事例集

2020.11.05 06:00

「事故を起こさない!」が最重要事項。 IT点呼は、働き方改革と無事故のための必須ツール

株式会社内藤物流
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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


「会社として大事にしている事は?」静岡県浜松市の食品運送会社、内藤物流の内藤彰俊社長にこの質問をぶつけると、真っ先に返ってきたのは、
「事故を起こさない!」。
いろいろな答えが出てくる、と思ったらこの一言だった。

「事故を起こさない!」の言葉に込められたのは何なのか。

顧客からの時間指定、食品物流は早朝に届けるという厳しい職場環境。しかし、無理をして事故をしたら全てが無になる。影響するのは、その仕事だけではない。巻き込んでしまう人や会社、本人の身体と支えている家族にも及ぶ。さらに会社の信用は失墜し、場合によっては会社の存続が危ぶまれる場面にも直面する。そうした最悪の事態を防ぎたいからだ。

運送会社にとって「事故を起こさない!」という事は当たり前である。この当たり前のことを徹底すること、それが重要であることを改めて認識させられた。

がむしゃらにやってきた20年

内藤彰俊社長は、「『居心地のいい会社』を目指し経営してきた。『居心地がいい』とは『ゆるい』という意味ではなく、なるべくストレスをためず、長く働けるということです」とホームページ上で語っている

内藤彰俊社長は、「『居心地のいい会社』を目指し経営してきた。『居心地がいい』とは『ゆるい』という意味ではなく、なるべくストレスをためず、長く働けるということです」とホームページ上で語っている

1990年、中古のトラック2台を購入し、父親と2人で始めたコンビニエンスストア向けの配送業。30年が経過した今では、トラック70台、浜松市内3カ所に冷凍倉庫を持つ規模にまで成長を遂げた。365日24時間体制で西は愛知県一宮市、東は静岡県沼津市まで静岡県を中心にコンビニエンスストア店舗に食品を配送する。コンビニ依存だった経営体質から脱却を図るため、地元の飲食店やスーパー、ドラックストアにも取引先を拡大。運送だけでなく、冷凍倉庫を持ったことで品質管理面からの取引先からの信頼も高まっている。

「創業からの20年は、がむしゃらにやってきました。真夜中に電話がかかってくることもよくありましたよ。ようやく後進も育ってきて、次のステップを目指せるようになりました」。こう語る内藤社長は2020年4月、自身が理想とする「安心して働ける会社」づくりへの新たな一歩を踏み出した。

「安心して働ける会社」をつくる

内藤物流では、従業員の勤務日数を減らし、年間の休日日数を17日増やし、休日を122日に設定した。長時間労働に陥りやすいドライバーの職場環境の改善にいち早く取り組み、大手企業並みの就労環境を整えた。「運送業では、現行で労働時間と休憩時間を含め月間293時間までドライバーを拘束できるのですが、それではまだ多い。ドライバーの数を増やして240時間まで減らすことを目標にしています」と語る。

人手不足が深刻化する中で、求人数が大幅に増加。内藤社長流「働き方改革」は、雇用面でも大きな成果を上げている。

「安全な運行体制を構築することは運送業者にとって最も気を付けなくてはならないことです。一杯一杯で仕事すると、事故につながりかねません。余力があれば、注意力も高まりますからね。

労働環境の改善に取り組むのも安全な業務を継続するためです」と内藤社長は語る。2017年には、運行管理者の負担を軽減するため、「IT点呼システム」を導入した。

遠隔地からドライバーを「点呼」。運行管理者の負担軽減

運送業者は、ドライバーの乗務前後に点呼を行い、健康状態や酒気帯びの有無などをチェックするよう法律で義務付けられている。点呼をするのは運行管理者の資格者で、運行管理者はドライバーに安全確保のために必要な指示を行うよう求められている。内藤物流には、コンビニ配送を行うトラック5台規模の小規模の営業所があるが、その営業所にも24時間体制で運行管理者を置いていた。深夜時間帯では、点呼のためだけに管理者が出社することもあった。

IT点呼システムでは、パソコンとWEBカメラでインターネットを通じて、運行管理者と離れた営業所にいるドライバーがテレビ電話のように相手の顔をみながら点呼を行う。運転免許証を確認する読み取り装置やアルコール検知器とも連動しており、遠隔地から即時に免許証の確認やアルコールの検知結果を確認できる。

内山定男課長は、運転手の安全管理を一手に引き受ける

内山定男課長は、運転手の安全管理を一手に引き受ける

内藤物流では、コンビニ店舗向け配送業務の中心時間帯に出退勤する未明の午前3時から午前中にかけてIT点呼を活用している。規模の小さい営業所の点呼を多くのドライバーが出退勤する営業所が担当。「その結果、規模の小さい営業所での運行管理者のローテーションを軽減することができました」と、IT点呼導入の責任者である内山定男課長は説明してくれた。1カ月当たり約300時間の労働時間を削減できた。

運行管理者の資格を持つ社員は限られており、出勤者の急病などでローテーションに穴が開き、点呼のためだけに休日出勤しなくてはならないケースも起きていたが、勤務体制に余裕を持つことができたと評価している。

「事故を起こさない」は、社会的責任

IT点呼はすべての運送業者ができるわけではなく、運送業務の安全対策について一定の基準を満たした「安全性優良事業所」の認定を受けた運送業者にだけに認められた制度だ。IT点呼の導入を可能にしたのは、「事故を起こさない!」という安全に取り組む日ごろの姿勢が表れた結果でもある。

運送業には、事故のリスクが常についてまわる。会社やドライバーがちょっと気を抜いたことが原因で重大な事故に発展した例は枚挙にいとまがない。もし無理を重ねて事故を起こしたら、全てが無になる。

酒気帯びの有無はもちろん、車を停車させる際の輪留めをしっかりと行っているか、交通法令はしっかりと順守しているか。ドライバーへの教育を含め、最新の注意を払ってリスク管理することが求められる。ただ、管理を徹底すれば、するほど効率化は難しくなる。その穴を埋められるのはICTの技術だ。

内藤物流では、自動ブレーキを搭載したトラックの導入にも積極的だ。「商品の配送ルートはドライバーの経験に任せているが、自動的に最短・最速の配送ルートを導き出してくれるシステムができればぜひ導入してみたい」と内藤社長は今後の技術の進展にも期待を寄せている。安全を担保しながら、いかに効率化を進めていくか。内藤物流の取り組みをみていると、運送業界におけるICTの開発余地は極めて大きいと言えそうだ。

企業概要

会社名

株式会社内藤物流

本社

静岡県浜松市東区笠井新田町1556

電話

053-431-5566

設立

1992年11月

従業員数

270人

事業内容

コンビニエンスストア、ドラッグストア、スーパー、飲食店などの店舗への食品配送、物流センター運営、営業倉庫事業

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