事例集

2021.04.05 06:00

情報共有のデジタル化で、職員・利用者・家族の満足度が大きく高まった 社会福祉法人みちくさ(福岡県)

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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


社会福祉法人みちくさは、大分県境に隣接した福岡県東部の豊前市で、障害のある利用者に対し日常生活の支援をする「生活介護」と、軽作業などの就労訓練を行う「就労継続支援B型」のための『多機能型施設あごら』、障害のある利用者が共同で生活をする「共同生活援助」のための『グループホームあごらんち』の計2カ所を運営している。利用者25人、職員30人と小規模ながらも「違いを認め合い、共に生きる」を運営方針に掲げて、各自に合ったきめ細かいサービスを提供している。グループホームあごらんちでは、2020年から本格的にICTを導入し、介護記録の支援ソフトを運用。業務の効率化による残業時間削減と施設運営の質を高めて、職員と利用者の満足度向上につなげている。

業務に追われ残業して紙に手書き・・・無駄が多い、大変


ソフト導入前の状況について、グループホームあごらんちの現場リーダーである世話人の黒岩真由美さんは「入所者の血圧測定、水分補給、排せつ、食事、入浴などの業務に追われていました。余裕がなく、記録は残業して紙に手書きで記載していました」と話す。職員間の連絡事項も連絡ノートでのやり取りで、「重複した記述も多く無駄が多いと感じていました」。
施設責任者である管理者は多くの運営業務で息をつく間もなかった。このため前任の管理者は疲弊して退職し、2019年7月に急遽、法人事務職員だった土井正子さんが管理者を兼務することになった。

二人三脚でICT化推進を行う土井正子さん(左)と黒岩真由美さん

二人三脚でICT化推進を行う土井正子さん(左)と黒岩真由美さん

職員同士助け合い、数か月かけて記録支援ソフトを導入


新たに管理者に就任した土井さんは記録の重複記載について「ICTで一元化できるのではないか」との発想で、2019年12月に介護支援ソフトを導入。すぐに現場での責任者を決めて、他の職員にも教えるように指示した。だが思うように進まなかった。黒岩さんは「職員の平均年齢も60歳弱でICTに不慣れな人が多く、現場は戸惑っていました」と振り返る。
現場職員のICT業務への関心の低さも普及の壁となった。そこでじっくりと時間をかけて覚えてもらうことにした。最初は従来通り紙へ記載するとともに、タブレット端末にも入力した。抵抗なく受け入れられるのか懸念はあったが、思ったより導入はスムーズに進む。「個人でスマートフォンのメールやアプリを操作している人もいるので、それほど苦労することなく馴染めたようです」(黒岩さん)。分からない部分は職員同士でお互いに聞きながら少しづつ習得していった。最年長の70歳近い職員には「無理強いできませんでした」と積極的に働きかけることはなかったが、周囲の様子をみて他の職員に聞きながら、入力を身に着けた。こうして数か月かけて、2020年6月には紙への記載を止め、ソフトへの移行が完了した。

パソコンやタブレット入力も思った以上にスムーズに浸透した

パソコンやタブレット入力も思った以上にスムーズに浸透した

効果は「業務負担が減り、残業がなくなる」だけではなかった


ソフト導入の成果は目に見える形で現れた。以前は記録を手書きで記載するために、すべての業務を終了したあとに残業していたが、残業がなくなった。業務負担については「10から3に軽減されました」(黒岩さん)と効果は絶大だ。ソフト入力では選択肢を選ぶといった簡潔な記載ですむので、紙に記入するときのような不必要な記述がなくなった。また職員同士の情報共有がしやすい。
日々の記録のほか、連絡ノートに代わりグループウェアも導入した。実は職員への連絡は手間の掛かる業務で「一日かかりきりになることもあります」(土井さん)。従来の連絡ノートでは記入忘れも多かった。グループウェア化によって、スケジュールの共有ができ、職員は自宅からでも簡単に勤務シフトを確認し、必要書類を取り出せるようになった。
業務の効率化が実現しただけでなく、グループホーム全体の質を向上させるような効果も得られた。ICTによるペーパーレス化が進み、デスク回りがすっきりするようになった。それだけに留まらず、業務負担が軽減されたため職員に余裕ができて、これまで目が届かなかった片づけも行き届くようになった。土井さんは「保護者様や来訪者からも『以前より居室を含め施設内全体がきれいになった』と好評をいただいています」と語る。

情報共有のデジタル化が進み、風通しがよくなると・・・


ICT化による情報共有は職員のモチベーションも向上させた。以前のスタッフミーティングでは発言する人はほぼ決まっていて、新たな提案や意見が出ることは少なかった。また現状を把握していない職員もいて、ミーティングが情報交換の場になってしまい、不必要に長くなっていた。それが今では情報のデジタル共有が進んだことで各自が問題点を認識し、「自発的な発言が増えて、活発に提案するようになりました」と組織の風通しの向上にも寄与している。

利用者へのサービスもレベルアップしている。それまでは利用者それぞれの特性について、「コーヒーを飲むことができない」、「みかんの皮をむくことができない」といった担当職員の思い込みでサービスを制限することがあった。情報がデジタル共有されると、できないと思い込んでいたことが実はできることに担当以外の職員が気付くことがあった。

会議も活発な提案の場に変わった

会議も活発な提案の場に変わった


新たな事実の発見は、利用者の希望に沿ったサービスの提供につながっている。不満があると皿を投げることで意思表示をする利用者もいたが、「『自分のことを分かってくれている』という安心感から、そうした行動が減りました。また利用者様が自分の意思をはっきりと表現するようにもなりました」と土井さんと黒岩さんが話す。「利用者様の希望に沿ったサービスに近づいたことでストレスが軽減され、雰囲気が良くなりました」(黒岩さん)と大きな成果をもたらしている。
他にも、保護者との事務的なやりとりも以前よりきめ細かな情報伝達ができるようになり、信頼が高まっている。入所者を見守るシステムによって、防犯カメラも活用することで怪我の防止にも目を配り、安全安心にも貢献している。
紙の報告書を使っていたころは、利用者の情報を探すだけでも大変だった。そのため引き継ぎ時にしか目を通すことはなく、担当職員の経験に頼り切っていた。しかし介護支援ソフトやグループウェアを活用すれば、利用者の名前を検索するだけで、これまでに蓄積された担当者以外の情報やメモも一瞬で閲覧することができる。
このことは予期せぬ効果を生み出した。従来介護の常識だと思ってきたことが、実は間違っていたことが分かったからだ。前述した、担当職員の思い込みでサービスを制限していたことはその一例だ。対応が劇的に変わったことで、職員同士、職員と利用者との関係が大幅に改善されるようになった。

別施設でも介護記録の支援システム導入を促進


「今後は多機能型施設あごらでもICT化を進めたいと思います。未だに手書きでの記録が続いていることで、不慣れな職員も多く導入への抵抗は根強いですが、グループホームあごらんちでの実績を訴えることで導入を促します。残業をなくして業務負担を減らしていきます」(土井さん)と最初の一歩を踏み出そうとしている。すでに若手の職員からは「うちではなぜやっていないのですか」と声が上がっている。「通所する利用者様の送迎は2人組だが、送り届けたあとの帰りに1人は車内で入力作業をすることができます」(土井さん)と通所施設ならではの具体的活用方法について語る。
心身に障害のある人が生き生きと過ごす上でも、職員と利用者、保護者の満足感の向上は欠かせない。業務の軽減だけでなく、多くの相乗効果が期待できるICT化は多くの福祉施設運営のモデルケースとなるかもしれない。

会社概要

法人名

社会福祉法人みちくさ

本社

福岡県豊前市大字八屋1800-8

電話

0979-83-2477

設立

2003年5月

従業員数

30人

事業内容

生活介護、就労継続支援B型、共同生活援助

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