事例集

2021.02.25 06:00

金属プレスの匠の技とICT 日本ものづくりの新しい形 三基精工(静岡県)

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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


静岡県は製造品出荷額全国4位を誇るものづくりが活発な地域。県都・静岡市駿河区の東名高速道路を間近に臨む場所に本社・工場を構える三基精工もその屋台骨を支える企業の一つだ(上記の写真は、約150年の歴史を持つ三基精工の本社・工場)。北東の1キロ先には弥生時代後期の稲作集落跡、特別史跡、登呂遺跡が広がる。高い技術に裏打ちされたものづくりと業務を効率化するICTが結び付けばどのような化学反応が生まれるか。三基精工の取り組みに注目が集まっている。

多彩な工作機械が稼働する三基精工の工場内

多彩な工作機械が稼働する三基精工の工場内

150年以上前に駿府の城下町で創業、事業承継もスムーズ


三基精工の歴史は、江戸時代末期(1860年代後半)、駿府の城下町で「鍛冶長」の屋号を掲げて創業した鍛冶屋にさかのぼる。明治時代以降、農機具、農工具の生産から板金加工、金型製作に業態を変え、1962年に有限会社化して本格的に金属プレス加工業に転換。1982年に現在の場所に本社・工場を移した後、1989年に株式会社に改組した。現在は、自動車、家電、プロパンガス供給機器、小型モーターなどの部品約150種類を月あたり約700万個生産している。
本社・工場と数百メートル離れた第2工場を合わせてさまざまなタイプのプレス機、成形研磨機、精密平面研削盤などの工作機械、画像測定器、コンプレッサー、3次元CADシステム、3Dプリンターなどをそろえ、金型設計からプレス加工、組み立て、検査まで一貫して行える強みを備える。
生産する部品は大きくても「手のひらサイズ」の小型を主流にしている。精巧な小型部品を生産するには高い技術力が要求されるが、大規模な生産設備を必要とせず運搬にも手間がかからないなどメリットも多い。長く存続するために小型部品に傾注するのは合理的な選択といえる。
後継者に悩む中小企業が多い中で150年の技を後世につなぐ事業承継にも抜かりはない。山崎和彦社長が5代目経営者として就任したのは2011年、37歳の時だった。2008年のリーマンショックの影響が製造業にも波及した逆風の中での承継だったが、厳しい状況下で経営者としての手腕を磨いた。

ICTの導入に意欲を示す山崎和彦社長

ICTの導入に意欲を示す山崎和彦社長


「先代からは、お客さんからの要望に応えるために今できるベストを尽くせと強く教えられました。我が社で請け負うことができないと思った時も、簡単にお断りするのではなく、徹底的に考え、それでも難しいと判断した時は、要望に応えることができる会社を見つけて引き継ぐようにしています」と山崎社長はその経営方針を話す。

社員に技能士の資格取得を奨励、開発力強化につながる


社長に就任して間もない時期に1級プレス加工技能士の資格を取得し、社員にも資格取得を奨励している。技術を重視していることもあるが、スキルアップを図ることで、組織に頼らず自立できる力を養ってもらいたいと思っているからだ。
試験対策のために会社の工場内に実技試験に対応した設備を設け、希望者に材料を提供して練習に取り組んでもらっている。
「技能士の資格を取ることは目的ではなく技術者としての能力を向上させるために必要な手段です。取らなくても経験でそれなりの技を身に着けることはできますが、やはり技術者は、何故そうするのか根拠を持って考え、説明できなければなりません。技能試験はものづくりの基礎を重視しているので、基礎を習得する上で非常に効果が高いのです」と山崎社長はその狙いについて話す。
検定料は1回あたり学科試験3100円、実技試験1万8200円。決して安い価格ではないが社員は自費で受検し、資格を勝ち取っている。企業によっては受検の段階で、受検料を負担するケースもあるが三基精工は、合格した時点で還元するようにしている。

「人間は身銭を切った方が真剣に取り組みます。会社に言われてやるのではなく自分への投資と思って挑戦してほしい。チャレンジすることを楽しむようになってほしいですし、そういった人材に活躍の場を与えていきたいと思っています」(山崎社長)
2015年、若手を中心に社員の3分の1にあたる11人が受検し、10人が合格。その後、若手に触発されたベテランも続き2017年までに14人が合格した。合格率は9割近い。複数の資格を取る社員もおり、技能士の数は金属プレス作業(1級、2級)、平面研削盤作業(1級、2級、3級)、プレス金型製作作業(2級)、ワイヤ放電加工作業(2級)、シーケンス制御作業の分野で延べ23人にのぼる。

技術重視の経営姿勢は成果を生み、評価につながっている。2016年にはアロマオイルを原液のまま噴霧できる装置を開発した。独自の二流体ノズルを組み込むことで、目詰まりを起こすことなく、アロマオイルの原液を室内に噴霧できる機能を備えた装置で、徐々に引き合いが増えている。2019年には強度が必要な場所に材料を集める増肉加工で超精密な成型加工を実現したことで、静岡市の中小企業技術表彰を受けた。

精密さで高い評価を受ける三基精工が製造している部品

精密さで高い評価を受ける三基精工が製造している部品

古い基幹システムを刷新、新システムで繁忙期も残業なし


山崎社長は、近年注力していた生産部門での設備投資が一段落したことを受け、昨年から基幹システムの更新を進めている。第1弾として、販売管理システム、在庫管理システムから一新することにした。
同社は、30年以上前から市販のOSをカスタマイズした販売管理システムを使用していたが、近年、入力に使用するパソコンが老朽化し、OSもサポート期間が終了するという課題が浮上していた。一方で、在庫管理は別の表計算ソフトを使って対応していたため二重入力などの業務負担が多く、残業時間の増加につながっていた。
さまざまなメーカーのシステムを検討する中で、慣れ親しんだシステムとの親和性や、コスト面での負担を和らげる「IT導入補助金」の活用などをアドバイスしてくれたリコージャパンの提案が最も理にかなっていたという。

 販売管理では、売上、仕入、在庫の管理業務に優れた最先端のシステムを導入した。以前のシステムではホームメニューの項目が情報管理、売上管理、仕入管理、支払管理、材料管理、見積書の6つしかなかったが、新しいシステムのホームメニューは日常処理、管理帳票、倉庫・在庫管理、請求・回収・支払、分析、繰越・特殊処理、導入・登録の分野ごとに、日常処理なら伝票入力・発行、見積入力・発行、予約伝票など更に細かく項目が分かれている。
また、頻繁に使用する帳票などはマイメニューの項目に登録しておけば、手間をかけずにすぐに呼び出すことができる。販売管理を担当する多田絵美子さんはマイメニューに売上・受注、仕入・発注、入金・支払のそれぞれの伝票入力、受注伝票確認票、得意先月報、納品書一括発行などの項目を設定して効率的に事務作業を進めている。
「伝票の発行やデータ管理がこれほどしやすくなるとは思いませんでした。以前は繁忙期に2時間程度残業することもあったのですが、今では定時で仕事を終えることができるようになりました」と多田さんは新しいシステムの効果を実感していた。
 販売管理で成果が上がったこともあり、次は新しい在庫管理システムの本格的な運用に向けて準備を進めている。運用が始まればデータをまとめて管理しやすくなるなどさらなる業務の効率化が見込める。

新たに導入した販売管理システムで仕事をこなす多田絵美子さん

新たに導入した販売管理システムで仕事をこなす多田絵美子さん

静岡発 ICT&IoTで世界と戦う


山崎社長の思いは静岡のものづくりを次世代に継いでいくことにも向けられている。社長就任間もないころから毎年7月、地元小学校の社会見学に協力し、10人ほどの小学生を工場に招待している。小学生たちは、工場が稼働している様子を目の当たりにし、社員のサポートを受けて工作機械を使ったキーホルダーづくりに挑戦するなど充実した1日を過ごす。昨年はコロナ禍で中止を余儀なくされ、今年の開催も危ぶまれているが、コロナ禍が終息した後、再び子供たちを工場に迎える日を社員一同心待ちにしているという。
 ICTの更なる活用も見据える。具体的には本社工場と第2工場をオンラインで結んでバーチャルで一体化することや物と物をネットでつなぐIoT(インターネット・オブ・シングス)を工場に導入し、リアルタイムでの稼働状況の把握やQRコードによる生産指示などを実現したいという。
「日本はかつて、国内で生産し、輸出することで外貨を稼いできましたが、海外に進出する企業が増えたことで海外の技術力が高まり、日本のものづくりが衰えるという悪循環に陥っています。雇用創出力が大きい製造業の活性化なくして日本経済の復活はありえません。だからこそ国内での生産にこだわりたい。ICTを活用すれば戦えるフィールドはいくらでも広げていけるように思います」
ICTの進歩によって、海外に進出するよりも日本で生産活動を行う方が、ある意味有利となる環境が整備されつつある。技術にこだわる三基精工のような企業にとってまたとないチャンスが到来しているのかもしれない。

会社概要

会社名

三基精工株式会社

本社

静岡市駿河区登呂6丁目10番1号

電話

054-283-5110

設立

1962年7月

従業員数

34人

事業内容

金属プレス加工業

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