事例集

2021.04.26 06:00

10年前から書類の大量保存、サービスの迅速化をクラウドシステムで実現 社会保険労務士法人 尼崎商工労務協会(兵庫県)

10年前から書類の大量保存、サービスの迅速化をクラウドシステムで実現 社会保険労務士法人 尼崎商工労務協会(兵庫県)
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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


早くからICT機器やサービスを積極的に導入し、業務のデジタル化で顧客企業の要望に応えてきたベテラン社会保険労務士(社労士)が所長を務める社会保険労務士法人が兵庫県尼崎市にある。約200社の中小企業をサポートする社会保険労務士法人尼崎商工労務協会(以下労務協会という)だ。地域の中小企業のこれからのデジタル化牽引に期待がかかる。

デジタル化をけん引する37年の実績を持つ坂原所長


社会保険と労働に関する専門家、社労士として37年の実績を持つ坂原麻里枝さんが所長を務める労務協会は、兵庫県尼崎市内を中心に約200社の中小企業の労務管理をサポートする社会保険労務士事務所だ。幹線道路沿いにあるオフィスビルの5階にある事務所はアットホームな雰囲気の中、女性を中心に社労士2人を含む7人のスタッフが働く。
阪神工業地帯の一翼を担う兵庫県尼崎市は1960年代、70年代に製造品出荷額が全国ベスト10に入るほど製造業がさかんだった。そのため、以前はものづくり系の中小企業が多かったが、近年は産業構造の変化に伴って、高層マンションや商業施設、物流施設が増えたこともあり、サービス系企業の割合が増えている。 坂原さんは中小企業を支えることに使命感を持って取り組んでいた社労士の父親の姿を見ながら、2人の子育てを経て自らも同じ道を歩みたいと自然と思うようになり1984年に33歳で社労士になったという。
父親から事務所を引き継ぎ、2016年5月に、同年の1月から設立が可能になった社会保険労務士法人に移行した。昨年以来のコロナ禍以降、必死になって生き残りを図る企業を支える忙しい日々を過ごしている。

10年以上前から業務のデジタル化を推進

お客様の膨大な資料はクラウドにあるので机周りに書類はほとんどない

お客様の膨大な資料はクラウドにあるので机周りに書類はほとんどない


会費に含まれるサービス内容だけでも、労働保険・社会保険の事務処理と書類提出代行、法律や法令の改正に関するアドバイス、各種助成金の提案、労務管理、労使トラブルの防止に関するアドバイス、労働保険事務組合の関連事務など多岐に渡る。それ以外にも、就業規則の作成や改定、各種助成金や奨励金の支給申請手続き、給与計算まで多種多様な依頼に対応している。
労災保険、雇用保険、社会保険といった各種届出の電子申請も行っている。高年齢者の積極的な活用や年金受給者の賃金シミュレーションといった提案サービスにも力を入れている。
顧客企業の規模は、従業員が数人の小規模事業所から数百人の中小企業までさまざまだ。父親の代からの顧客でつきあいが50年以上の企業もある。対応方法も異なるそれぞれの企業の多種多様な業務を限られたスタッフで回せているのは、10年以上前から積極的に、ICT機器の導入や業務のデジタル化に取り組んできたからだ。

所長は新しいもの好き?デジタル化の真意は


「うちの所長は新しいもの好きで、便利そうな機器やサービスが出てくるとすぐに導入を検討するんです」。チーフマネジャーからの突っ込みに「費用対効果はちゃんと考えてるわよ」と朗らかに笑ってかえす坂原さんだが、早くからのICT導入の真の理由は別にあった。顧客に書類の確実な保存体制と迅速なサービスを提供したかったからだ。
ひたすら蓄積し続ける書類をいかに効率的に整理し、しっかりと保存するかを坂原さんは重視してきた。保存を考えた場合、紙に記録した情報と比較すると、デジタル化した情報は場所を取らないだけでなく紛失のリスクも低い。デジタル化を進めない理由はなかったという。

クラウドストレージで20年来の書類を保存


2011年から社労士の業務支援をサポートする業務支援システムを導入。2014年からは事務所にNAS(ネット接続型サーバー)を導入し、顧客から届く書類はコピーを取って紙で保存するとともにサーバーでも保管するようにしてきた。2019年には容量無制限のクラウドストレージを導入し、20年来の書類をすべてスキャンし、クラウドストレージに移行した。現在は、新たに顧客から届いた書類を毎日スキャンしてクラウドストレージに保管している。その枚数は1日あたり100枚以上になる日もある。

さまざまな書類をスキャンしてクラウドストレージに移管するスタッフ

さまざまな書類をスキャンしてクラウドストレージに移管するスタッフ


リーズナブルな価格でクラウドストレージが利用できるようになってきたことは本当にありがたいという。「最近のデジタル関連技術の進歩には本当に驚かされます。値段を考えると導入のハードルが高かった技術が、近年は次々と手の届く範囲になってきました」と坂原さんは感慨深そうに話す。
すべての資料を事務所にあるサーバーではなくクラウドに移したことで外部から必要なときに書類をチェックできるようになった。「訪問先からでも確認できるので本当に助かります」とチーフマネジャーも効果を実感している。

さまざまな問い合わせに迅速に対応


デジタル化の効果は書類の保存以外でも発揮されている。顧客企業の労働者名簿、被保険者一覧、保険料通知書といった書類のデータは、検索ですぐに出力できるので問い合わせに迅速に対応できる。あまりに対応が速いためか、自社の社員の連絡先を社内の担当者ではなく坂原さんに問い合わせてくる顧客もいるという。
「数年以上前の相当古い書類の内容について突然、尋ねてくる顧客さんもおられます。要望に答えようとするとリクエストが増えてかえって忙しくなってしまうのですが、それだけ頼られているのだと思うと社労士冥利に尽きますね」と坂原さんはうれしそうに話す。
データ管理体制を一元化しているのも強みだ。業務管理システムを活用し、顧客との電話や事務所で打ち合わせした内容、訪問したときにヒアリングした内容を細かく記録している。パソコンでスタッフ全員が内容を把握できるので、担当者が不在のときに問い合わせがあったとしても的確に対応できる。
顧客企業への対応の進捗状況もシステムとリンクした工程表で管理している。1日単位から年単位で管理できるので長期の案件でも漏れなく対応できるという。

パソコンで進捗状況をチェックするスタッフ

パソコンで進捗状況をチェックするスタッフ

書類のコピーもキャビネットで保存


クラウド保存のバックアップとして、各企業が所有する労務関連の書類のコピーも大型キャビネットに収納して一定期間保存している。関係官庁の申請書類につてはまだまだ電子化が進んでいない。書面での提出、問い合わせに対応できるよう紙でも保管することにしているという。「どんな状況でも問い合わせがあればお答えできるようにしたいと思っています。電子化が進みクラウドにすべてのデータを移管できると少しは事務所もゆったりするかと思ったのですが、なかなかそうはいきませんね」(坂原さん)

万が一に備えて書類を保管しているキャビネット

万が一に備えて書類を保管しているキャビネット

中小企業のデジタル化メリットは大企業以上に大きい


政府は社会保険、労働保険の申請を含め行政手続きのすべてをデジタル化することを目指している。現在、デジタル手続き法の対象になっているのは、資本金が1億円を超える大企業だが、今後、中小企業もデジタル対応が義務化されるようになっていく可能性は高い。
だが、顧客のデジタル化への意識は今のところ、それほど高くないという。「デジタルは活用すればするほど煩わしい仕事から解放されます。本当に便利なのですが、年配の人ほどデジタル化に対する心の壁があるみたいです。中小企業のデジタル化のメリットは大企業以上に大きいはずなのですが、そのことが十分に広まっていないように思います」と坂原さんは話す。今後は、顧客にデジタル化の利点を粘り強く伝え、ストレージに直接、資料をアップロードしてもらうことも勧めていきたいという。

尼崎商工労務協会のビル

尼崎商工労務協会のビル


これからもさまざまなICTの活用を検討している。「電話や打ち合わせで話した内容がそのままテキスト化される技術が手軽に利用できるようになればもっと仕事がしやすくなりますね。デジタル化によって空いた時間を新しい取り組みに充てていきたい」と意欲を示す坂原さん。しかし、そうなるといつまでも忙しいままというのが悩ましいところだ。
これからますますDXが加速する時代に、どのように中小企業の経営者の意識をデジタルファーストに向けていくか。デジタル化の利点を熟知する坂原さんの腕の見せ所だ。

会社概要

会社名

社会保険労務士法人 尼崎商工労務協会
★ 労働保険事務組合 尼崎商工労務協会
1984年3月1日 厚生労働大臣認可
★ 労働保険事務組合 尼崎商工労務協会 建設部会
2014年4月1日  厚生労働大臣認可

本社

兵庫県尼崎市名神町3丁目15-11

電話

06-6427-1865

設立

2016年5月

従業員数

7人

事業内容

労働保険・社会保険手続代行、助成金申請手続代行、人事労務管理コンサルティング、起業サポート、給与計算、労働保険事務組合、年金・労災・健康保険・雇用,一人親方建設労災 などに関する各種相談

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