不動産業
事例集
2021.01.14 06:00
コミュニケーションは仕事の原動力 テレビ会議システムが営業所の“疎外感”を解消 東洋エステートサービス(東京都)
この記事に書いてあること
執筆者
フジサンケイビジネスアイ
産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
「本社の情報がまるで入ってこない…」
東洋エステートサービスの佐藤雄司常務は営業所に勤務する社員からそんなぼやきをよく聞かされていた。
「打ち合わせなどで本社に出向くと、知らないうちに新入社員が入社していたり、社員の結婚を知らされたり。社内報や掲示板のようなものがなかったので、本社から離れた営業所の社員たちは強い疎外感を持っていました。これは何とかしないといけないと感じていました」
会社の規模が大きくなるにつれ、社員の数が増え、それとともに社内のコミュニケーションがとりづらくなる。社内のコミュニケーション不足は成長企業が必ずといっていいほど陥る課題だ。佐藤常務の悩みは会社が成長していることの証しでもある。
「大手がやらないことを」…すき間戦略で急成長
東洋エステートサービスは1988年、塩谷竜生社長の親族をはじめ3人の共同経営者が創業した。草創期の社員の数は8人だけだった。佐藤常務もその一人だ。
「大手が手を出さない分野を攻めていこう」
競争が激しい業界の中で、大手が敬遠する物件を狙った“すき間戦略”を展開。住居併用で2~3戸と戸数の少ない賃貸物件を所有するオーナーにアプローチし、管理物件を増やしていったという。「例えば、オーナーさんたちが『自分でやりたい』という作業はお任せするなどオーナーさんの経営方針に柔軟に対応したサービスを提供しています」と、佐藤常務。そんなオーナー本位のビジネス展開も評価され、オーナー同士の口コミで管理物件を増やしていった。
入居者の募集は学生が中心ターゲットに据えている。 「入退居のタイミングが予想できるメリットがあります。安定していいサイクルで入居者を獲得できる、と評価をいただいています」と佐藤常務は説明する。
最近は、インターネットで家を探す時代に対応。不採算だった直営の仲介店舗を2016年に閉めた。入居者の募集は、外部の仲介業者と連携し、インターネットを中心にした展開するなど時代の変化に機敏に対応した経営を行っている。
常時接続、画面ごしに社員同士が挨拶
創業当初100~150室ほどだった管理物件は東京を中心に埼玉や千葉に広がり、8000戸に上る。社員の数は草創期の8倍に増えた。本社から遠距離にある物件を管理するため、東京・蒲田、千葉・市川に2つの営業所を設けた。
営業所には4~5人の社員が勤務しているが、営業所に広がる疎外感をどう解消したらいいか、塩谷社長からも検討課題として指示されていたこともあり、社内のセキュリティー対策などを任せていたリコージャパンに相談したという。そこで導入されたのが、テレビ会議システム「LiveOn」だ。
ふだんは、常時接続した状態のまま本社フロアに配置。50インチのディスプレイの画面を分割して2つの営業所の様子を映し出している。画面にはデスクワークする営業所の社員の姿がみえる。定期的には、月に1回行われる営業所会議に活用。営業所の売り上げの報告や業務上の課題や問題点の解決策などの協議する際にこのシステムを通じて行っているという。
「ふだんの連絡や相談などにもよく利用しています。社員の中には、電話のやり取りでは面倒くさくなって、このシステムで営業所とやりとりすることもあります。書類をカメラに示しながら、『ここはどうなっている』と聞いたりして。電話よりも話が早く済むこともあるようです」と佐藤常務は笑う。
遠隔地でありながら、まるで同じフロアに営業所がある感覚だ。ディスプレイの前を通り過ぎた本社の社員が営業所の社員と画面越しに目と目が合い、挨拶したり、手を振ったりする場面もよく見かけるという。顔と顔がわかるコミュニケーションが活発化してきた。
「たまに営業所の様子をのぞいたりしていますが、社員たちの働きぶりをみることもあります」と佐藤常務。「営業所から今度はみられているようで気になる、という声も出てきましたが、逆に緊張感が出ていいのかなとも思っています。社員のモチベーションは上がっていると感じています」。
社員同士の円滑なコミュニケーションは社内の連帯感や一体感を生む。業務上の成績では見えない成果が表れてくる。その意味で、コミュニケーション不足を解消する目的で、テレビ会議システムを導入した東洋エステートサービスの取り組みはユニークだが、利用法として的を射ているともいえる。
新型コロナウイルスの感染拡大を背景にした在宅勤務の実施する企業が増え、テレビ会議の有効性がようやく認識されてきたが、会議だけに利用している会社は少なくない。東洋エステートサービスのように遠方の営業所と常時、映像をつなげてみてはどうだろうか。その中から新たな気づきが生まれるかもしれない。
新しいビジネススタイルへの布石
一方、不動産業界では、テレビ会議システムを通じて、賃貸借契約の重要事項を説明する「IT重説」が2017年10月から運用が開始された。
これまで重要事項説明は、宅地建物取引主任者が「対面」で行うことが義務づけられていたが、その規制が緩和された。パソコンなどの端末を利用して、対面と同様に説明や質疑応答ができる環境であれば、自宅にいながら重要事項説明を受けられる。
東洋エステートサービスが導入したテレビ会議システムは、「IT重説」にも利用できる。「業界全体の導入動向を見極めたい」と佐藤常務は運用にはまだ慎重姿勢だ。一方で、このシステムを導入したことで、いつでも運用が可能な環境は整えている。インターネットでの住まい探しが当たり前の時代になり、不動産取引のビジネススタイルは大きな変革を迎えている。その中で、今後、テレビ会議システムは業界にとって必須のツールになる可能性も出てきている。
会社概要
会社名
東洋エステートサービス株式会社
本社
東京都調布市布田4-6-1 調布丸善ビル4階
電話
042-489-1511
設立
1988年3月
従業員数
65人
事業内容
事業内容 アパート・マンション・テナントビルの総合不動産管理、メンテナンス及び営繕工事、不動産の売買・仲介など