事例集

2022.01.04 06:00

山間部の建設工事に段階的にICTを導入 長期的視野で社員の習熟を図る倉橋建設(愛知県)

山間部の建設工事に段階的にICTを導入 長期的視野で社員の習熟を図る倉橋建設(愛知県)
関連記事のお知らせを受け取る
問い合わせをする

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


建設・土木はICT導入による大きな構造改革が期待されている業界だ。その潮流の中、長期的な視点で段階的にICTの導入を進めている建設会社がある。愛知県岡崎市の山間部を中心に治山治水、公共インフラの整備を70年に渡って担ってきた倉橋建設だ。

急なICT導入は現場にハレーションを生みかねない


「社員が安全かつ効率的に仕事をするためのツールとしてICTには強い関心を持っています。しかし、複数の新しい技術を一度に導入すると、これまでの仕事の進め方が大きく変わってしまいかねません。ベテランほど不安やストレスを感じますし、習熟するまでに一定の時間もかかります。ICTによって現場にハレーションが起こるのでは導入する意味がありません。社員に負担をかけず少しずつデジタル化を進めるのが我が社にとっての最適解と考えています」。

戦国時代の覇者、徳川家康ゆかりの地として知られる岡崎。岡崎平野の東部から徐々に高度を増す山間にある倉橋建設の本社で、倉橋毅(きよし)社長はICTについての見解を確固たる口調で示した。

ICT導入の決意を語る倉橋毅社長

ICT導入の決意を語る倉橋毅社長


「よいものを、より安く、より早く、安全に」が倉橋建設の経営理念だ。ゼネコンでの勤務経験を持つ倉橋社長は2016年、父親から社長職を引き継いだ。一度、故郷を離れたからこそ今はその素晴らしさを実感しているという。「気候変動のせいもあって、今までなかった災害が起こるようになっています。そのことを踏まえて、地域に住んでいる人たちの命、財産を守れるような構造物、生活が便利になるような施設を作っていきたい」。決意をこめた表情で倉橋社長はそう語った。

2年かけてデジタル測量器、電子小黒板を段階的に導入


社員数は21人。20代2人、30代3人、40代8人、50代5人、60代3人の構成になっている。現場で仕事のノウハウを伝授できるようにベテランと若手をペアにしているが、デジタル機器については若手が先に使い方を覚え、ベテランをサポートすることが多いという。

倉橋建設は2年前に杭打ちなどの作業に特化したデジタル測量器を導入。昨年は、発注元に提出する工事写真の作成をデジタル化によって省力化する電子小黒板を採用するなど着実にICTを取り入れてきた。

発注元のデジタル化にあわせて遠隔臨場システムを採用

倉橋建設の工事の様子

倉橋建設の工事の様子


さらに今年8月から活用を始めたのが、動画撮影機能を備えたスマートグラスとWEB会議システムを組み合わせた遠隔臨場システムだ。倉橋建設の発注元は愛知県などの官公庁が多い。今年に入って、県の各部局が遠隔臨場の試行要領を策定するなど業務のデジタル化を進めていることを受け、長年取引のあるリコージャパンに相談し、アドバイスを受けた上で導入を決めたという。

「スマホと連動したシステムも検討したのですが、スマートグラスはヘルメットに装着できるので両手がフリーになり、作業がしやすい利点があります。使いやすさや費用対効果を総合的に考えて導入しました」(倉橋社長)

スマートグラスから現場の動画を送って業務を効率化

スマートグラスで現場から動画を送信することができる

スマートグラスで現場から動画を送信することができる


現在、通信環境が良好な県発注の2つの建設現場で遠隔臨場システムを活用している。発注元による現場確認は、施工開始から型枠の組み終わり、鉄筋の組み終わりなど工事が進む段階ごとに行われる。工期は現場によって差はあるが半年以上が大半で、その間、確認は10回程度行われる。

遠隔臨場の大きな効果といえるのが、倉橋建設の社員、県の担当者の双方が時間を効率的に使えるようになったことだ。システム導入前は、最寄りの事務所から各現場に車で来てもらうのに片道30分以上かかっていたが、スマートグラスで見た動画をそのまま事務所のパソコンで確認してもらえるようになったので、わざわざ足を運んでもらう必要がなくなった。

「以前は、県の担当者の帰りが遅くなって超過勤務にならないように現場確認に来ていただくのは、午前10時から午後2時にかけての時間帯でした。昼間が塞がるので対応する現場にとっては実質半日仕事だったのですが、早朝や夕方でも現場確認していただけるようになったので、その分、時間を効率的に使えるようになりました。今後、テレワークなど県の働き方改革が進んでいく中、システムがお役に立つ機会は今後も増えそうです」と倉橋社長はうれしそうに話した。

遠隔臨場システムで、二次災害の危険から社員を遠ざける


遠隔臨場システムはほかにも様々な場面で活用できそうだという。倉橋建設は県と岡崎市内の山間部30キロの路線間で防災協定を結んでいる。台風などの災害発生時、倒木や崩れた土砂が道路を塞いだり、道路が陥没した際はすぐに駆け付けて復旧作業にあたらなければならない。「二次災害を避けるにあたり、県の担当者に現場の動画を見てもらうことで、工事を進めるべきか、控えるべきかを的確に判断いただくことができます。現場で大丈夫と思っていても実際はそうでないケースもままあります。システムを使って現場を客観化することで社員を二次災害の危険から遠ざけることができると考えています」と倉橋社長は話した。

倉橋建設の本社周辺の風景

倉橋建設の本社周辺の風景


受注する工事は山間部の難しい案件が多い。下請けに発注せず、管理から施工まで自社の社員で行うのは、緊急時に迅速に対応しなければならないケースが多いからだ。コストはかかるが建機や車両も自社で揃えている。「技術が必要なのはもちろん、一刻を争うときに外部に発注していては間に合いません。冬場は雪が降ると休み返上で除雪作業にあたるときもあります。生活に必要なインフラを維持するために、この仕事を誰かがしなければならないという思いで社員一同取り組んでいます。社員も地元の人から感謝していただけることが、やりがいにつながっているようです」(倉橋社長)。

今後は3D-CADやドローン測量も検討

倉橋建設の本社

倉橋建設の本社


今後は、3D-CADやICT搭載建機の導入、測量にドローンを活用することも検討していきたいという。若い人に建設業界を志してもらう上でICTへの取り組みを示すことは大きな要素になると考えている。機動的に自社の取り組みについて情報発信できるように11月からHPを一新したのもその思いの表れだ。

「100年企業を目指す上で、『倉橋建設ならちゃんとした仕事をしてくれる』と地域から言っていただける企業であり続けたい。これからも品質を大事にお客様に喜ばれる構造物を提供していきます」と思いを語る倉橋社長。地域や社員への思いとICTの活用が生み出す相乗効果にこれからも注目していきたい。

事業概要

法人名

倉橋建設株式会社

本社

愛知県岡崎市樫山町字西原88番地1

電話

0564-82-3029

設立

1951年11月

従業員数

21人

事業内容

土木工事、舗装工事、水道工事、下水宅内配管工事、各種民間工事 

関連記事のお知らせを受け取る
問い合わせをする