事例集

2020.10.29 06:00

理事長は、1台のタブレットの稟議を却下、その真意は?

社会福祉法人欣彰会
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フジサンケイビジネスアイ

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産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


社会福祉法人欣彰会では、職員の業務負担軽減のために導入した介護記録・介護請求システムがうまく稼働していなかった。4施設に25ある事業所がバラバラに進めているため、情報共有もできていない。
そんな状況を打破するために、2017年、4施設25事業所を横断で使えるシステムに改良し職員の負担軽減と情報共有による効率化、一本化のため、山下和彦部長と藤永美砂子主任に白羽の矢が立った。同年できた法人本部の企画・事業部にいる山下部長は、それまで24年間ずっと現場職。藤永主任は、人事・教育部。二人ともシステム畑ではない。

「これからの介護事業にはタブレットの活用が必須ということで、1台購入してみようと考え、理事長に稟議を出したんです」と、藤永主任が振り返る。役に立つとは思ったが、どう使うかまでは深く考えず、「とりあえず使ってみよう」という感覚だったという。

すると、稟議を出した2人に漆原彰 理事長はこう返事をした。

「何のために使うのか、使うことで施設がどうよくなるのか。どんなことが魅力なのか?そこをしっかり議論し、これだ!と確信したうえで提案してください。」

この理事長の一言から、欣彰会のデジタル革命が始まった、と言っても過言ではない。

欣彰会は、医療との連携を追求した高齢者福祉事業を全国に先駆けて展開したことで知られる。

漆原彰理事長は、高齢者医療の先駆者。それだけに今回の開発に想いを持っていた

漆原彰理事長は、高齢者医療の先駆者。それだけに今回の開発に想いを持っていた

漆原理事長は、学生時代にこれからの高齢社会を見据え、まわりに関心を持つ人がいない中、高齢者医療に取り組んできた。地域の高齢者のための医療機関を作る決心をし、1981年に高齢者医療を目的とした大宮共立病院を設立。1984年には介護を目的とした社会福祉法人欣彰会を設立、病院を中心とした各種施設による医療、介護、福祉の複合施設をつくり、地域サポートに尽力してきた。

理事長は、他の誰よりも、入居者や利用者をきめ細かくサポートできる共通情報インフラの必要性を感じていた。そして、医療と介護の垣根を越えた情報連携を描いていた。

山下部長と藤永主任は、理事長の一言に、ICT化の期待の大きさを感じ、最初が肝心である事を心に刻んだ。

二人の戦いは始まった

山下部長は「介護職の現場を24年間経験する中で、同じ業務をいろいろな施設でバラバラにやっていたことにずっと不満とストレスを感じていました。もう少し簡略化できないかと、施設の上司によく提案していたんです。でも、なかなかぴったりしたシステムに出会うことがなくて…。それが今回、本部が出来て異動になり、欣彰会全体でのシステム選定の仕事に関わることになりました」と語る。介護の現場からICT導入の必要性を働きかけていた。

山下和彦部長(右)と藤永美砂子主任(左)の二人が中心なって進めた新システム導入

山下和彦部長(右)と藤永美砂子主任(左)の二人が中心なって進めた新システム導入

一方、人事を担当してきた藤永主任も「職員が働く環境を大切したい。施設の魅力を高め、採用につなげたい」との思いから、業務の効率化に役立つICTの活用に強い関心を持っていた。

元々は、介護現場担当と人事・教育担当という畑違いの2人だったが、選定にあたっての決意は一致していた。

「埃をかぶるようなシステムには絶対にしない」

「現場が主役」 妥協をゆるさない姿勢

欣彰会では、介護記録・介護請求システムの記録に大きなこだわりを持っていた。

介護請求のためだけでなく、入所者やサービス利用者のきめ細かなフォローを行うための大切な情報の塊だった。

「それこそ記録する項目の順番にもこだわりがありました。また、機能分類の考え方、リスクの考え方などわれわれが長年にわたり、独自に取り組んできたことがあります。既成のパッケージ製品では物足りないところがたくさんありました。また、われわれが使わない機能もありますが、不必要な機能はないほうが使いやすい」と、山下部長は語る。

サービスを提供するのにあたって、家族構成や住所などの基本情報、利用者の健康状態や身体の状態などの調査したしたうえで、ケアプランを作成するが、聞き取りの内容などに独自の方法をとっていた。例えば、国の仕様にある「一部介助」「全介助」といった介護レベルの分類についても、利用者の状況を正確に把握するためより細かく分類して記録し、提供するサービスを判断する材料にしていた。

コンピュータは使われなければ、ただの箱だ。「その道具を活用して何が必要なのか?」「導入することで何が変わるのか?」「実現するとどんなことが魅力的なのか?」。自分たちだけで考えるのではなく、現場の人に聞き取りを行い、4施設25事業所に要望をできるだけ多く上げてもらった。

現場の方々が積極的に参加し要望を出していった

現場の方々が積極的に参加し要望を出していった

二人の熱意が各事業所に伝わり、各事業所が要望を上げて行く過程で、各事業所のメンバーが本気で何が必要なのか?何を変えたいのか?魅力的な施設とは何かをこれまで以上に真剣に考えるようになった。まさに主役は現場に移った。
山下部長の現場で培った信頼関係も大きかった。

「システム化する以上、2度、3度同じ入力をすることは避けたい。記録の連動が確保されるのか?」「4施設25事業所共通で使えて、情報連携が可能か」とか、「現状の事業所のネットワーク環境を改善したい」等様々な要望が集まった。その要望をさらに仕様に近いところまで具体的に詰めていった。整理すると、要望の数は100項目にも上った。

業者の選定も慎重に行った

要望をすべて反映できるシステムはあるのか。絶対に折れたくないポイントだ。検討の遡上にのった12~13社のシステムは5社に絞り込まれた。基本システムはありながらも、職員のだれもが使えるようにカスタマイズしてお仕着せでない、自分たちが必要なシステムを構築したい。その思いは業者も動かした。

プロポーザル、2次審査、現場職員を含めた選定委員会…。3つのハードルを乗り越えた1社が選ばれたのは、作業に入ってから1年が経過したのちだった。100項目の要望をクリアしたシステムだった。
具体的な話の段階では、「藤永主任が本当によく動いてくれた。彼女の動きがなかったら到底ゴールが見えないような仕事だった」と山下部長は振り返る。

導入は、勉強会!確認!勉強会!

職員全員に、システム全体の構成や個々の操作方法、機能説明が十数回に分けて行われた

職員全員に、システム全体の構成や個々の操作方法、機能説明が十数回に分けて行われた

システムがほぼめどが立つと早速職員全員への勉強会の準備が始まった。2019年10月、導入の半年前だ。藤永主任は、職員が安心して導入できるように各拠点を走り回った。
現場の職員も自分たちがつくりあげるという自負もあり、積極的に協力した。

さらに、「リコージャパンの川上さん(※お客様のプロジェクトが予定通りに稼働することを支援する役割)が素人の私にハード、ソフト、WiFiの知識もわかりやすくアドバイス、マニュアル化のお手伝いまでしてくださった。勉強会を行うにあたって、素人の私がわかるというのが一つの目安でした。また、個人情報保護のためにUSBの禁止等のチラシを作成して準備してくださった」(藤永主任)

そうして実際に使う現場の人にレクチャーを開始した。途中で新型コロナの影響で勉強会もリモートに切り替えた。
受講者にも、自分たちの成果の確認と習得というお仕着せでない楽しさがあった。
教育することで、習得レベルの差や理解度の差が生じる。そのために教育プログラムの修正も行った。そしてまた教育して確認というサイクルで教育の質を高めていった。

いよいよ本格導入

お互いに教えあいながら急速に利用が広がった

お互いに教えあいながら急速に利用が広がった

2020年4月1回目のカスタマイズを行い導入、実際の仕事に活用を始めた。そこで出てきた使い勝手や要望に優先順位をつけて、優先度の高いものを変更し、優先度の低いものは様子を見た。そうすると優先度の低いものは習熟度によるもので変更が必要ないものもあった。そうして、2020年6月2回目のカスタマイズを行い、本格導入となった。
もちろん通常業務と並行しての新システム習得と実践、新型コロナ対策の実施中という通常より神経を使う中でのスタートだった。最初の3ヶ月はおそらく残業時間も増えたと思った。

期待以上、いや想像以上の結果だった

入居者の情報を見ながら確認しあう

入居者の情報を見ながら確認しあう

「ひとつ心配だったのは、年配の職員が果たして新システムに馴染んでくれているだろうか?困っていないだろうか」(藤永主任)。
杞憂に終わった。イキイキ使ってくれていた。「だって今まで紙でやっていたことがそのまま載っている!」というのが感想だった。

そして当然増えると思った残業時間が8月末の時点で20%も削減出来ていた。導入までの時間をかけた教育の成果と、それ以上に現場の人たちが、自分たちが創ったというモチベーション、期待以上、いや想像以上の結果だった。

藤永美砂子主任が、求職者向けに、「働きやすい職場環境づくり推進」の中で「今回の制度化した取り組み」を説明

藤永美砂子主任が、求職者向けに、「働きやすい職場環境づくり推進」の中で「今回の制度化した取り組み」を説明

それに、採用面でも、 「面接にのぞむ人は、安心して長く働けることを前提として、様々な働き方のイメージを持っています。
その中で、介護保険の請求業務はもちろんのこと、入所者やサービス利用者に対して決め細かなサービスを行うためのシステムが用意されています。
忙しい中でタブレットを利用して、入力も出来、手書きもできるということを話すと、目を輝かせて聞いてくれます。
面接した方の反応が大きく変わりました。」(藤永主任)。

やはり、欣彰会のデジタル革命は理事長の一言から始まった、と言えた。

今では、現場で、普通に使用されている

今では、現場で、普通に使用されている

事業概要

事業所名

社会福祉法人欣彰会

所在地

埼玉県さいたま市見沼区片柳1298

電話

048-686-2611

設立

1985年7月1日

従業員数

360人

事業内容

特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、ケアハウス、デイサービス、ショートステイサービス、居宅介護支援事業などを展開

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