事例集

2021.03.23 06:00

クラウドを活用し、災害リスクに備える ICTのさらなる活用への布石 鶴商メンテナンス工業(千葉県)

クラウドを活用し、災害リスクに備える ICTのさらなる活用への布石 鶴商メンテナンス工業(千葉県)
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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


「私たちの事業を通じて、自分の身の回りにいる人たちが幸せになってもらいたい。それができれば、私たちの会社も幸せなはず。そんな経営を心掛けていきたいですね」

千葉県市原市で工事機器などのレンタル事業を展開する鶴商メンテナンス工業の西村直樹社長は2021年2月、父から会社の経営を引き継いだ。取材に訪れたのは就任からまだ1カ月もたたないタイミング。就任の意気込みを尋ねると、そんな一言が返ってきた。

プラントのメンテナンス機材をレンタル


鶴商メンテナンス工業がレンタルをするのは、発電機やコンプレッサー、エアー工具などの工事用機器。工業地域に立地する石油化学プラントや製鉄所などに出入りし、プラントのメンテナンスなどを請け負う工事業者が得意先だ。市原のほか、千葉県君津市に営業所を持ち、昨年、茨城県鹿島市に新たな営業所を開設。3つの拠点で事業を展開している。

溶接機などのプラント産業用機器が保管された鶴商メンテナンス工業の倉庫

溶接機などのプラント産業用機器が保管された鶴商メンテナンス工業の倉庫


「お客様自身がこうした機器を持つと、設備の購入費用だけでなく、整備にもお金がかかります。投資負担を抑えるため、多くのお客様が積極的にレンタルを活用され、安定的に注文をいただいています」と西村社長。

設立は1975年。「父が勤務していた大阪の会社のメンテナンス事業部を分離し、設立した会社なんです」と西村社長は話す。併せて業績が低迷していた親族の会社の立て直しを打診され、その営業を引き継いだという。会社の再建のため大阪に家族を残し、市原に単身赴任して経営に尽力した。

「私が小学生くらいのころですか。あとから聞きましたが、父が母に『もうあかんかも』と弱音を吐いたことがあったそうです。それが一度切り。その時が一番底だったのだろうと思います」。当時の従業員は10人足らず。近隣の工事業者を地道に営業し、レンタルのメリットを説明しながら、顧客を徐々に増やしていったという。

「そろそろこっちに来い」。大阪の商社に勤務していた西村社長が父から呼び寄せられたのは2002年。その時には経営は成長軌道に乗り、西村社長が入社した時に比べ、社員は3倍、売り上げは10倍に増えたという。

台風が直撃、災害リスクへの対応を急ぐ


順風満帆な鶴商メンテナンス工業が思わぬ危機に直面したのは2019年のことだ。この年、千葉県には台風が相次いで直撃。記録的な風雨によって、ゴルフ練習場の鉄柱の倒壊や家屋の破損、洪水、停電など大きな被害が出た。鶴商メンテナンス工業の周辺も冠水し、停電が発生したという。

千葉県市原市の鶴商メンテナンス工業本社。2019年には台風などの直撃で浸水の危機に見舞われた

千葉県市原市の鶴商メンテナンス工業本社。2019年には台風などの直撃で浸水の危機に見舞われた


「幸い会社は浸水から免れることができましたが、半日近く停電するなどして一部業務に支障が出ました」と西村社長。災害の怖さを思い知り、対策に乗り出すことにした。

会社にとって大きな課題となったのはデータの管理だ。

同社では、本社にサーバーを置き、売り上げや顧客情報などを管理していた。君津にある営業所も本社のサーバーにアクセスして業務を行っていた。本社の停電で君津の営業所も一時的に業務ができない状況に陥ったという。

「このサーバーがダウンしたら業務は完全にストップしてしまう…」

当時、常務だった西村社長は強い危機感を持ったという。西村社長は 「本社が機能不全になっても営業所が動ければ被害は最小限に防げる」と、ふだんからシステム関連のサポートを受けていたリコージャパンに相談。さまざまな対応を検討した。

「開設を予定していた鹿島営業所を含め、本社と君津の3カ所にそれぞれサーバーを置くことも考えましたが、更新のためのコストなどを考えると採算が合いませんでした」

AWSを導入し、低コストでのICT化図る


その中で、提案を受けたのがAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)だった。

コンプレッサーなどのレンタル商材。京葉工業地域のプラントメンテナンスなどに利用されている

コンプレッサーなどのレンタル商材。京葉工業地域のプラントメンテナンスなどに利用されている


AWSは、米アマゾン・コムが提供するクラウドコンピューティングサービスで、世界で数百万、国内では約10万のユーザーが利用している。クラウドは、インターネットを通じてサーバーやソフトウェアなどを利用するサービスだ。AWSには、ユーザーのニーズに対応した100以上のサービスがある。リコージャパンは米アマゾンと提携し、日本のビジネスモデルに最適なAWSサービスを提供し、日本企業の効率的な企業経営を後押ししている。

クラウドを利用すると、自社でサーバーやソフトを購入する必要がなくなり、更新などの費用も不要になる。また、必要な時に必要な分だけ利用すればいい。更新の費用など検討すると、サーバー3台を導入するよりも費用は半分ほどに抑えられる計算だったという。

「コストに見合うのか。セキュリティー対策は大丈夫なのか。最初は不安でしたが、リコージャパンからしっかりとした説明を受け、導入を決めました」と西村社長は話してくれた。導入後は、売り上げや顧客管理を含め大半の業務データをAWSに移管して運用している。

AWSの活用について語る西村直樹社長。2021年2月に社長に就任したばかりだ

AWSの活用について語る西村直樹社長。2021年2月に社長に就任したばかりだ


西村社長がAWSを導入したのには、もう一つの狙いがある。それは、今後の業務での、さらなるICTの活用だ。クラウドサービスなら、新たなソフトウェアやデータ管理が必要な場合、低コストでの増設も容易だ。自社サーバーと違い、容量を心配せずにさまざまなICT活用にチャレンジできる。

「これから5年くらいしたら、ぼくらのような小さいレンタル会社でもいろいろな分野でデータを活用することを増えてくるのではないか」と西村社長。さまざまな業界で広がりつつある営業活動などへのタブレットやノートパソコンの活用、AIを活用したレンタル機材の管理など業務の効率化・最適化に向けた取り組みも視野に入ってくる。

災害対策をきっかけにしたAWSの導入だが、鶴商メンテナンス工業にとっては、将来の成長につながる重要な布石を打ったといえる。

新型コロナとの闘い「われわれも貢献」


新型コロナウイルスの感染拡大で大きな不安が広がり、従業員の出社を制限するなど多くの企業の業務に影響が出ている。そんな中で、西村社長は取引先の工事業者から聞いた話に感銘を受けたという。石油化学メーカーの社員の言葉だ。

クラウドの導入で浸水などの災害リスクを軽減

クラウドの導入で浸水などの災害リスクを軽減


「我々が操業を止めると、新型コロナウイルスと闘っている医療従事者が使う機材や道具が作れなくなる。だから操業を止めてはいけない。気持ちは医療従事者のみなさんと同じなんです」

プラントをメンテナンスするお客様も、そして、そのお客様に機材をレンタルする事業を展開する西村社長もまた同じ思いだ。「われわれの業務そのものも突き詰めれば社会に何らかの社会貢献をしている。そのことをしっかりと肝に銘じて事業に取り組んでいきます」。新社長のもと新たな船出を切った鶴商メンテナンス工業の今後の活躍に期待が膨らむ。

会社概要

会社名

株式会社鶴商メンテナンス工業

本社

千葉県市原市今津朝山252-6

電話

0436-61-3765

設立

1975年6月

従業員数

52人

事業内容

建設産業機械器具レンタル、販売、修理など

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