事例集

2020.12.03 06:00

ICTを活用して地域を牽引 オンリーワン企業が目指すのは、 顧客本位の経営の確立、そのための業務の最適化。

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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


「人員は増えているのに、なぜか人手は足らないまま。これでは儲かるものも儲からない」。

埼玉県羽生市で、アルミ鋳造を手掛ける株式会社田島軽金属の田島正明社長はこう語り、危機感をあらわにした。2020年10月、30代を中心とした若手役職者10人で組織するプロジェクトチームに無駄な業務の徹底した洗い出しを命じた。

常に前向きに経営を行う田島社長は、社内のちょっとしたゆるみが大変なことになることを常に警戒されている。

「これは無駄」「これは必要」という業務を2カ月間で調査。チームが不必要と判断した業務をなくしていく。部長をはじめとする上司には口を挟まないよう命じ、社長権限で実行するという。 「これくらいのことをしないとアジアには勝てません」。田島社長は業務最適化に強い意欲をみせた。

大型の受注がひと段落し、人員に余裕ができるはずだったが、社内から「人が余っている」という声は一つも上がらなかったという。「うちだけのことか」と思っていると、多くの企業が同じ状況に陥っていることがわかってきた。「これまでなかった帳票ができていたり、別の部署で同じようなデータを作成していたり。みんな上司が仕事を勝手に作っている。これをいかに無くすか。プロジェクトチームに与えたテーマです」。

「人手を増やすと仕事も増え続ける」。これは、英国の歴史学者パーキンソン氏が1950年代に指摘した“法則”の一つだ。
顧客のニーズを把握する活動や顧客への提案活動なら、顧客満足の向上や企業力の強化、売上につながるが、社内間の仕事は、自己満足に陥りやすく、社員が顧客を見ないで上司を見るという最悪の状況に陥ることもある。

さまざまな「出会い」が生んだ成長

田島軽金属は創業以来、一貫して砂型鋳型によるアルミ鋳物を手掛けてきた。産業ロボットの部品やCTスキャンや診察台などの医療機器、新幹線をはじめとする鉄道車両、船舶のエンジン部品など幅広い分野に利用されている。大型のアルミ鋳造も得意としており、東京・銀座や渋谷の有名店の外装装飾にも使われている。

アルミ基複合材料(MMC)と呼ばれる軽量で頑丈なアルミ材の鋳造技術(アルミ合金にセラミックス<炭化ケイ素の粉末>を30%複合した金属の鋳造技術)を国内で初めて開発。 地域経済への影響力が大きく、地域経済の牽引に大きな役割を果たしている企業を選定した経済産業省の「地域未来牽引企業」にも名を連ねる“小さな大企業”だ。

 鋳物の町として知られる創業の地、埼玉県川口市から1994年に羽生市に移転。当時、10人ほどだったという。「父の家業を継いだ当時、すし店で使われる玉子焼き用のフライパンを製造していました。引き継いでわずか1,2年で取引先の相次ぐ倒産で存続の危機に直面しました」と田島社長は振り返る。追い込まれて連鎖倒産も頭をよぎったが、当時、出会ったアルミ鋳造組合の先輩経営者から「お前はまだ若いから頑張れ!」と声を掛けられ、「やめるのをやめました」。「今でも、業界の先輩や仲間に支えられてここまでこれた、という事を実感します」。

MMCのアルミを型枠に流し込んでいるところ。

そんな小さな町工場が大きな成長を遂げる大きなきっかけとなったのが、MMCとの出会いだった。

MMCのライセンスを持つ企業が田島社長のもとを訪れ、鋳造技術開発の協力を求めた。一度は断ったものの、「どこの鋳造会社も引き受けてくれない」と再度協力を要請。結局、引き受けたが、鋳造には難しい鋳造技術が求められた。まだ、海のものとも山のものともなるのか分からない素材。2年間、試行錯誤の末、実用化の技術を確立すると、多くの企業から受注を獲得し、成長の礎を築いた。

「開発では、大学の先生や業界団体にもさまざまなアドバイスをいただいた。ここでも、多くの出会いが会社を支えくれました」と田島社長は話してくれた。

「図面比較」をICT化、業務効率化の大きな足掛かりに

MMCの技術を原動力に事業が拡大する一方で、大きな課題として浮かび上がってくるのが効率性だ。3年前の2017年には、技術部門の業務の効率化を図るため精細な設計図面の変更部分を瞬時にわかりやすく表示するシステムを導入した。

アルミ鋳造の工程を簡単に説明すると、まずは設計図面をもとにまず同じ形状の模型を作成する。その模型から砂で型を取る。砂型に溶解したアルミを流し込んで製品を鋳造する。このため、取引先からたくさんの製品図面を預かっている。図面は部分的に変更されることも少なくないのだが、図面が変更された際、技術部門が新旧の図面を目視で比較し、どこが変わったのかをチェックしていた。

「簡単なものでは、1件当たり30分ほどかけて作業をしていました。複雑なものでは半日かかるものもありました」と田島社長は説明する。受注しているものの中には船舶のエンジン部品もある。図面の大きさはなんとA0サイズ。A4用紙16枚分のサイズに緻密な図面が描かれている。目視でのチェックは気が遠くなるような作業だ。確認漏れは作り直しによる無駄なコストを生むことにもなる。神経をすり減らす作業でもある。繁忙期になると、図面の比較作業は月100件以上にも達することあり、技術部員の負担は大きかった。

導入したシステムでは、新図と旧図を複合機でスキャンし、デジタル化する。そのデジタル図面をソフトで新旧両図を照らし合わせると、旧図面から削除された部分を青で、追加された部分は赤で示めす。5分ほどの時間でチェック結果が判明する。しかも、漏れがない。

「通常の業務時間は工場が稼働しており、その作業に時間がとられます。取引先との打ち合わせなどもあります。図面比較は時間外に残業して対応することがしばしばでした」と田島社長。システムの導入によって、月50時間の図面比較の作業が月8時間程度に縮減することができた。

「社員の働き方改革が叫ばれる中、工数の削減は会社にとっての大きな課題だっただけにシステムの導入の成果は大きかったですね」と田島社長は話した。

ここ数年、3D-CADの普及で、立体データで取引先とやり取りするケースが増加しているが、3Dではチェックできない内容もあるという。「2次元の図面には、誤差の許容範囲を示す寸法公差が書かれているのですが、これは3Dの図面には反映されていません。その部分をチェックするのにも欠かせないシステムですね」と評価した。図面のチェック以外にも、取引先が契約前に発注予定の内容を通達する注文内示書のチェックにも役立てている。数百項目の中から以前の受注内容との違いを探し出すのにも役立てており、スピード、精度の両面で大きな効果を上げている。

顧客本位の生産管理システムの開発にも取り組む

田島軽金属は、地元のシステム会社と共同で、生産工程でAIやセンサーで、鋳造した製品の出来栄えを判定するシステムを開発した。製品の表面をカメラで撮影し、もとのデータと比較して、どこが粗い仕上がりか、どこが標準通りの仕上がりかをチェックするというものだ。品質のチェックのために作業が止まる時間を削減することで、効率的に業務を進められるようにすることを狙ったシステムだ。

顧客本位の視点で次から次へと改革を進めている

また、企業内で完結している生産管理システムを、会社をまたいで管理できるシステムの開発にも取り組んでいる。生産が逼迫して取引先の新たな注文を受けられないときにそのシステムで他社の稼働状況を確認して生産を依頼する。生産を請け負ってくれる会社をいちいち電話をかけて探す手間が省け、なおかつ、取引先も納期に間に合うよう製品を確保できる。田島社長は、「顧客満足に主眼を置いた生産管理システム」だという。ものづくりの現場は海外との競争だ。ICTを活用した新たな生産や経営の仕組みづくりは業界全体の競争力強化につながることが期待できる。

「地域や業界の牽引役になるようアルミ鋳物業界の中から『地域未来牽引企業』に認定された。ICTの仕組みを最大限活用して、牽引できる役割を担いたい」と田島社長は意気込む。オンリーワン企業が進めるさまざまな経営改革が今後、どんな成果をもたらし、地域を、業界を牽引するのか。田島軽金属の取り組みに注目が集まる。

会社概要

会社名

株式会社田島軽金属

本社

埼玉県羽生市藤井上組字城沼1375

電話

048-563-5221

設立

1968年4月

従業員数

89人

事業内容

アルミ鋳物、アルミ複合材(MMC)鋳物製造・加工、電動式鋳型反転機の製造販売

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