事例集

2020.12.24 06:00

リスクアセスメントの作成を効率化 若手人材の教育にも効果 100の工事現場があれば、100通りのリスクがある

リスクアセスメントの作成を効率化 若手人材の教育にも効果 100の工事現場があれば、100通りのリスクがある
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この記事に書いてあること

ライチ様

執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


「建設会社らしくない名前ですが、逆に役所の担当者の方にはすぐに名前を覚えてもらえます」。東京都八王子市のライチ株式会社の来生知仁社長はそう語り、笑顔を見せた。

社名の意味は「未来を知る」。来生社長の苗字にもその由来があるという。施工内容が複雑な工事の企画・指導・調整を請け負う総合建設会社(ゼネコン)だ。河川や道路の改修、広場の整備など幅広い土木・建設工事を手掛け、東京都や八王子市をはじめとする東京都内の区市の公共工事や公益法人発注の工事が売り上げの約9割を占めている。

施工管理の仕事は非常に多岐にわたる。工事スケジュールの策定や調整、人件費や原材料費の管理、品質の管理、スタッフの手配など計画通りに工事が進むよう全体を管理する重要な役割を担っている。高層ビル、道路や橋も、トンネルも、みな施工管理者の指示がなくては完成できない。

一方で、来生社長はこう語る。

「周辺住民や役所、作業をする職人…。とにかく頭を下げる場面は多いですね」

工事期間中、交通規制や工事の騒音など周辺住民からのクレームが寄せられることも少なくない。段取りが悪ければ、作業をする職人や発注先から叱られることもある。

精神的にも負担の多い仕事だが、「社員には『胸を張っていこう』といつも言っています。謝るときも心の中では胸を張って謝ろう。ごまかさないで、言い訳せず仕事をしようと声をかけています」と、社員には人一倍の気配りをしているという。人が育つ会社にしたい。創業は2012年の創業から来生社長が描いていた会社像だ。

リスクの特定、対策の策定をスピーディーに

リスクアセスメントの作成のため、現場の状況をチェックする施工管理者(ライチ提供)

そんな施工管理の重要な仕事の一つが安全管理だ。「事故や災害を起こさないことは、工事を進める大前提」と来生社長は語る。ライチでは、2017年に工事に関わる下請けや孫請け会社などの情報をまとめた施工体制管理台帳の作成をスピーディーに行えるよう作成支援システムを導入した。その際、工事の安全確保を徹底するため、そのソフトのオプション機能である「リスクアセスメント」の作成支援ソフトを追加することにした。


「リスクアセスメント」は、労働安全衛生法で建設業に関わらず、製造業などの事業所に作成が求められている。リスクアセスメントとは、作業現場にある危険性や有害性を特定して、それによる労働災害の程度と労災が発生する可能性を組み合わせてリスクをランク付けする。その対策の優先度を決めた上で、リスクをなくしたり、低減したりするための対策を考え、対策を講じた結果などを記録する。 工事前に事前にリスクを確認し、認識しながら仕事をすることで、事故や災害を未然に防ぐことを狙いにした制度だ。

「工事現場にはさまざまなリスクが潜んでいます。施工内容が複雑になればなるほど特定するリスクも増えます。リスクの大小や発生する頻度に応じてランクづけしたり、対策を応じることでどれだけリスクが減るのかを考えたりします。けっこう手間のかかる作業なんです」と来生社長は説明する。

現場のリスク状況について工事現場の関係者と打ち合わせ(ライチ提供)

導入したリスクアセスメントの作成支援ソフトは、建設業の特化したもので、重大な災害や事故の一歩手前の「ヒヤリ、ハット」事例をはじめ対応が必要な災害・事故のリスク事例を網羅。テンプレートになっていて、必要な事例を選択すると、事故・災害リスクの大きさに応じたランクもつけてくれる。事例に対する対策の取り方もサポートして、リスクアセスメントの書類を作成することができる。


エクセルを使用した表の作成やリスクの入力はそれまですべて手打ちで入力していたが、「作業がずいぶん楽になった」と来生社長は評価していた。

来生社長は 「100の工事現場があれば、100通りのリスクがあるといってもおかくない」と語る。ソフトの中に網羅されていない事例にも注意を払う必要があるが、一般的に起こりうるリスク見積もりをソフトで特定することで、それぞれの現場で起こる特有のリスクを特定やリスク軽減の対策の検討に注力できるようになった。作成の効率化に加え、内容の充実化を図ることもできた。

また、来生社長は、現場経験の少ない施工管理者の育成にも効果的だと指摘する。

「現場を多く経験していると、現場をみただけで、だいたいどこにどんなリスクがあるのか体感的にわかるものです。その意味では、経験を積んでいない若手などは、このソフトを使うことで、『こういうところにも気を遣わなくてはならないのか』と、教えられるところがある」と話し、リスク見積もりが未熟な若手社員の教育にも役立てている。 

危険の予知、現場の意識付けへの効果大

「リスクアセスメント」は2006年に労働安全衛生法にその規定が設けられたが、「努力義務規定」で作成を怠ったからといって罰則があるわけではない。そうした背景があるのか、厚生労働省の2018年の調査によると、過去1年間にリスクアセスメントを実施した建設業者の数は全体の6割程度にとどまっていた。

現場の写真を確認しながらリスクアセスメントを確認(ライチ提供)

来生社長は、「事故や災害の防止のため、朝礼などでの日々の安全確認が最も大事。だが、リスクアセスメントをやっておくと、いざ作業をしようというときに、『これは危険だ』と予知活動ができる」と来生社長は指摘する。

リスクを事前に察知し、その危険を取り除くことで、より安全な職場環境をつくるところにある。リスクアセスメントに基づいて、リスクを発生させないためのルールを事前に決めておけば、それを順守するだけでも危険を回避する効果は大きい。リスクアセスメントを共有することで、現場で働く作業員全員が安全に対する意識や理解を高めることができる。


それでも作成が進まないのは、多くの事業者が負担に感じているところが多いからだとみられる。だが、ICTを活用すれば、その負担も軽減できる。最近は、建設現場での労働災害防止に向けてICTを活用した取り組みが進んでいる。センサーやロボットなどハード面での開発も進んでいる。「事故・災害ゼロ」に向けて、ICTが担う役割は大きい。

会社概要

会社名

ライチ株式会社

本社

東京都八王子市別所1-25-11 グランヒルズ101号室

電話

042-682-3162

設立

2012年9月

従業員数

17人

事業内容

総合建設業(土木・建築請負施工一式)

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