事例集

2020.10.08 06:00

介護を明るくするパワー、それは働く人の笑顔 グループウェアが支える職員間のコミュニケーション

老人ホームと保育園が広場を挟んであるので、自然と交流が生まれる。
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フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


「かかわるすべての人を幸福にすること」を信条に活動している社会福祉法人至福の会の大野裕明理事長を取材して感じたのは、働く人の話が多いということだ。入所者を第一に考えることはもちろんだが、働く人がハッピーであれば、入所者も気持ちよく施設を利用できる。そんな当たり前のことを実践している。

笑いが絶えない大野裕明理事長

大野理事長は25歳の時、「どうせやるなら人に喜ばれる仕事」と福祉の仕事を選んだ。1997年に特別養護老人ホーム、ケアハウス、ショートステイ、デイサービスセンター入曽、在宅介護支援センターを開設。2013年には、働く人のために、むさしの園カレッジを開講し、入所者に頼りにされるスタッフの養成教育にも乗り出している。組織にとって教育は最優先する課題だが、わざわざ研修センターを作って実施する施設はまだ少ない。

さらに2017年には、小さな子供を持った職員のために企業主導型保育園 ひまわり保育園を開園。その後、地域の要望にこたえる形で、一般の認可保育園も設立した。保育園の園児の遊ぶ広場と入所者の憩う場所が同じなので、入所者にとっては癒しの場でもある。

事業が拡大…上司が捕まらない!

「事業の規模がまだ小さかったころはよかったのですが、事業の規模が大きくなると、だんだん誰が何の仕事をしているのかが見えにくくなってきました。職員が管理職に会おうとしても、出かけていて捕まらなかったり、管理職で会議しようとしても日程調整に時間がかかったり。そんなことが起きて、業務に支障が出るようになっていたのです」と大野理事長。

規模が拡大し、職員が増えると、コミュニケーションが希薄化するのは組織の常だ。至福の会でも、責任者やスタッフはそれぞれの施設に常駐するようになると、業務連絡や稟議書の承認、書類の決裁などに時間を要するようになってしまった。

そこで施設間のコミュニケーションを密にしようと、「グループウェア」導入に踏み切った。

グループウェアの導入で無駄な仕事が減り、意思疎通も活発化

グループウェアは組織内のネットワークを活用して情報を共有するシステムだ。スケジュール管理や施設予約、掲示板、文書管理など社内コミュニケーションの活性化や業務の効率化に役立つさまざまな機能がある。

理事長を組織やシステム面でサポートする大野裕一本部長

「まずグループウェアにリーダー以上の管理職や役員のスケジュールを入力するよう義務付けました」と、語るのはシステム導入の先頭にたった大野裕一本部長。それぞれの管理職が入力したスケジュールは、グループウェアを利用する管理職・役員全員のほか職員も閲覧できる。今、責任者がどこいるのか、何時になれば直接連絡できるのか、あるいは相談できるのか、グループウェアを事前にチェックしておけば、ちょうどいいタイミングに連絡をとることができる。「管理職のスケジュールを『見える化』したことで、打ち合わせなどの日程調整がやりやすくなった」と大野本部長は語る。

さらに会議の資料や議事録などもグループウェアで管理・閲覧できるようにしたほか、稟議書の決裁などのワークフローやプロジェクト管理にもグループウェアを活用するようになった。「もう会議で印刷した資料を配布することはありません。議事録もパソコンで確認してもらいます。グループウェアを導入したことで、大部分の作業でペーパーレス化できました」と胸を張った。現在、250人の職員のうち50人ほどが常時グループウェアを利用しているが、現場の職員も常時閲覧しアクセスできる環境を整えている。

大野本部長は「プロジェクト管理では、それこそ、新型コロナウイルス対策や働き方改革などさまざまなプロジェクトを立ち上げ、対策を検討しています。働き方改革のプロジェクトでは、グループウェアを通じて現場の職員にも意見を募っています。現場からもいろいろな意見が寄られて、上司と部下のコミュニケーションもずいぶん活性化してきました」と目を細めた。

「働き方」にも好影響…ICT導入がもたらす効果は一人一人の活性化と無駄の排除

グループウェアの活用は職員の「働き方」にも好影響を与えている。

日程調整や資料の印刷作業などで職員が会議の準備にかける時間がなくなっただけでなく、会議そのものの数も減らすことができた。「ただ文書を読み上げるだけの会議というものも多かったのですが、そういうのはやめました。グループウェアの資料をみれば済みますから」と大野理事長は語る。

職員の離職率の高さは、社会福祉業界全体の大きな課題だが、至福の会では、2年前に比べ、離職率が大幅に改善。若い職員の採用も増え、求人コストの低減にもつながっている。グループウェアだけでなく、タブレットや見守りセンサーの導入。YouTubeInstagramなどSNSも活用している。こうした積極的なICTの活用が、職場環境の改善に寄与している。「法人に関わる全ての人を幸福にすること」を目指す至福の会の取り組みは、持続可能な高齢者福祉社会を構築するうえで大きな参考になりそうだ。

新たな取り組みは、施設の在り方を大きく変える可能性

隣の森の自然を満喫しながらのリハビリロード

最後に、入所者への取り組みで、昨年、リハビリ用のトレーニングロード「リハビリロード」を設けた。保育園に隣接する広場の外周にある120メートルほどの歩行路で、砂や砂利、段差のある石段や階段などちょっとした障害物がある道だ。

前の赤い服の方は2ヶ月前に骨折したが劇的に回復した

この道が造られたのは、大野理事長がたまたま入院したときに病室に閉じこもり、外に出たくても出られなかった苦い経験がきっかけだった。「入所者のみなさんも外で安全に運動したい! という気持ちを持っているはず」と大野理事長。

負荷がかかる道を歩くことで日常の訓練と自然の中で活動する喜びを感じてもらう。そんな工夫がほどこされている。実際、2カ月前に骨折した高齢の入所者が、手すりにつかまってリハビリロードをすいすいと歩く姿は、至福の会の新たな可能性を感じさせた。

企業情報

会社名

社会福祉法人 至福の会

所在地

埼玉県狭山市南入曽1044-1

電話

04-2965-7770

設立

1997年3月

従業員数

250人

事業内容

特別養護老人ホーム、ケアハウス、ショートステイサービス、在宅介護支援センター、ホームヘルプサービス、デイサービスセンター、認可保育園などを運営

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