事例集

2021.06.24 06:00

高齢者増加と働き手減少からICTとAIを積極活用して大きな効果。医療法人母体の社会福祉法人ふるさと会(高知県)

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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


「数年前から一部の業務で記録のデジタル化を始めていたのですが、高齢者の増加や働き手の減少といった今後の課題に備えるために、業務の効率化とこれまで以上に情報の共有を進める必要がありました」 ふるさと会で統括管理を務める高井靖さんは、昨年3月以降に自然な流れで進んだICT機器導入の背景について語った。

脳神経外科の医療法人を母体に1995年3月に設立された社会福祉法人ふるさと会は、高知県高知市を中心に高齢者福祉分野で19の事業を運営している。特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、老人デイサービス事業、老人短期入所事業のほか、認知症に対応した共同生活介護、訪問介護、通所介護などさまざまなサービスを提供。2025年問題ともいわれる本格的な高齢社会の課題に対応するためICTの活用に力を入れている。

ふるさと会で統括管理を務める高井靖さん

ふるさと会で統括管理を務める高井靖さん

介護記録の全員デジタル化移行を1ヶ月で実現。音声入力も貢献


ふるさと会で働くスタッフの総数は約300人。20代から40代が7割を占める。高齢者の食事や入浴、移動を補助する現場のスタッフから看護師、ケアマネージャー、管理職に至るまで職種の幅は広い。  介護記録の支援ソフトを導入したのは特別養護老人ホーム、ケアハウス、デイサービス、ショートスティの各事業。以前は、担当者が手書きで介護対象者の記録を残していたのを改め、各部署に配布した計16台のタブレット端末やパソコンで、その日行ったサービスの内容や介護対象者の健康状態などの記録を入力するようにした。

特別養護老人ホーム森の里高知、ケアハウス花の郷高知の施設長を務める山本貴一さんは、実際にソフトを使うことでその効果を実感したという。

「若い人は、スマホに慣れているのでまったく問題ありませんでした。年配の人は、パソコンも触ったことのない方もいて、当初は、入力時間に大きな差があり、デジタルというだけで『ムリ』という人もいて、音声入力を使ってタブレットでの記録をスタートする人もいました。ただ、音声入力だと、例えば「介助」等の専門用語をうまく変換できないなどがあり、修正が多いことから、徐々にタブレットに直接入力するようになりました。直接入力については、使い慣れた人がサポートすることで、わずか1ヶ月で全員が普通に使えるようになりました」と山本さんは振り返った。

「使いながら慣れる」を実践したことで、特別な講習会を開催しなくても導入後1カ月で、今までの手書きが嘘のように全てのスタッフが使いこなすことができるようになったという。 音声入力については、音声の文字変換能力についてはまだまだ不十分なところが多いが、デジタル機器に抵抗を感じる人への入門としての役割は十分にあるようだ。

特別養護老人ホーム森の里高知、ケアハウス花の郷高知の施設長を務める山本貴一さん

特別養護老人ホーム森の里高知、ケアハウス花の郷高知の施設長を務める山本貴一さん


「記録に要する時間は、手書きの時は1日あたり1時間から1時間半かかっていましたが、デジタル入力に切り替えてからは30分弱に短縮することができました。短縮できた1時間を、施設内の庭園での散歩やレクリエーションの充実など入所している皆さんへのサービス向上に向けています」と利用者へのサービス向上が出来ることを、山本さんは嬉しそうに語った。

現場の状況をリアルに共有をできたことは想像以上の効果

スタッフがタブレット端末に情報を入力している様子

スタッフがタブレット端末に情報を入力している様子


サービスの充実に加え、情報共有も容易になった。
「導入したシステムがクラウドで情報を保存できるようになったことで看護師やケアマネージャーが現場に出向かなくても、まずは、自席から利用者の状態やケアプランの内容を確認することができるようになりました。また同じ情報を見ているので現場の人とのコミュニケーションも取りやすくなり、仕事の効率が格段にアップしました。森の里高知では特別養護で80人、ショートスティで16人が生活しているのですが、私も、それぞれの方が、どのようなスケジュールで1日を過ごしているのかパソコンでいつでも閲覧できます。トップ画面で、全員の大まかなスケジュールや申し送り事項を確認できますし、経過が気になる方については、経過をこの場で確認することも出来ます。必要であれば事前情報を持って担当の人に直接確認することもできます。その他にも『何階の誰々さんがリモート面会があります』とか利用者の状況がトータルで把握できますので、管理者として本当に助かっています」(山本さん)

オンライン面会、テレビ会議やってしまえば簡単。更なる可能性も


コロナ禍の中、昨年から始めたオンラインの面会システムも入所者に好評だ。特別養護では1日当たり2人から4人程度が活用するほどの人気で、システムの使い方に習熟したスタッフが、入所者の要望を聞きながら面会時間の設定を行い、家族とのコミュニケーションを楽しんでもらっている。
最初は全く初めての経験で戸惑いもあったようだが。簡単にできる事が理解できると、現場の職員がどんどん進めて、今ではスケジュール管理も含めて日常業務になっている。
コロナ禍でできるだけ接触を避けることを意識して、昨年暮れから19事業所の責任者が参加する月に1回の会議もオンラインに切り替えた。それまでは、1時間かけてきていた人もいたが往復2時間の時間が短縮できた。しかも事前案内をメールでしていたのが、グループウェアのチャット機能を使って事前に会議の議題を整理し、資料を共有することで会議時間そのものの短縮にもつながっている。

「コロナ対策だけでなく移動にかかる時間を節約できますし、デジタル技術を活用することでさまざまな可能性が広がっていることを実感しています。昨年11月から給与明細の配布も管理職の手渡しからウェブでそれぞれのスタッフに各自の明細を確認してもらうよう変更しました。慣例化していただけで実は省くことができた業務をこれからも洗い出していきたい」と高井さんは話す。

AIで認知症高齢者の行動を予測する研究に協力

総合福祉施設ヘリオス 法人本部のある総合施設

総合福祉施設ヘリオス 法人本部のある総合施設


ふるさと会は地域の高齢者福祉を支える一方で、AIやIoTセンサーなどの最先端技術を活用して、より高齢者に寄り添った介護を実現するための研究にも関心を持っている。中でも注目しているのが認知症高齢者に高確率で発生する暴言や妄想などの行動・心理症状、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)への対応だ。
認知症はアルツハイマー型、前頭側頭型、脳血管性などさまざまなタイプがある。記憶障害などの初期・中核症状が現れた後、極度のストレスが加わることでBPSDにつながるとされている。

「患者、家族、介護者にどのようなサポート体制を構築していくかが大きなテーマです。認知症高齢者の行動や身体状況の変化を早期に把握することで、家族や介護者の負担やストレスを軽減することができるはず。人間とAIを介護現場で協働させることでさまざまな問題を緩和できるのではないでしょうか」と高井さんは話す。

この考えを基にふるさと会が今年2月から取り組んでいるのが、社団法人認知症高齢者研究所(神奈川県横浜市)が進めるIoTセンサーを活用したBPSD予測システムの研究開発への協力だ。研究開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて、2020年度から3年間の予定で行われ、社会実装に向け実証実験も行われる。
さまざまなIoTセンサーから収取した高齢者の睡眠・覚醒状態、心拍や呼吸、排せつ、運動量などの生体情報、温度や湿度、照度などの環境情報をデータとして収集し、分析した上で人間に適切なケア方法をアドバイスできるAIの完成を目指すという。

センサーで収集したデータで介護の質を高める


「このAIがシステムとして実用化されれば、認知症を患った人は常に適切なケアを受けることができ、苦痛が軽減されます。ケアをする側も予防的なケアを提供することが可能になり、現場の業務の効率化にもつながります」(高井さん)

研究開発には介護現場での生きたデータが求められており、ふるさと会はケアハウスあじさいの里の入居者29人の日々の暮らしをサポートしながら得たデータを研究所に提供している。
居室には温度、湿度、匂いを計測するセンサーを設置。外に出るときはスマートウォッチで運動量を計測する。ふるさと会は、入所者にできるだけ施設の周辺に外出してもらうようにしているという。「行動を制限され、施設の中で長い時間を過ごしてしまうと高齢者の身体機能や判断力はますます低下してしまいます。自分でできることは自分でしていただくよう働きかけることを心掛けています」(高井さん)。就寝時のデータはベッドに設置したセンサーを通じて収集している。

データの活用にはさまざまな可能性がある。
「例えば、眠りが浅く頻繁に目覚めてトイレに起きる回数が多い人がいた場合、睡眠時の覚醒パターンを見て、目が覚めそうなタイミングでトイレに誘導することもできますし、画面で状態を確認しながら、順番に声がけすることで、快適な目覚めをしてもらえるようにもできるかもしれません」と高井さん。

ベテランのスタッフの経験と実際のデータを照合することでケアの精度を高め、マニュアル化することで経験の浅い人の習熟ペースを速めることも可能だ。

「将来的には測定したデータを睡眠日誌や呼吸日誌として記録し、離れた場所に住む家族に閲覧してもらうことも可能になるかもしれません。入居者の生活リズムにあわせたサービスを提供することで入居者の生活習慣の改善にもつながります。呼吸数の変化を見ることで体調の変化を早期に発見し、対応することができれば介護の質は飛躍的に高まるはずです」と高井さんは先を見据える。

認知症を予防するには何が最適か、認知症の改善には何が必要かを法人として常に考えているというふるさと会。新しい技術を活用して予防と治療をいかに進化させるか。ICTを活用した高齢者福祉の新しいモデルが生まれることに期待したい。

ふるさと会の外観

ふるさと会の外観

会社概要

会社名

社会福祉法人ふるさと会

本社

高知県高知市横浜20番1号

電話

088-848-2002

設立

1995年3月

従業員数

300人

事業内容

特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、老人デイサービス事業、老人短期入所事業、老人居宅介護

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