事例集

2021.04.30 06:00

クラウドを活用した効率的な入出庫は、配送各社が時間を決めるという逆転の発想で実現 麒麟倉庫(広島県)

クラウドを活用した効率的な入出庫は、配送各社が時間を決めるという逆転の発想で実現 麒麟倉庫(広島県)
関連記事のお知らせを受け取る
問い合わせをする

この記事に書いてあること

執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


自動車産業の重要な拠点のひとつ、広島県で積極的にクラウドを導入し、効率的なタイヤ物流の実現につなげている企業がある。ICTに関心を持つ若い人材の登用で好循環を生み出している麒麟倉庫だ。

マツダを支えるタイヤの中継ステーション


麒麟倉庫は、1950年7月に広島市西区横川で横川倉庫として創業、広島県内で営業所を拡大し、1964年に運送業に進出した。社名を麒麟倉庫に改称したのは1988年。伝説の霊獣、麒麟のように大きく躍進したいという思いを込めたという。トレードマークは麒麟の蹄(ひづめ)をイメージしている。

広島市安芸区にある2015年に完成した本社と倉庫は西日本の大動脈、国道2号線沿いに立地している。その敷地面積は約15,000平方メートル。高さ10メートルの平屋建て倉庫(一部二階建て)の延べ床面積は約13,000平方メートルにのぼる。 この倉庫は、広島県に本社と工場を置く自動車メーカー、マツダの生産スケジュールにあわせて、工場に納入するタイヤをメーカーから一時的に預かる中継ステーションとしての役割を担っている。

マツダは広島県安芸郡府中町から広島市南区宇品東に広がる工場で年間約59万台の乗用車を生産している。生産リードタイムの短縮など恒常的に生産体制の改革に取り組んでおり、関係会社もマツダの生産計画に柔軟に対応することが求められる。

倉庫からマツダの本社・工場へは西にわずか9キロ。要望に対する迅速な納品が可能で、マツダが臨機応変にタイヤを調達する上で麒麟倉庫が果たしている役割は大きい。

麒麟倉庫のトレードマーク。麒麟の蹄(ひづめ)をイメージ

麒麟倉庫のトレードマーク。麒麟の蹄(ひづめ)をイメージ

タイヤの在庫は常時7万本 効率的な入荷を支える予約システム


倉庫内は金属製のラックに収納されたタイヤでぎっしりと埋め尽くされ、在庫数は常時7万本にのぼる。1日あたりに入荷されるタイヤは約1万本にのぼり、1週間程度で倉庫内のタイヤはすべて入れ替わる。出荷作業は昼夜を問わず行われ、倉庫内ではタイヤを運ぶフォークリフトが軽快に行きかう。

麒麟倉庫の倉庫内

麒麟倉庫の倉庫内


タイヤを倉庫に運び込むタイヤメーカーの10トントラックは指定された番号のバースに時間通りに駐車され、タイヤを搬出してコンテナが空になると出発し、しばらくすると次のトラックが入ってくる。計算されたように整然と作業が進むのは、麒麟倉庫がリコージャパンのサポートを受けて2020年4月に導入した駐車予約システムが機能しているからだ。

取引先タイヤメーカーの働き方改革をサポート


「ドライバーの拘束時間が短くなることで、取引先も効率的にタイヤの運送計画を立てることができるようになります。ドライバーに対しても駐車の順番まで待たなくても済むようにしてあげたいと思っていました」
ICT化をはじめとする経営戦略を担当する西亀啓太(にしき・けいた)専務はシステムを導入した理由についてこう説明した。

この駐車予約システムが導入されるまでは、4社のタイヤメーカーからタイヤを運び込むトラックのドライバーたちは、入荷の前日に倉庫を訪れ、駐車時間と駐車するバースを指定する番号表を受け取った後、その時間まで待機しなければならなかった。働き方改革が進み、ドライバーの拘束時間の短縮や健康管理に取引先のタイヤメーカーがせまられる中、効率的に駐車の時間と場所を決定する方法を導入することで役に立ちたいとの会社方針があった。
グループウェアを活用して開発した予約システムは、平日午前8時から午後5時までの時間帯を1時間ごとに区切ったタイムテーブルをタイヤメーカーと共有する仕組みになっている。あらかじめ、タイヤメーカーの担当者が、トラックを駐車するバースの番号と時間帯を選択し、入荷予定のタイヤの本数を、ドライバーの名前や電話番号とともに入力すれば予約が完了する。後はドライバーが、指示通りの時間に到着するだけで済むようになった。

駐車予約システムをチェックする麒麟倉庫の社員

駐車予約システムをチェックする麒麟倉庫の社員


「パソコンから確認できるタイムテーブルは4社のタイヤメーカーにそれぞれ異なる色を割り当て、一目で予約状況がわかるようにしています」(西亀専務)

従来の発注元の都合によるタイムテーブルではなく、発注先の都合によるタイムテーブルという発想は、結果としてスムーズな入出庫と働き方に大きく貢献した。 それは、取引先タイヤメーカーの働き方改革のサポートという気配りから生まれた。

クラウドでペーパレス化と業務の効率化を実現

西亀啓太専務

西亀啓太専務


若い生え抜きの人材を積極的に登用するのも麒麟倉庫の方針のひとつだ。西亀専務は、大学卒業後に麒麟倉庫に入社し、順調にキャリアを積み重ね、昨年8月に39歳で役員に抜擢された。会社を成長させていくためにICTは必要不可欠な要素と考え、以前から関心を持っていたという。
2018年には人事、購入申請、修理申請、設備投資の申請、人事に関するすべての書類をクラウドで管理するシステムを導入した。それまではすべての申請は書類で行い、その書類をファイルで保存していた。

麒麟倉庫は正社員が90人、パートは160人にのぼる。近年は若い人材の採用に力を入れており、社員数は毎年、増えている。個人データや給与明細をはじめとする人事関係の書類だけでもその枚数は年間2千枚にのぼり、保管に場所を取るだけでなく、過去の書類を調べる際にも時間がかかっていた。その状況がクラウドで管理するようになってからは、ペーパレス化が進んだこともあって、効率的に仕事が進むようになった。

2019年からは、給与明細についてもクラウドを通じて社員に配布するようにしたところ、印刷コストだけでなく、3割ほど事務作業が軽減できたという。 今後は、月当たり200枚にのぼるタイヤメーカーへの請求書も電子化することを計画している。また、パソコンによる定型業務を、RPA(Robotic Process Automation)と呼ばれるソフトウェアで自動化すること考えている。さらに、国連が定めた行動目標、SDGsへの取り組みにも力を入れていくという。

全国中小企業クラウド実践大賞に挑戦 他流試合で技術の向上図る

全国中小企業クラウド実践大賞でのプレゼンテーション

全国中小企業クラウド実践大賞でのプレゼンテーション


「クラウドをはじめとするICTは人の可能性を拡大してくれます。新しい技術の動きを積極的にフォローしていくことを重視しています」と話す西亀専務。クラウド活用についての知識、技術を深めようと「他流試合」にも力を入れている。その取り組みのひとつがリコージャパンの担当者に勧められて挑戦した全国中小企業クラウド実践大賞だ。

同大賞は、日本商工会議所が、クラウド活用・地域ICT投資促進協議会などと実行委員会を組織して、総務省の共催、中小企業庁の後援を受けて毎年実施しているプロジェクト。クラウドサービスを活用して生産性の向上や経営効率化に取り組む中小企業の実践事例をコンテスト形式で評価する。岩手県、長野県、石川県、和歌山県、福岡県の5会場で開催される地方大会で選ばれた企業が東京都で開催される全国大会に進出できる。

麒麟倉庫は2019年11月に福岡大会に出場し、一連のクラウド活用事例についてプレゼンテーションした。発表内容をまとめるために、これまで導入してきたクラウドサービスの内容を再確認し、課題を洗い直すことで、これから先どのようにクラウドを活用していくか新たな知見を得ることができたという。他社の実践事例も非常に参考になった。

プレゼンテーションを担当した総務課の坂戸利匡課長代理は「普段の仕事に加えて、大会に向けて資料を準備し、プレゼンテーションの練習をするのは大変でしたが、参加して本当に良かった。ほかの企業の取り組みに刺激を受け、さらに頑張ろうという気持ちになれました」と振り返る。現在、2021年の大会への参加に向けて準備を進めているという。

倉庫内の作業の様子

倉庫内の作業の様子


デジタルに関心を持つ若い人材が積極的にシステムを導入して業務を改善し、生まれた余力を新しい取り組みに向けることによってさらに成長する好循環を生み出している麒麟倉庫。ネットショッピングの拡大に伴って、物流用倉庫の需要はこれからも堅調なことを考えるとビジネス拡大の余地はまだありそうだ。

会社概要

会社名

麒麟倉庫株式会社

本社

広島県広島市安芸区中野東1-7-1

電話

082-893-2222

設立

1950年7月

従業員数

250人

事業内容

倉庫業、貨物自動車運送事業、自動車運送取扱事業

関連記事のお知らせを受け取る
問い合わせをする