福祉介護
事例集
2021.07.27 06:00
「ウェブ会議」が業務を効率化 組織のコミュニケーション力がアップ 社会福祉法人コロロ学舎(東京都)
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「自閉症スペクトラム障害(ASD)」など発達障害を持った人たちの療育や生活支援に取り組む東京都瑞穂町の社会福祉法人コロロ学舎は、石井聖理事長のそんな強い思いから1998年に設立された。受け入れているのは、発達障害を抱えたまま大人になった人たちだ。「コロロメソッド」と呼ばれる独自の療育プログラムをもとに集団での歩行トレーニングやリズム体操を通じて、パニックやこだわり、問題行動などを軽減し、落ち着いた行動がとれるよう療育している。
20年以上にわたり発達障害を抱えた人たちを療育・支援
「みんなが渦のように歩いていると、意味が分からなくても、それにつられて渦のなかに入っていける。言葉かけをしなくても、歩く姿をうまくみせることによって、集団の中に入れない人もうまく溶け込んでいける。『コロロメソッド』は、発達障害を持つ方々の特性に着目した療育プログラムなのです」と、コロロ学舎の中核となる障害者支援施設「瑞(みずき)学園」の杉浦章一園長は説明してくれた。
自閉症などの発達障害を持った人は、人とのコミュニケーションがうまく取れず、そのストレスからさまざまな問題行動を起こしてしまう。言葉かけやスキンシップが逆効果になり、反発的な行動を繰り返すなどして家族と一緒に住めなくなってしまうケースもある。
無理な声掛けをせず、自分の意志で集団の中に入れるよう粘り強く見守っていく。やがて、集団に溶け込み、落ち着いた行動をとるようになる。療育が進むと、袋詰めや畑仕事などの軽作業にも進んで取り組むようになるという。
石井理事長は、東京都立川市の職員として福祉行政に携わってきた。1980年代には発達障害を持つ児童を療育する施設の園長を務めた経歴を持つ。その経験から生まれたのが「コロロメソッド」だ。当時は発達障害に対する理解が乏しく、障害を持った子を家族が座敷牢のようなところに閉じ込めてしまう悲惨な例をみることもあったという。心を痛めた石井理事長は「コロロメソッド」をもとに発達障害をもつ子・成人の支援に取り組もうと公務員を辞め、独自での活動を展開。養護学校(現在の特別支援学校)の教職員だった杉浦園長も石井理事長の活動に共感し、施設の設立に尽力した。
瑞学園では現在30~40代の成人を中心に入所、通所合わせて約130人の発達障害を持つ方々を受け入れている。また、2013年には東京都羽村市に五乃神学園を開設。コロロ学舎全体で約200人が入所・通所しており、障害を持つ子や家族の大きなよりどころとなっている。
テレビ会議システムを刷新 「使い勝手がよくなった」
瑞学園を中心に東京・多摩地区に3カ所の施設を持つコロロ学舎は、ICTの活用に積極的に取り組み、2010年ごろには本格的なテレビ会議システムを3拠点に設置していた。
「各施設の代表者をつないで会議を行ったり、職員に療育のノウハウなどを教育する研修を行ったりしていました。それぞれの施設が離れているので、一つの場所に集まるには時間と費用がかかります。といって、電話では会議や研修はできません。導入費用は高かったのですが、効率性を考え導入しました」と事務局の巻渕直子課長は語る。
導入したシステムは専用の端末にモニターやカメラ、マイク・スピーカーを接続する大がかりなものだった。専用の台車に乗せていたが、簡単には移動できないため、テレビ会議をする場所は決められていたという。「操作できる人も限られていて、準備に時間もかかっていました。使い勝手という点では、あまりよくはありませんでした」。
そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大とともにインターネットのパソコンやタブレットを活用したウェブ会議が注目されるようになり、コロロ学舎でもウェブ会議のツールを使って会議や研修を始めたという。
「使い勝手の良さは想像以上でした」と巻渕課長は話す。
会議に使うのは、タブレットやノートパソコン。Bluetoothでタブレットなどに接続できるカメラ付きのスピーカーぐらい。タブレットなどをWi-Fiでネットにつなぎ、「Zoom」などのアプリケーションツールを使って接続すれば、すぐに遠方の相手と会議が始められる。「1部屋は5人くらい集まるときは、タブレットなどを2台くらい用意している」(巻渕課長)そうだ。
従来は、テレビ会議システムが設置された会議室でしか打ち合わせや会議ができなかったが、場所を選ばず空いている部屋をみつけて、どこでも気軽に集まれるようになった。別の打ち合わせで会議システムがある会議室が押さえられていると時間をずらしたり、無理に会議室を空けてもらったりと部屋を確保するための調整もする必要がなくなった。
機器の接続やツールの設定などは、ある程度、パソコンやインターネットの知識があれば簡単だ。会議前の機器接続の準備にも時間がかからなくなった。「会議の準備を含めると大幅な時間短縮につながっています」と杉浦園長は評価していた。
ビジネスチャットやワークフローツールの導入で働き方も変化
一方、昨年から社内業務の効率化を目指し、業務連絡や職員間のコミュニケーションに利用できるビジネスチャットツールや起案書や稟議書などの業務書類をネットでやりとりできるワークフローツールも新たに導入した。
施設では、入所者を24時間体制で見守るため職員は交代制の勤務。昼夜にわたり職員が常駐しているが、その影響で休日は変則的になるため、日によっては一日顔を合わせない職員もいる。このため、職員間の連絡や書類のやり取りに穴が開くことがあり、いかに連絡を徹底させるかは、業務上の大きな課題になっていたという。
「入所を希望の家族や行政の担当者、福祉の関係者など多くの方が私たちの取り組みを見学したいと来訪されます。見学のスケジュールに合わせて、ぜひ見てもらいたい活動などを紹介したいのですが、当日の職員への連絡が行き届かず、紹介できなかったこともたまに起きました」と杉浦園長は振り返る。
当時は連絡ノートなどに引き継ぎ事項を記して、職員に連絡をしていたが、職員が連絡ノートを見落としていたり、当日の担当者が前日に休みに入っていて連絡ができず、準備が間に合わなかったりしたことが原因だった。
ビジネスチャットツールは、登録した社員間で、チャット形式での情報の交換が可能になる。読んでいるどうかの「既読」「未読」も表示されるので、発信者が、連絡がしっかりと届いているかどうかを確認できる。職員はふだん使用しているスマートフォンにアプリを入れておけば休みの日も連絡を確認でき、休みの翌日にやらなくてはならない作業も出勤してすぐにとりかかることができる。職員間の連絡も密になり、見学者向けの対応もできるようになったという。
ワークフローツールも業務の効率化に大きく貢献している。
申請書類の回覧などを担当者にネットを通じて一斉に行うことができるため、管理職も以前に比べてスピーディーかつ確実に対応できるようになった。 「ここ数年の間で、組織内で抱えていた課題を解消するツールの情報がいろいろと耳に入るようになりました。ツールの導入で、ひとまず課題も解消できたと思います。組織の働き方を考える中で、今後、課題を解消できるようなツールがあれば、積極的に導入を考えていきたいですね」と、巻渕課長は話していた。
ほう・れん・そう ICTの活用が風通しのいい職場環境に
ほう・れん・そう―。「報告・連絡・相談」は、風通しのいい職場環境をつくり、円滑に業務を進めるうえで欠かせないものだ。だが、実行するのはなかなか難しいことでもある。コロロ学舎のように24時間の勤務シフトを敷いている事業では、タイミングよく、職員同士が顔を合わせて話ができないことも少なくない。
そんな場合でもICTをうまく活用することで、電話や連絡ノートなどのアナログ型のツールに比べ、より確実でスピーディーなコミュニケーションを可能にしてくれる。 「ほうれんそう」がしっかりした職場は、仕事に無駄な動きが少ない。無駄な動きがなくなれば、残業が減り、利用者へのサービス向上に時間をかけることもできる。「こんな課題があるけども、どんなICTを活用すると、便利になるのだろう」。そんな想像力を働かせながら、いろいろなツールを試してみると、ビジネスに新たな活路が生まれるかもしれない。
事業概要
法人名
社会福祉法人コロロ学舎
所在地
東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎武蔵野940
電話
042-568-0966
設立
1998年10月
従業員数
150人
事業内容
障害者支援施設・障害福祉サービス事業・障害児通所支援事業・特定相談支援事業・障害児相談支援事業