事例集

2021.11.17 06:00

コロナ禍で途絶えた介護研修 オンライン環境整え再開 三喜会(群馬県)

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新型コロナウイルスの感染拡大で、高齢者の介護に携わる施設は1年以上にわたって気を抜けない厳しい日々が続いている。抵抗力が弱い高齢者は、感染すれば重症化のリスクが高く、感染対策に細心の注意を払っている。施設の衛生管理を徹底し、外部からのウイルス侵入を防ぐため、家族との面会や委託業者の出入りも制限。いつどこで感染するかわからないリスクに職員は日常の生活・行動にも神経を尖らせている。

「施設内で感染したらどういう対応をとるか。感染した利用者を隔離する場所を設定したり、マスクや手袋などの衛生材料をどれだけ必要か検討して準備したりしています。ふだんの取り組みだけでなく、万が一のシミュレーションを立てて、いまそこにある危機に備えています」と、群馬県高崎市の社会福祉法人三喜(みつき)会が運営する特別養護老人ホーム「吉井セピア」「セピアの郷」の大澤和義施設長はこう語り、気を引き締めた。「帰省したい」と相談を受けた職員を説得して思いとどまらせたこともあったという。

苦労は感染対策だけにとどまらない


職員のスキルアップや施設管理者のマネジメント能力向上のために定期的に開催されている研修への参加が難しくなった。2020年の第一波の感染拡大を受けて、会場に介護従事者を集めて行われていた研修は一時ストップ。その後、オンラインで研修が再開されたが、「吉井セピア」では、オンライン研修を受ける環境が整っておらず、急遽、その対応を迫られることになった。

スキルアップに欠かせない研修がコロナ禍でストップ


社会福祉法人三喜会は、大澤施設長の父が1992年に創設した。「父が親の介護をする中で、『同じように困っている人がいるはず。これは誰でも通る道なのだから』と、高齢者福祉事業に乗り出したそうです」。翌年、「吉井セピア」の運営がスタートしたが、まもなく父が他界。その意志を母が継いでいたが、その母も2019年に亡くなり、開設当初から父の仕事を支えてきた大澤施設長がその運営を担うことになった。

高齢者福祉の充実を求める地域のニーズは高く、世話をする高齢者の人数も増加。特養老人ホーム「セピアの郷」を併設された。現在2施設で約70人の職員が、24時間365日の体制で介護の必要な高齢者約120人の世話を行っている。施設の運営に加え、居宅介護支援事業なども展開し、高齢者の介護に苦労する家族を支えている。

「認知症が進行していると、うまく受け答えができなかったり、反応ができなかったりする利用者の方もいます。人間らしく、温かみをもって接するよう職員にいつも声をかけています」と大澤施設長は話してくれた。

日ごろから施設内で介護職員が利用者とコミュニケーションをとっている

日ごろから施設内で介護職員が利用者とコミュニケーションをとっている

Web会議システムでの再開…「今のままではできない!」


国は介護サービスの質の向上を目的にさまざまな研修制度を設けている。研修を受けることで、より専門的な業務に従事できる仕組みになっており、介護福祉士などの国家資格の取得するうえで欠かせない研修もある。管理職や責任者になるために必要な研修もあり、吉井セピアにも働きながら研修を受け、スキルアップを目指している職員が少なくない。

オンライン研修への対応にあたった事務担当の中嶋彩乃さん

オンライン研修への対応にあたった事務担当の中嶋彩乃さん


こうした研修は全国老人福祉施設協議会や社会福祉協議会などが主催していたが、2020年4月以降、会場に人を集めて行う集合研修は感染防止の観点から中止され、一部の研修についてはオンラインで実施されることになった。

オンライン研修では、YouTube配信やWeb会議システム「Zoom(ズーム)」で行われることになった。YouTubeによる研修であれば、施設のデスクトップパソコンでも対応ができるが、Web会議システムでの研修は、双方向で映像や音声のやり取りが必要になる。カメラやマイクなどで映像と音声を送る機能が付いた機器の導入が必要になってきた。

団体からの連絡を受けた事務担当職員の中嶋彩乃さんは、「今のままでは、研修への参加は難しく、急いで環境整備する必要がある」と施設長に相談した。介護現場で仕事をしていた中嶋さんも研修の重要性をよく理解していたからこそだった。

今となっては当たり前のようになったWeb会議システムだが、その当時は施設が利用することまで想定していなかった。大澤施設長は中嶋さんに対応を指示。中嶋さんは急ぎオンライン研修への対応が可能なノートパソコン1台購入し、ギリギリのタイミングで、オンラインで研修が受けられるよう施設の環境を整えた。

このノートパソコンを活用して職員が定期的にオンラインの研修に参加。必要な技能の習得に励んでいる。職員のスキルアップの遅れは、施設の業務や職員の生活設計にも影響を及ぼすだけに大澤施設長も対応が間に合い、ほっと胸をなでおろしたという。「もともとICTや機械はちょっと苦手」という大澤施設長も管理職を対象にしたオンライン研修を受講。その利便性を体感している。

一方通行よりも双方向…質疑応答も可能に


中嶋さんによると、研修を受けた職員からはYouTubeでの研修については、「質問ができないまま終わってしまって残念」との声が多かった一方で、Web会議システムは質疑応答ができる点で評価が高かったという。

社会福祉法人三喜会が運営する特別養護老人ホーム「吉井セピア」

社会福祉法人三喜会が運営する特別養護老人ホーム「吉井セピア」


一方通行では、講義内容に対する理解がなかなか深まらないところはある。疑問点を講師に投げかけ、答えてもらうことで、その場で疑問が解け、理解のスピードは格段にアップする。講師とのコミュニケーションとりながら双方向で行う研修の重要性を再認識させられる話だった。

リアルなコミュニケーションとオンラインでの面会を検討


Web会議システムの活用は今のところ研修などにとどまっているが、使いようによっては幅広い活用もできる。吉井セピアでは新型コロナウイルスの感染拡大以降、家族との面会をストップした状態が続いている。

大澤施設長は「オンラインでの面会は今後の検討課題です。と同時に、やはり実際に会うということは研修についても、面会でも重要です。お互いに顔を見ながらさまざまな感情と意思を伝え合う。Webではそこまでのコミュニケーションはできません。アナログ的なリアルのコミュニケーションを大切にしながら、デジタルで補完するという考え方が重要ですね」と話していた。

吉井セピアだけでなく、全国の高齢者福祉施設や学校、企業など、あらゆる組織に言えることだが、新型コロナウイルスの感染拡大で大きなピンチに直面した。その半面、そのピンチがきっかけとなって、オンラインによるコミュニケーションの重要性やメリットが認識されるようになった。

リアルなコミュニケーションを大切にしながらICTの活用にどうチャレンジするのか。三喜会の今後の事業展開に注目したい。

事業概要

法人名

社会福祉法人三喜会

所在地

群馬県高崎市吉井町塩1147

電話

027-387-8797

設立

1992年8月

従業員数

約70人

事業内容

特別養護老人ホーム「吉井セピア」「セピアの郷」の運営、デイサービス、居宅介護支援

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