営業担当者からの報告をチェックするカー社長

営業担当者からの報告をチェックするカー社長


営業スタッフの年齢層は20~60代と幅が広い。年配の社員ほど「何でこんなものを持たせるのか」と不評だった。渋々ながら送ってきた営業報告に、カー社長は一つ一つ目を通し、優秀な成績を上げた社員を朝礼で評価した。

「それまでは、どんなに活躍しても、どんなに難しい案件を決めても誰も何も言わないし、聞こえてきませんでした。同じ会社でありながら個々がバラバラの状態でした。しかし、活動状況を『見える化』して、評価することでみんなに認めてもらえる。それがお互いの励ましになってきました」とカー社長は当時のことを打ち明けた。

ICT活用で「属人化」を排除、風通しのいい経営に


さらにカー社長は2020年から、業務全体のフローを把握できるようにするために販売管理システムや在庫管理システムを活用した本格的な業務改革に着手した。

理美容サロン向けにシャンプーなどの商品を供給。取り扱い商品は3~4万点に上る

理美容サロン向けにシャンプーなどの商品を供給。取り扱い商品は3~4万点に上る


オノが扱う商品はシャンプーやヘアカラー、ハサミやブラシなど3~4万点にも及ぶ。これまでの経験をもとに膨大な商品点数を管理しており、ほかの社員には手出しができない状態だった。「小さい会社にありがちな『この人がいないと回らない』という状況でした。しかも、その担当者に負担が集中し、忙しいとコミュニケーションもとれませんでした」。

受発注の手続きは紙ベースで行われていたため間違いも多く、違う商品を納品してしまうこともあった。会計上の数字と在庫の計算が合わなかったり、発送ミスで不要な在庫を抱えたりすることも少なくなかった。

販売・在庫管理のシステムを導入することで、営業スタッフの頭の中に囲い込まれていた情報も共有化され、担当者が不在でも社内の誰もが倉庫から商品を探し出せるようになる。もちろん、請求書や領収書、伝票などの作成は受発注などのデータを入力するだけで、伝票や請求書、領収書などの必要な書類を自動作成してくれる。

この取材を行ったのは、システムを稼働させてから8カ月が経過した段階だったが、その成果は目に見えて上がってきた。特に得意先への対応が早くなり、納品ミスも激減した。

運用まで苦労の連続 大切なのは「あきらめない心」「突破力」


これまでのICT活用の取り組みを明るく話すカー社長だが、その道のりは苦労の連続だった。

デジタル機器が不得手な社員にその必要性を理解してもらうのに大きなエネルギーを費やした。最初に導入したグループウエアはハイスペックのビジネスソフトで、社員が全く使いこなせず、活用を断念した。販売・在庫管理のシステムの導入も使い方を理解し、本格稼働できるようになるまで半年近い時間を要した。デジタル化という今までにない仕事のストレスで、帯状疱疹を発症した社員もいたという。

ICTのシステムの多くは、家電製品のように「買ったらすぐに使える」ものではない。ICTに詳しいシステム担当者を配置できない中小企業は、今いる人員の中で使いこなせるようにならないといけない。それには一定期間、準備や学習も必要だ。

システムの導入に社員が苦労している時、カー社長はあえて手を出さなかったそうだ。

外部の人が手取り足取り教えれば、導入したシステムを使うことは難しくないかもしれない。業務のデジタル化に社員全員で取り組むことで会社が強くなることをカー社長は分かっていた。全く知らない用語、従来と違う帳票、不慣れな機器…。互いに教え合いながら全員が根気よく進め、一歩ずつ理解し、使いこなすようになった。

コミュニケーションの成果の一つは、目標達成したら全員で食事会やバーベキューに行くようになったことだ。すると、「また行きたいね」と全員で頑張ろうという風土が生まれてきた。オノの社員の結束は強くなり、コミュニケーションも密になり、今まで以上に風通しの良い会社になった。

得意先への提案商品を相談するカー社長と社員

得意先への提案商品を相談するカー社長と社員


ICTを活用した経営・業務改革についてカー社長は「まだ道半ば」と気を引き締める。販売・在庫管理システムに蓄積されたデータを分析し、得意先のニーズに合った商品を提案することが次の一歩だ。「すでにそれぞれがデータ活用の意味を知っています。今後、営業スタッフにスマートフォンやタブレットを持たせて、出先で活用できるようにしたいですね」と笑顔をみせた。

ICTの導入によって情報を共有し、「全員で取り組む」という姿勢が大切だ。成果を出すために、社員が専門的に培ってきた知識や経験が生きる。その知識や経験は、ICTを通じて共有することで2倍、3倍の力となって返ってくる。

働き手不足や新型コロナウイルスの感染拡大など中小企業を取り巻く環境は厳しさを増す。その中で、DX(デジタル技術を活用した経営改革)は避けて通れない道だ。大きな壁に突き当たってもあきらめないカー社長の「突破力」と「全員で取り組む姿勢」を武器にさらなるICTの活用に果敢にチャレンジしてほしい。

事業概要

会社名

株式会社オノ

本社

北海道旭川市1条通18丁目左5

電話

0166-35-1111

設立

1970年5月

従業員数

12人

事業内容

理美容サロンへの商材供給、情報提供、新規オープン支援・トータルコンサルティング

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