事例集

2021.04.29 06:00

他社に類を見ない、取引先のためのデジタル支援体制を持つ住宅総合商社、ミヨシ産業(鳥取県)

他社に類を見ない、取引先のためのデジタル支援体制を持つ住宅総合商社、ミヨシ産業(鳥取県)
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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


20年以上前から導入している自社開発の基幹システムを改良し続けるだけでなく、さまざまな業務改革や取引先のサービスにデジタル技術を活用する山陰の企業の取り組みが注目を集めている。鳥取県米子市に本社を置く住宅の総合商社、ミヨシ産業。取引先のために、他社に先駆けて中国・四国地方で初の「3Dバーチャル住宅展示場」を開設するなど独自の発想力と実践力を武器に事業を拡大している。

山陰を拠点とする住宅の総合商社。メガソーラーの運営も

ミヨシ産業本社

ミヨシ産業本社


1967年に建材の卸売り会社として設立されたミヨシ産業は木材の加工、建築施工・施工管理、不動産、工務店サポートなど住宅関連事業を総合的に手掛けている。親会社の倒産によって2000年には経営危機に見舞われたが、再建計画を達成した2010年以降、業績、社員数とも右肩上がりで成長。本社と複数の事業部を置く鳥取県米子市を中心に、鳥取市、島根県松江市、岡山県新見市、広島県広島市安佐南区に営業所を構え、近年はメガソーラー発電所の運営を手掛けるなど住宅以外にも事業領域を拡大している。
2016年8月に就任した谷野利宏社長は、創業家からミヨシ産業を引き継ぎ建て直した父親にあたる現会長から会社を受け継いだ。建築の品質標準化、省力化、ローコスト化を実現するプレカット加工の建材製造に乗り出すなど次々に事業を立案、実行していった会長の事業への志を受け継ぎ、自らも常に新しい事業に取り組んでいきたいとの思いは強い。

地域経済貢献のためにも様々なICT化を推進


「会社の規模を大きくしていく上で、山陰地方に本社機能を置いたままにするのは、マーケットの規模から考えるとデメリットかもしれませんが、長年、お世話になってきた取引先を大事にし、地域の経済をしっかりと支える役割を果たしていきたいと思っています。中小企業は新しいことに取り組んでいかないと埋没してしまいます。この危機感を成長のバネにしていこうと考えています」
最近の動きでは、商品を入荷する際の検品をQRコードで行うシステムを導入した。今後、出荷や在庫管理でも広げていくことを考えている。ウェブを通じた集客やSNSの活用に興味を持つ建築会社を対象にしたウェブセミナーを企画する新ビジネスも始めている。

基幹システムの情報は社員全員に公開。最新状況を誰もが見て判断できる。2008年にIT経営実践認定企業として認定

基幹システムについて説明する谷野利宏社長

基幹システムについて説明する谷野利宏社長


ミヨシ産業は20年以上前から経営にICTを積極的に導入してきた。2008年に経済産業省から「IT経営実践認定企業」として認定されるほどその取り組みは高い評価を受けてきた。見積り、発注、配送、財務、在庫確認などのさまざまな業務を統括する基幹システムは自社開発したものを使用しており、現在もシステムエンジニア3人、プログラマー1人で構成するシステム班が、業務内容の拡大や変更にあわせて日々改良を加えている。
「臨機応変に対応できるのが自社開発のメリットです。どうすれば円滑に仕事を進めることができるのか、常に現場の声を反映しながらバージョンアップするようにしています」(谷野社長)
基幹システムには180人の社員すべてがアクセスすることが可能で、業務はすべて基幹システムを通じて行っている。社員向けに経営や業務に関する情報は常に公開しているので、社員はそれぞれの担当部署だけでなく、全体を見渡しながら、取引先への納品の進捗状況や建築現場への建材の搬入状況、自ら掲げた目標の達成状況を確認して仕事に取り組むことができる。ミヨシ産業の基幹システムの使いやすさは広く知られており、同業者から異業種まで多くの業者が視察に訪れている。
「社員一人一人が自分で考えて決断できる環境をいかに整えるかを重視しています。入社間もない社員がわからないことがあったとしても、過去のデータを参考に、どのように取り組めばいいのか自分で判断してもらうようにしています。そうすることで人材の育成にベテランが必要以上に時間を割かれなくても済みますし、その分、本来の業務に集中することができます」
社員全員で情報を共有化する効果について谷野社長はこう話した。

新型コロナウィルスをきっかけに業務を見直し、テレワーク可能体制へ

ICTを積極活用しているミヨシ産業のオフィス

ICTを積極活用しているミヨシ産業のオフィス


システムで使用するデータは、セキュリティを重視して、社内に設置したサーバーで保管し、外部からはアクセスできないようにしている。そのため、業務はオフィスで行うことを前提にしている。社員は家庭と職場の距離が近いこともあって、以前は、それほど問題はなかったが、昨年からのコロナ禍以降、テレワークの検討をせまられるなど状況が変化した。
谷野社長は、コロナ禍をこれまでの業務を見直す機会ととらえ、機敏に対応した。
テレワークについては、外部からインターネットを経由してパソコン操作を可能にするアプリケーションを導入することで対応した。毎年7月に社員と金融機関、取引先を招いて200人規模で開催している決算報告・方針発表会は、感染防止のため、テレビ会議システムを活用してオンラインの参加者を増やし、会場の参加人数をしぼるという新しい方式で開催した。オンラインならどこからでも参加できるということで、例年よりも多くの参加者を集めることができたという。
「近年のICTの進化は著しく、少し前なら難しかったことが実現しやすくなっていることが、コロナ禍で改めて実感できました。グループウェアや施工管理ソフト、CADを除いて社内で使うシステムは、できる限り内製化してきたのですが、これからは、外部のシステムと連携させながら利便性とセキュリティを両立させていくつもりです」(谷野社長)

セキュリティシステムを導入して、8拠点150台のパソコンを管理

システムの運用を担当するシステムエンジニアの横山剛之氏

システムの運用を担当するシステムエンジニアの横山剛之氏


セキュリティに関してはリコージャパンの提案で、新しいシステムを導入し、県内外の8カ所の拠点で保有する150台のパソコンを本社で一括管理できるようにした。これまでは、一部のパソコンで不具合が生じても使用者から申告してもらわなければ、システム担当者が状態を把握できなかったが、新しいセキュリティシステムでは、常に稼働状況を把握できるようになった。画面の共有もできるので、問い合わせがあった時もわかりやすく説明できるようになったという。
業務部のシステムエンジニア、横山剛之さんは「アフターコロナの世界に対応して、外部から使いやすいようにすればするほど情報漏洩のリスクが高くなるのは避けられません。うっかりミスによる情報漏洩から社員を守るためにも今後、情報セキュリティもより高度にしていきたいと考えています」と話す。

他社に先駆けて、原寸大で体験する3Dバーチャル住宅展示場を導入

3Dバーチャル 住宅展示場のデモ

3Dバーチャル 住宅展示場のデモ


デジタルによるさまざまな技術導入を進めるミヨシ産業が、取引先の工務店をサポートする目的で2016年4月に導入したのが、住宅のプレゼンテーションシステムで作成した3Dデータを使う「3Dバーチャル住宅展示場」だ。本社の1階にプロジェクターやパソコンを備えた専用の部屋を設けている。
中国・四国地方では例をみない試みで、実際に建てる前の住宅の内装を原寸大のバーチャル空間で体験できるサービスとして注目を集めている。
プロジェクターから投影される映像は、家の中の奥行きや広がり、段差が再現され現実さながら。体験者は3D眼鏡を装着してコントローラーを使うことで、家の中や外を自由に歩き回ることができる。時間の変化による日の入り方や外側からどのように見えているかといった細かい点まで確認することが可能だ。新築だけでなく、リフォームのビフォーとアフターを比較することもできる。
取引先の工務店からは「大手のようにモデルルームを簡単に設けることができない悩みから解放され、お客さんへの提案が行いやすくなった」と評判で、商談を円滑に進めるうえでの側面支援になっている。
取引先へのサービス向上だけでなく、3Dバーチャルシステムの導入は、社内でそれぞれの部署ごとに異なっていた設計ソフトを統一化するきっかけにもなったという。

3Dバーチャル住宅展示場で使うプロジェクターとパソコン

3Dバーチャル住宅展示場で使うプロジェクターとパソコン

ICT化の進化は止まらない。RPAにも取り組む


今まで手入力していた伝票や異なったシステム間での定型業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)を導入していこうと考えている。すでに担当者を中心に、導入する事務作業向けのプログラムを組み立て始めている。業務時間の短縮や、作業時間の軽減、コスト削減に効果が期待できそうだ。
「ICTは、自発的に使うと便利ということを社員が納得して使ってこそ大きな効果を発揮します。RPAについてもどんな提案が社員から出てくるのか今から楽しみにしています」と話す谷野社長。
ミヨシ産業は、住宅の総合商社から住宅系ICT企業という新しい姿に進化しつつあるといえそうだ。

会社概要

会社名

株式会社ミヨシ産業

本社

鳥取県米子市両三柳2360-8

電話

0859-34-3111

設立

1967年7月

従業員数

180人

事業内容

建築材料販売及び加工、内装、建築工事設計、工事監理及び請負、木材・プレカット加工、太陽光発電、工務店支援

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