事例集

2021.03.12 06:00

UターンのICT人材が進めたDXへの挑戦 情報のクラウド化で業務改革を図る城善建設(和歌山県)

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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


情報のクラウド化をはじめ中小企業としては最新のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めている会社が和歌山県にある。建設を中心に多彩な事業を展開する城善建設。その背景には、Uターンで和歌山県に戻ったICT人材の活躍と周囲の支えがあった。

先進的で多角的なビジネス展開


1993年に依岡善明社長が設立した城善建設は和歌山県を中心に事業を展開している。社名は和歌山県のシンボル、和歌山城の「城」と依岡社長の名前の「善」を合わせたものだ。住宅事業、宅地造成から一般土木事業、マンション、店舗などの大型建築、公共施設まで幅広く手掛ける。

城善建設のショールーム

城善建設のショールーム


一戸建事業では、子育て世帯を対象に、機能性の高さとリーズナブルな価格を打ち出した「コージーホーム」を展開。
さらに、昨年9月には「新時代の平屋住宅」を提案するなど高いデザイン性と居住性で注目されているカーサプロジェクト株式会社と提携し、新ブランド「カーサ和歌山」を加えた。
和歌山城の北側にある本社8階に設けたショールームではカーサ和歌山の建築コンセプトを説明する住宅の模型を多数展示している。
そのほか、不動産仲介、宅地分譲の「アクティブマドリード」、委託給食事業、外食事業の「紀和味善」、保険代理店を運営する「ワンズライフ」といったさまざまな企業を傘下に持つ。

戸建て事業に見られるように先進的で多角的な依岡社長のビジネス展開は、地元経済界からの評価も高い。
2013年に和歌山県経営者協会からアントレプレナー大賞奨励賞を贈られた際には全国の経済界や政界のリーダーが集まり受賞を祝福した。

地方創生事業にも力を入れている。2018年2月には地方創生コンサルティングを事業領域とする紀泉ふるさと創研を設立した。
関西圏の多数の自治体と連携し、インバウンド観光、富裕層観光の推進のほか、企業誘致、地域資産の再生に取り組んでいる。
特に、関西国際空港のある泉佐野市から和歌山市にかけての自治体においては、都市再開発や公園活性化、SDGsを重視した産業団地の開発など産官学一体となった事業のプロデュースに注力している。
スタッフも企業経営者、自治体OB、起業家など多彩なメンバーが揃っている。
「事業を興し、継続していくことは簡単ではありません。順風満帆でない時期もありましたが、それでも乗り切ってここまで来ることができたのは、支えてくれる多くの人たちとの結びつきがあったからだと感謝しています。社員にも人とのかかわりを通じて成長していくことを楽しみながら仕事に取り組んでほしいと思っています」(依岡社長)

常に進化の手を緩めない依岡善明社長

常に進化の手を緩めない依岡善明社長

競争力を強化する4つのSを、UターンのICT人材が推進


事業領域を拡大する城善建設を支えているのが、同社の情報システム課が進めるICTの積極導入だ。その取り組みのエンジンとなっているのが、中途入社社員の和田正典さんだ。
和田さんは和歌山市出身。東京都の大手メーカー、ITコンサルティング会社を経て、2014年に城善建設に入社した。大学進学を機に和歌山から遠ざかっていたが、海外赴任も含めてさまざまな場所で社会人としてのキャリアを積み重ねる中、故郷の活性化につながる仕事に就きたい思いが強くなったという。
城善建設を選んだのは、自主性を重んじる自由な社風に惹かれたこともあるが、アナログのイメージが強い建設業界を自らのICTの知識で変えていきたいと思ったからだという。
和田さんは入社以来、中小企業が競争力を強化する上で業務のスピード、情報のシェア(共有)、ストレスフリー、セキュリティの4つのSをレベルアップすることが重要と考えていた。
城善建設とグループ企業が抱える課題を詳細に分析し、その結果、浮かび上がってきた改善ポイントを常に意識していたという。

リスクを回避するためのペーパーレスとクラウド化


その一丁目一番地はペーパレス化への対応だった。紙中心の業務は、記入漏れや誤記入だけでなく、筆記したものをシステムに残す際の入力、資料を探す時間など意識しない間に作業が積み重なっていく。印刷や保管のコスト、持ちだした資料を紛失するリスクもある。情報の共有や承認に時間がかかるだけでなく、過去のデータ活用も手間がかかる。履歴の検索もしにくい。なにより現場のノウハウが属人化してしまうことで、業務を担当していた社員が退職してしまうとノウハウが失われてしまうことになる。
ほかにも会社の情報はNAS(ネットワーク接続型ストレージ)に保管していたため、本社と2か所の展示場からしかアクセスできなかった。外出先からアクセスできないことが残業の大きな要因になっていた。また、地震などの災害が発生して本社ビルがダメージを受けた場合、すべてのデータが失われるリスクもあった。営業、設計、現場監督、総務、経理でそれぞれ使用しているパソコンは性能に差があり、使用しているソフトウェアも異なり、共有化に難があった。
和田さんが考えるクラウドストレージに移行すれば、時間、場所に関係なく本社のデータベースにアクセスすることが可能になる。それだけではない。業務パソコンのすべてのデータをクラウドに集約しておけば、パソコンが破損してもデータが失われることはない。自社でサーバーやストレージを保有することと比較すると大幅なリスク分散を図ることが可能だった。

社内の情報システム化を一手に引き受ける和田正典さん

社内の情報システム化を一手に引き受ける和田正典さん

働き方改革の法改正を機に全ての業務をクラウド化


「一気にクラウドを導入するきっかけになったのが、働き方改革などの法改正への対応でした。対応するにはリモートワークなど多様性のある業務体制に移行することが不可欠でした。結果としてこのことがDXの推進を後押ししてくれました」と和田さんは振り返る。
和田さんが、2019年に社内提案した「Jyouzen Group Cloud Project」は、情報を蓄積するストレージ、建築会社に特化した基幹システム、コミュニケーションツール、電子帳票システムによる業務のすべてをクラウド化するというものだった。

情報を蓄積するストレージ、基幹システム、コミュニケーションツールをクラウド化する作業は和田さんが担ったが、リコージャパンの担当者が二人三脚でサポートしてくれたという。
基幹システムそのものが格納されるサーバーと基幹システムに登録される顧客情報、物件情報、工事登録、図面のPDF、見積もり、予算などのデータをクラウドに格納することで、営業、設計、現場の担当者が、顧客との商談、工事の進捗状況、図面の修正など現在進行形の情報にいつでもどこからでもアクセスできるようになった。

電子帳票システムは古いシステムを一新することで、ペーパレス化が進み、紙のワークフローで必要だった紙の複写やスキャン、文書の保存や廃棄の手間、システムへの後からの手入力を削減することができた。月あたり、モノクロで7000枚、カラーで1500枚の用紙の削減効果が生まれた。必要な資料を探すときも検索機能を使えば簡単に見つけることができるので、その分、作業時間の短縮につながった。

城善建設のオフィス

城善建設のオフィス

デジタル化によって無駄な業務が減り、定時退社を実現


「業務のデジタル化を進めたことで、これまで当たり前と思っていた印刷を伴う事務処理や仕事の進め方に多くの無駄があったことを『見える化』できました」と和田さんは話す。総務や経理部門の勤務時間は、以前は2時間程度の残業が当たり前だったが、今では繁忙期を除いてほとんど定時で仕事を終えることができるという。
営業面でもオンラインによる商談を積極的に行い、プレゼンテーションのノウハウを積み重ねている。徐々に成果が生まれ、オンラインだけで成約に結び付く案件も生まれているという。社内でのメールのやり取りも減ったため、結果として外部からコンピューターウィルスが入るリスクが減少することにつながり、情報セキュリティの強化につながっている。

社内浸透の鍵はスモールスタートと丁寧な対応


「仕切りは低く、透明性は高く。新しいシステムの移行にあたって心掛けたのはスモールスタートと丁寧な対応でした。社員のみなさんに大きな変化を感じさせることなく、利便性を実感してもらえるようにすることに心を砕きました」と和田さんは説明する。
同社の約40人の社員は50代以上が半数を占める。ICTになじみがない社員も多かったが、和田さんは社員それぞれのパソコンの性能やソフトウェア、デジタル機器への習熟度を考慮して、それぞれ個別に対応し、機器の操作方法などを説明していったという。
和田さんが一連の取り組みを進めることができたのは、依岡社長が全権委任してくれたことに加え、社員の積極的な協力があったことも大きい。
「組織の歯車にならざるを得ない大企業とは違って、頑張れば頑張っただけ成果を実感できるのが中小企業で働く醍醐味だと思います。新しいシステムの構築には苦労もありましたが、仲間に喜んでもらえるのがなによりです。今回の挑戦は城善建設だからこそできたのかもしれません」。和田さんはにこやかにそう話した。

開発したシステムについて説明する和田さん

開発したシステムについて説明する和田さん


改革はまだ続く。和田さんは企業向けストレージサービスの通知機能とビジネスチャットツールの機能を組み合わせて事務作業をすべてネット上で完結することができるシステムを昨年末に約2ヵ月で独自開発した。今後、社内で導入を進め、更なる業務の効率化につなげていく考えだ。
蓄積したノウハウを活用して、DXに取り組む意欲はあるが具体的なノウハウがない中小企業を支援したいとも考えている。 城善建設のDXへの新しい挑戦がこれから始まると言えそうだ。

会社概要

会社名

城善建設株式会社

本社

和歌山市十一番丁10番地

電話

073-427-1181

設立

1993年6月

従業員数

39人

事業内容

宅地造成・注文住宅の設計施工、一般土木事業、マンション・店舗など大型建築、公共施設の建築など

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