事例集

2021.01.28 06:00

コロナ禍をバネに介護研修をデジタル化、見え始めた様々な効果。DXで介護業界を変えていく愛媛県老人保健施設協議会(愛媛県)

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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


コロナ禍によって人同士の接触に制約がかかる中、人と接し合うことが不可欠な介護業界は多くの課題に直面。その解決策のひとつとして、これまで馴染みがなかったICTに着目し、手探りで導入しながら、活用の幅を広げようとする団体、組織が増えている。その中のひとつ、愛媛県内の介護老人保健施設で組織する愛媛県老人保健施設協議会の取り組みに注目が集まっている。

人材を育成上で欠かせない研修がコロナ禍でピンチに


「老健」と呼ばれる介護老人保健施設は、介護を必要とする高齢者の在宅復帰をサポートする施設だ。病状が比較的安定し、入院治療の必要はないが、定期的な看護、介護、リハビリテーションといったケアが必要な人を主な対象にしている。そして、地域の老健施設の質の向上や機能強化に取り組むための業界団体として1989年ごろから全国各地で、協会や協議会が設立され始めた。
愛媛県老人保健施設協議会の設立は、1991年4月。全国でも比較的早い時期に設立され、施設で利用者の入院や生活の相談に乗る現場の人たちの呼びかけで設立に至ったという草の根から生まれた歴史を持っている。現在、65施設が加盟し、それぞれの施設で働く看護職員、介護職員、理学療法士、作業療法士らの総数は約5000人にのぼる。
協議会の運営に大きな役割を果たす事務局は、各施設が持ち回りで務め、現在は医療法人恕風会(じょふうかい)が運営する大洲市の介護老人保健施設ひまわりが担っている。

研修デジタル化の手応えについて語る古川知巳協議会事務局長

研修デジタル化の手応えについて語る古川知巳協議会事務局長

「介護の現場で働く人たちは、社会を成り立たせる上で必要なエッセンシャルワーカーです。一人一人がそれぞれの利用者の状態に合わせて質の高いサービスを提供する使命を持っています。協議会では良質な介護の担い手を育成するために、研修には特に力を入れているのですが、今年に入ってからのコロナ禍で、研修が開催できないというピンチに見舞われました」
協議会事務局長を務める古川知巳さんは、この1年を振り返りながら厳しい表情で語った。

導入決定からわずか一週間で研修動画配信開始


老健施設が提供するサービスは、医師による医学的管理の下での看護、介護をはじめ、理学療法士、作業療法士によるリハビリテーション、日常生活に不可欠な栄養管理、食事、入浴と幅広い。そのため、研修内容も多岐に渡っている。
協議会は、例年、看護、介護、栄養管理などをテーマに年間20件ほどの研修を企画、開催しているが、今年は年明けからの新型コロナウィルスの感染拡大に伴って、3月から4月にかけての研修が中止に追い込まれた。研修では基本的に60人から70人、多い場合は100人以上が参加する。一定の距離を保つなど感染拡大に注意しながら、従来通りの集合形式で研修を続けていくのは難しかった。
 そこで、事務局のメンバーが考えたのが、研修用の動画を作成して、それぞれの施設にデジタル配信することだった。6月ごろから協議会独自で作成に取り組む一方、愛媛県、特別養護老人ホームなどで組織する県老人福祉施設協議会と共同で、防護服の着用や使い方などコロナ禍での介護のマネジメントを学ぶことができる動画も作成した。
動画の作成と並行してどのように配信するかも決めなければならなかった。その過程で白羽の矢を立てたのが、組織内動画配信プラットフォームなどをパッケージ化したリコージャパンの人財教育パックだった。管理担当者が、詳しいICTの知識を持ち合わせていなくても動画を簡単にアップロードできるだけでなく、それぞれの受講対象者が動画を視聴したかどうかを把握できるなど使い勝手の良さが決め手になったという。

研修動画配信には工夫、おかげで視聴場所も多彩


「当初は、動画サイトを使った配信も検討しましたがセキュリティーの面で不安を感じ、見送りました。事務局のメンバーはみんなICTに疎いので導入するのに手間がかかると思っていたのですが、導入決定からわずか1週間ほどで配信をスタートすることができました」。古川さんはそう振り返る。
動画は現在、20本で1本あたりの時間は15分程度。クラスターが発生した他県の高齢者施設関係者の講演のように1時間を超える動画は、視聴しやすいように30分程度に編集するなど工夫している。
それぞれの施設担当者にアカウントを割り当て、活用はそれぞれの施設に任せている。施設ごとに、個々の受講者に時間のある時にパソコンやスマートフォンで視聴してもらったりしているという。
「従来の集合型の研修では、会場の広さによって参加人数が限られるため、研修に参加した受講者にそれぞれの施設に戻った後、その内容を伝えてもらっていました。しかし、この方式では、直接参加した人と伝え聞いた人で情報量に差が出てしまう。その点、動画配信であれば、より多くの人にダイレクトに研修の全容を知ってもらうことができます。また、どれだけの人に視聴してもらっているかを『見える化』できるので非常に助かっています」と古川さんは語る。施設ごとの視聴率も把握できるので、視聴に積極的でない施設への働きかけにも役立てることができそうだ。

DXで介護業界の働き方改革目指す


導入して数カ月。手探りをしながらの活用ということもあり、研修後の理解度チェックのためのテストの作成やマニュアル、ノウハウの共有、組織内広報ツールとしての利用などまだ試していない機能もある。動画であれば、受講者が休み時間などの隙間時間を利用してスマートホンで繰り返し、視聴することができる。また、テストも、受講者がいつでも受けられることに加え、苦手な部分を何度もやり直すことで習熟度を上げていくことができる。研修メニューはニーズに対応して変えていかなければならないが、動画であれば追加しやすい。そういった様々な利点がある。
愛媛県の要介護(要支援)認定者数は2017年3月末現在で9万2000人。10年前と比較すると年間平均2200人のペースで増加しており、高齢化の進展に伴ってその流れは今後、加速していく。その一方で介護現場に従事するスタッフは慢性的な人手不足で、日々の仕事に追われることが多い。このような環境下で人材の質を高めていくにはICTを活用して効率的かつ効果的な研修を企画、実施していくことが不可欠といえる。
「政府もデジタル化に本格的に舵を切りましたし、ICTのことがよくわからないことを理由に対応しないことが許されない時代になってきたと思います。施設で働く外国人とのコミュニケーションや文書の管理、情報の共有化、業務の削減などでICTを活用すればより働きやすい環境を作ることができそうです。若い人に働きたい業界と思ってもらう上でもICTの導入は介護業界にとってプラス効果が大きいと思います」 これからのDX化の推進に意欲を見せる古川さん。愛媛県の介護業界がどのように変化していくか、これから楽しみだ。

会社概要

会社名

愛媛県老人保健施設協議会

本社

愛媛県大洲市徳森1508-1

電話

0893-25-2713

設立

1991年4月

従業員数

約5000人

事業内容

介護福祉業

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