事例集

2021.04.23 06:00

大型ビジョンで商店街の魅力を発信 コロナ禍の逆風をチャンスに 仙台市中心部商店街活性化協議会(宮城県)

大型ビジョンで商店街の魅力を発信 コロナ禍の逆風をチャンスに 仙台市中心部商店街活性化協議会(宮城県)
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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


仙台市の中心部にある「マーブルロードおおまち」は、伊達政宗公の時代から商人の街として栄えた歴史がある商店街だ。大理石を敷いた舗道が商店街の名前の由来。ドイツの商店街を参考にしたというアーケードには、かつてローマを訪れた欧州遣欧使節団への思いも込められているという。一日当たり4~5万人が通行する仙台きっての目抜き通りで、仙台の老舗百貨店や老舗菓子店が店を構える一方、全国チェーンを展開する飲食店も目立つ。

この商店街に2020年2月、高さ3.2メートル、幅4.8メートルの大型LEDビジョンが設置された。その名も「まちくるビジョン」。商店街の立ち寄りスポットや仙台の観光スポットなどを紹介する映像が流れ、商店街の訪れた買い物客や観光客が足を止めて画面の映像を眺める姿もみられ、百貨店の賑わいに新たな彩りを加えている。

郊外型商業施設とは違う魅力づくりを目指す

まちくるビジョンを設置した仙台市中心部商店街活性化協議会の石井光二事務局長(左)、菅原晃部長(右)

まちくるビジョンを設置した仙台市中心部商店街活性化協議会の石井光二事務局長(左)、菅原晃部長(右)


「多くの地方都市にもいえることなのですが、郊外にショッピングモールやアウトレットモールが増え、中心部商店街の活力が失われつつあります。まちくるビジョンを通じて、市内外から訪れた方々にさまざまな情報を発信して、商店街の魅力を高める起爆剤にしていきたい」。まちくるビジョンを設置した仙台市中心部商店街活性化協議会の石井光二事務局長は力を込めた。

仙台市中心部商店街活性化協議会は、仙台市中心部にある8つの商店街が中心となって2017年に結成された。石井事務局長の言う通り、郊外型の商業施設の台頭によって、多くの都市で古くから栄えていた商店街が衰退するケースは枚挙にいとまがない。「このままでは同じことになりかねない」と、2010年に立ち上げた勉強会が母体となり、商店街の活性化策を議論。これまでバラバラに活動をしていた8つの商店街が団結し、それぞれの商店街が抱える共通の課題の解決に乗り出した。

東北全体の魅力のためにも


「仙台は東北の玄関口。仙台の中心部商店街に活気がなくなると、東北全体の魅力にもかかわってしまう」と石井事務局長。そんな強い使命を持った協議会の活動は実に戦略的だ。

まず協議会の実働部隊となる一般社団法人「まちくる仙台」を設立。「まちくる仙台」が中心となって、協議会が立案した活性化策に取り組んでいる。石井事務局長は「まちくる仙台」の代表理事を兼務。6人のメンバーが実務を担っている。

その一つが共通駐車券事業だ。商店街など市内中心部の参加店舗で食事や買い物をした際に共通の駐車チケットを発行。この事業に参加する商店街近隣の駐車場ならどこでも割引料金で駐車できる、というもの。商店街の店舗や駐車場に参加を呼びかけ、事業を軌道に乗せた。

共通駐車券(まちくるチケット)事業を展開し、商店街に訪れやすい環境づくりにつとめている

共通駐車券(まちくるチケット)事業を展開し、商店街に訪れやすい環境づくりにつとめている


「無料の駐車場がある郊外のショッピングモールに対して、中心部商店街は車を停めるのがやっかいです。駐車料金が高いという問題もあります。商店街と市内中心部の駐車場が連携することで、商店街に来やすい環境を整えました」

このほかにも、大道芸などのイベントを企画したり、クラウドファンディングを立ち上げたりと幅広い活動を展開。まだ、市などからの補助金に頼っているが、協議会では、収益事業を確立することで自立した形での街おこしを展開することを目指している。

「駐車場チケットも収益事業の一環です。駐車券の発行手数料で収益を上げています。このほか、アーケード脇に広告媒体となる旗を設置したり、路上で大道芸などのイベントをプロモーションして企業から協賛金を得たり。街づくりの原資にあてながら、自立した運営を目指しています」と石井事務局長は語る。

使い勝手がいいシステムを採用。低コストでの運用が可能


まちくるビジョンも商店街の魅力づくりに加え、重要な収益源としての期待を担う。「商店街などの魅力を発信する番組コンテンツの合間にコマーシャルを流す枠を確保して、まちくるビジョンの維持管理費をまかなうとともにもっと稼げれば、商店街でのイベントや商店街の内外環境の改善などの活用する原資にしたい」としている。

まちくるビジョンでは、ニュースや天気予報などの情報コンテンツも提供されている

まちくるビジョンでは、ニュースや天気予報などの情報コンテンツも提供されている


まちくるビジョン設置にあたってはプロポーザル方式で公募が行われ、複数の候補が提案をする中、リコージャパンのシステムが採用された。その大きな決め手となったのは、システムの使い勝手の良さだった。

リコージャパンのシステムでは、毎日の番組編成などシステムのプログラム管理が自分たちで操作できる使いやすいものだった。プログラムを外注すれば、その分のコストがかかる。自分たちで操作することで低コストでの運用できる。プログラム管理を担当する菅原晃部長は「勉強しながらですが、問題なく操作しています」と胸を張った。

天気予報やニュース、占いなど自由に使えるコンテンツも用意されていたところも大きな評価を受けた。「導入にあたっては、商店街を回遊して施設を紹介する動画を制作したほか、訪日外国人の誘客効果を上げるために英語で観光案内するコンテンツなどを制作しました。しかし、まだ、こうしたコンテンツやコマーシャルだけでは放映時間を埋めきれません。要所で天気予報やニュースなど生活に密着した情報を流しています」と菅原部長は説明してくれた。

コロナで厳しい船出、ピンチをチャンスに変える活用アイデアも


商店街の活性化に大きな期待がかかるまちくるビジョンだが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、想定外の厳しい船出となってしまった。

開設に向けて、「まちくる仙台」では外国人観光客向けに観光スポットを紹介する英語のコンテンツも用意した。しかし、コロナ禍で外国人観光客の訪問がピタリと止まってしまった。

仙台を代表するイベントといえば、5月の仙台・青葉まつりや8月の仙台七夕まつりがある。市内外から多くの観光客が訪れるイベントも2020年は中止を余儀なくされた。まつりのイベントのライブ中継などの集客イベントも計画されていたが、期待どおりの効果が発揮できない状況が続いている。

石井事務局長はこう話す。「2020年の秋のことですが、県内の高校生がコロナ禍の影響で文化祭ができなくなり、まちくるビジョンで文化活動の映像を流してほしい、という要望がありました。要望を受けて生徒たちの合唱やダンス、書道などの映像を流したんです。すると、予想以上の大きな反響がありました」

高校生たちの活動をまちくるビジョンに放映すると、その様子をみようと、ふだんあまり商店街まで足を運ばない生徒たちが商店街に駆けつけた。その家族たちも放映の様子を写真撮影する姿もみられた。これをきっかけに他の中学校や高校からも「ぜひやらせてほしい」という要請が多く寄せられたという。

ピンチをチャンスに変えるアイデアが、ターニングポイントの可能性


「これは、当初想定していなかった活用法でした。観光客向けの情報発信、広告媒体のみならず、新しい市民のためのメディアとして活用ができています。商店街の皆さんも喜ぶし、新しいお客さんを呼び込めます。これは大きかったですね」と石井事務局長は笑顔をみせた。

2020年にはコロナ禍で中止が相次いだイベントも、2年目の2021年には再開される予定だ。「仙台だけでなく、東北を周遊してもらえるような観光情報の発信や、昨年中止になったイベントのライブ配信などに今年こそチャレンジしたい。まちくるビジョンが持っている機能をフルに発揮して、最大限の効果を上げていきたい」と石井事務局長は意気込みを見せている。

マーブルロードおおまちは、1日4万~5万人が往来する仙台きっての商店街だ

マーブルロードおおまちは、1日4万~5万人が往来する仙台きっての商店街だ


郊外型ショッピングモールが、地域における「文明」だとすると、駅前の商店街は、地道に積み上げていく「文化」。文化=カルチャーの語源は、「耕す」だ。今回のように地元の今まで取り上げられていないさまざまな行事を迫力ある映像で流していくことで、街との一体感が生まれ、その中から、また新たな企画が生まれる。 「文明」のように華々しいが、廃れるかもしれない事に乗っかるのではなく、時間がかかってもみんなが一体感を持って耕す「文化」の可能性を石井事務局長の話を聞きながら感じた。

未曾有の困難を克服し、まちくるビジョンを起爆剤に仙台の中心商店街をいかに発展させるか。仙台市中心部商店街活性化協議会のチャレンジを今後も注目したい。

会社概要

団体名

仙台市中心部商店街活性化協議会・まちくる仙台

所在地

仙台市青葉区一番町3-2-1藤崎事務館III 2階

電話

022-395-6101

設立

2017年4月

スタッフ数

6人(一般社団法人「まちくる仙台」)

事業内容

仙台市中心部商店街の魅力発信と賑わいの向上。自立的発展につなげるエリアマネジントの推進

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